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自分のルーツが気になるお年頃

「ママサンアン」しておいで。

祖父母宅の仏間には、セピア色した先祖代々の写真が所狭しと並んでいる。小さい頃からの見てきた私にとっては当たり前の光景。

冒頭の謎の6文字は、おばあちゃんちに行った時のルーティン「お仏壇に挨拶しておいで」の略語、何度となく耳にしてきた一族のコードネームみたいなものである。

手入れされたお仏壇には、四季折々のお花とちびっ子にはたまらないお菓子が鎮座しており、もちろん勝手にぶんどることなど御法度だ。「ママサンアン」した後、有り難く頂戴するのが一族の孫達に課せられたルールなのである。

賑やかな居間と違って、湿っぽい冷ややかな仏間での「ママサンアン」は、ちょっとした勇気も伴う。夕食の支度が始まる逢魔が時なんぞは、仏間への足取りも重い。でも、「ママサンアン」は絶対なのだ。

今でこそ仏前での作法も心得ておるが、小さな子どもには難解である。とりあえず、大人達の真似をするまでだ。綺麗な音が鳴る器を傍らの小棒でこつき、何やらブツブツつぶやいて、最後「ママサンアン」という。頭上や背面から感じる視線に気付かないふりをして足早にその場を立ち去る。コードネーム「ママサンアン」任務遂行である。

お恥ずかしい話、46歳にもなった今でも仏間に並んでいたご先祖様の名前と顔が一致しない。一致しないどころか知ろうともしてこなかったので、「君の名は」みたいな奇跡は起こしようもない。ただ1人、親戚の集まりで伝説のヒーローみたいに語り継がれている「かめよ」ばあちゃんを除いて。

つづく。



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