参政党とエドワークスについての考察 ~国政政党は民間企業から何を得るか~
はじめに
2022年11月22日、参政党は、国政政党として100%出資する「株式会社エドワークス」 (以下 エドワークス)の設立を発表した。
設立発表のプレスリリースでは、「志をともにする仲間とビジネスができる場として「現代版ビジネス寺子屋」と称したオンラインサロンを運営し、党員の政治活動とビジネス活動を繋ぐ事業展開を行います」と説明している(1) 。
実のところ政党がビジネスに携わるケースは国際的に珍しいわけではないが、多くは文化メディア事業や民生関連事業が中心で、その経営は必ずしも営利目的によるものではない(2) 。
だが、参政党の神谷宗幣副代表兼事務局長は同日の記者会見において、「営利も考えながら活動する」と、営利が目的の一つであることを明言した(3) 。
参政党はなぜ政党としては珍しく、営利目的の株式会社を設立するのか。
記者会見で神谷氏が目的として挙げたのは、
等である。だがどれも抽象的な説明に過ぎない。
また神谷氏は、党の公式動画では「党の契約主体の設立」を目的の一つとしている(4)が、これも「なぜ一般社団法人や一般財団法人ではなく株式会社なのか」という説明としては不足している。
本稿では、参政党がエドワークス設立によってどのようなメリットを得られるのかを考察していく。
なお参政党やエドワークスを扱った文献は、それらが注目され始めたのが昨年になってからという事情もあり、大きく制約がある。そのため筆者の推測が多々含まれる、あくまでも論文風の考察であることをお許しいただきたい。
1.党運営の資金確保
株式会社設立による効果の第一が、党運営や選挙対策の資金獲得であることは間違いない。
例えば台湾の政党「中国国民党」は、党の営利事業である「党営事業」からの上納金が、党財政の80%以上を占めていたといわれる(5) 。
またマレーシアの「統一マレー人国民組織」は多数の企業を系列に持つが、これには選挙資金を始めとする政治資金を自前で恒常的に稼ぐ狙いがあった(6) 。
実際、神谷氏はエドワークスの利潤を党の運営資金に充てることは否定していない。またエドワークス代表取締役のCEO氏は党の動画において「株式会社だから、全てが参政党に流れる仕組みになっている」と明言している(7) 。
以上の通り、エドワークスの事業を通じて獲得した利潤で、党の資金を潤沢にする狙いはまず存在すると思われる。
2.党員のガス抜き
前掲の動画内で、神谷氏は極めて興味深い発言をしている。少し長いが引用する。
実際、党の様子を観察すると、党員としての活動は勉強会等のイベントへの参加や、選挙時のボランティア活動等が大部分を占めているようであり、必ずしも党員が党の運営に日常的に参加できるわけではない。
だが党は以前から、「普通の国民が…自分たちで党運営を行っていきます」 (8)と、党員の運営参加を党の宣伝材料をしている。
そのため、このキャッチコピーに惹かれて入党した党員が、「イメージと違う!」と不満を溜めていることは容易に想像できる。
これらを踏まえると、神谷氏がエドワークスを利用して、党運営と無関係な領域で党員に自由に活動をさせることで、運営に参加できない「不満分子」のガス抜きを図ろうとしていることは、間違いないと思われる。
3.党ができない支出の実施
総務省によれば政治団体は、団体に係るすべての収入、支出及び資産等の状況を記載した収支報告書を提出しなければならない(9) 。そのため参政党も、一定の収支については公にしなくてはならない。
他方、特に非上場会社については決算公告を出さなくてもお咎めなしになっている(10)等、政党と比べ情報公開の義務が緩やかである。
そのため、党では大っぴらにできない支出も、エドワークスを通じて国民に知られることなく実施することができる。
例えば、「他党の関係者への資金援助」や「党の資金の党幹部個人への還流」も、エドワークスを使えばいくら行っても有権者に発覚することはないのである。
4.利益配分による支持者の団結強化
参政党は会社の設立によって、様々な政治的・経済的資源を新たに獲得した。ここでの資源としては松本を参考にすれば、以下のものがある(11) 。
党はこれらをその内外の支持者に分配することで、党員には忠誠、党外の支持者には選挙での支援を求められる。いわゆる「クライエンテリズム」である。例えば以下のような事例が考えられる
これらの利益誘導を通じて、党は党員の団結と、選挙での勝利のための資源をさらに得られるようになるのである。
終わりに
以上の通り、エドワークスの設立は参政党にとって、複数の利点があることが分かった。
だが果たして、国政政党がこれらの利点を得ることに正当性はあるのか。
例えば3は「政治資金の透明化」という、民主政治に不可欠な要素に逆行する。
また2、4については、「党員の、党の運営への参加抑制の正当化」「党員の党幹部への服従の要求」を通じて、本来自由な活動を保証すべき党員に対し、党中央による統制を強化する恐れがある。
何よりも、本来公共の利益を集約・促進する役割を持つ政党が、「利潤の追求」という私利私欲に走る懸念は払しょくできない (「日本のための経営」というお題目を鵜呑みにできるほど、筆者はおめでたくはない)。
無論、これらの懸念は現時点では可能性の範疇に留まるし、エドワークスの事業も本格稼働は今年からである。
だがこれらの懸念は本当に杞憂に過ぎないのか。
日本の主権者である我々としては、民主政治のアクターたる国政政党・参政党が、民主主義を傷つけることなく事業経営を行うのかどうか、注意深く監視しなくてはならない。
※註
(1) アットプレス 2022/11/22 「参政党がCEOセオを代表とする株式会社エドワークスを設立! オンラインサロン「現代版ビジネス寺子屋」を運営」https://www.atpress.ne.jp/news/335951
(2) 松本充豊「中国国民党「党営事業」の研究」(アジア政経学会、2002)、4~5頁
(3) 参政党【政党DIY】「【LIVEアーカイブ】参政党 会社設立発表・定例記者会見 2022/11/22 16:00~【生配信】」
https://www.youtube.com/watch?v=JFGVNbjOO60
(4) 参政党【政党DIY】「【一人語り】「現代版ビジネス寺子屋」参政党設立のエドワークスってどんな会社??なんで会社を立ち上げたの!? 神谷宗幣 #059 」
https://www.youtube.com/watch?v=cyr6L21upZU
(5) 松本、前掲書、4頁
(6) 小野沢純「転機に立つマレーシアのUMNO系 ブミプトラ企業群」
https://iti.or.jp/kiho45/onozawa.pdf
(7) 参政党【政党DIY】「まずは1万人!仕事を与えられるのではなく作る場所へ!エドワークスこそ、「DIY」です。【DIY cafe CEO】#084-02」
https://www.youtube.com/watch?v=zDa5aECAFGc&t=448s
(8) 参政党公式HP「ABOUT SANSEITO 参政党とは」
https://www.sanseito.jp/about/
(9) 総務省「なるほど!政治資金 政治資金の規正」
https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/naruhodo01.html
(10) THE ORNER 2022/5/22 「非上場企業の決算内容が知りたい! どうやって調べればいい?」
https://the-owner.jp/archives/9259
(11) 松本、前掲書、165頁及び242頁
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?