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執筆実績:自然エネルギーの普及には必要不可欠! スマートグリッドとは何か?

これも提出後、未公開状態だったため、こちらで公開させていただきます。
記事を依頼した後に状況が変わったなど、わかってはいるのですが、いろいろと調べて書いた記事が、提出後に使用されない(特にダメだった等のフィードバックもなし)のは悲しいものですね。

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 スマートグリッドという言葉を聞いたことがある方も多いのではないかと思いますが、スマートグリッドとはどのようなものかご存知でしょうか?
 アメリカのオバマ前大統領が環境対策に特化したグリーンニューディール政策の一つになったことでも話題となりましたが、スマートグリッドとは何かを正しく理解できている人は意外と少ないのではないかと思います。
スマートグリッドとは何かを海外の実例も用いながら解説します。

東日本大震災以降に「独立した送電網」の必要性が浮上
東日本大震災が発生し、大規模停電が長期間続くという異常事態が発生したことを経験された方もいらっしゃると思います。それに加えて福島第一原発が津波被害を受けてメルトダウンを起こしたことで、電力を一か所で集中して発電し、各地へ大きな送電線で送電するという電力供給に疑問が投げかけられました。
 原発や火力発電所が停止していた状況下では、被災していない東京電力管内でも計画停電を行うなど電力需給の不安定な状態となりました。
 こうした状況は、電力の供給を電力会社だけに頼ってきたためだという意見が出るなど電力会社にとっては厳しい状況になりましたが、これがきっかけで太陽光発電やマイクロ水力発電など、電力会社からの電力供給とは別に、独立した発電を行う小規模発電設備に注目が集まりました。
 太陽光発電設備はその後、電力会社への電力売却単価が高く設定されたことで、採算が取れる状態となったため、各地で商用太陽光発電設備の建設ラッシュが起きたことを覚えている方も多いのではないでしょうか?
 これらの状態は東日本大震災で、絶対に起こらないと説明していた原発事故が起きてしまったことで電力供給への不安から、徐々に「独立した発電設備」が建設されていったことで起きたことになります。
 こうした独立した発電設備を相互に接続し、電力の足りない所に給電するといったことができるようになれば、より一層効率のよい電力供給が行えることになります。
逆に太陽光発電設備などは、夜間は発電ができないため、電力会社からの電力供給を受ける必要があります。
このような状況に応じて、この箇所には今給電する必要があるか、発電した電力を送電する必要があるかといった判断を送電ネットワーク全体で行い、電力の需給を制御し、今までのような電力会社からの一方通行の送電ではない送電網のことをスマートグリッドと言います。
 それは今までのような送電網は電力会社の一部というものではなく、独立した電力の卸売市場のような役割を果たすものとなります。

スマートグリッドをさらに発展させたスマートコミュニティ
 スマートグリッドは送電線網の発展形ですが、そのスマートグリッドを活用したさらなるエネルギーの効率化を街全体で目指す社会がスマートコミュニティです。
 これは経済産業省がエネルギーの効率化を目指す完成形としてスマートコミュニティ構想の中で提唱したものです。
 この中には、太陽光発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーからスマートグリッドも活用して電力の効率利用を行うのはもちろんのこと、オフィスビルの省エネや一般家庭の省エネも含めて街全体で省エネを行うというものです。
個別で省エネを行うことも重要ですが、電力の需給は一か所で制御を行うことでより、大規模な電力制御を行うことができます。
それによるメリットは、電力を要求している箇所からより近い発電設備から給電することができるため、電力を送電する距離が長くなるとその分送電損失が大きくなる傾向がある電力供給にとっては省エネとなります。
電力を要求している箇所に近い発電設備が複数あれば、そこからの給電でまかなえてしまい、遠くにある電力会社の発電所から送電された電気を使う必要が無くなります。しかし、電力会社の電気が必要なくなるというわけでなく、そうした発電所でまかないきれない電力をカバーするバックアップとなります。
こうした制御を街単位で実行し、電力の需給を総合的に管理する電力管理センターを設置する構想がスマートコミュニティ構想です。
このスマートコミュニティ構想は、電力だけにとどまりません。電力の需給と合わせて交通システムを管理して電気と同じエネルギー消費の激しい交通渋滞などのコントロールも行うことも目的としています。
スマートコミュニティは、省エネを装置単位で行うよりはより大規模な単位で行う方が全体効率を下げ、社会全体でエネルギー効率を上昇させ、温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーの普及により、地球環境に優しい社会をより具体的なものとするための目標であるということができます。

海外のスマートグリッド普及状況
 スマートグリッドは、以前よりは普及してきたと言われていますが、未だに送電線網は電力会社が所有し、全面開放には決定されていない事項も多く、まだまだ道半ばと言えます。
 既存の送電線網も、近年の太陽光発電設備の乱立により、送電線の容量を上回ってしまうような地域も出てきました。その場合に発電した電気を送電線と接続することができなくなってしまうといった事例も出てきており、スマートグリッドは制御の難しさが際立ってきております。
 あまり、いい加減な発電設備の接続を行うと、周辺地域への瞬間停電や送電電圧の変動、容量オーバーによる送電設備の故障などが発生し、取り返しがつかなくなります。
 電力の安定供給を行うことと相反してしまうことが起きてしまうのですが、再生可能エネルギーの電力系統への連携は行わなければならない、非常に難しい舵取りが取られることになります。
 このような状況のなか、海外ではどのような対策が取られているのかを見ていきましょう。

・アメリカの場合
アメリカの場合、日本のような電力会社の地域独占というわけでなく、電力市場がある程度自由な競争状態にあります。送電線を管理する会社と発電所を所有する会社が分かれており、それぞれの営利目的で使用者メリットを考慮したサービスが実施されています。その代わりに各地域に電力の品質を計測するシステムを設置し、アメリカ政府が監視するという体制を取っています。
 しかしそのデメリットとして、日本のようなバックアップ系統が整備されていないため、一か所で発生した故障が大きく波及してしまうことがあります。
 その影響を受けた事故が2003年に発生した北米の大規模停電です。この停電の原因はいまだにはっきりとしていないのも、日本のような一括管理する電力会社が存在しないことによるものだとも言われています。
 最近の事例では、北海道地震が発生した際に、多くの道内の発電所が緊急停止し、地震の被害を受けていない地域でも長期間停電が発生したという事態が発生したことが挙げられます。
地震発生時でなくても電力の需給バランスを見誤るとこうした事態に陥ってしまうという例といえます。

・中国の場合
 中国でもアメリカ同様に電力の品質を監視する拠点を設置して、電力品質の監視を強化しています。今後、より小規模な電力設備にもこうした監視拠点の設置を義務付ける方針が取られております。中国は発展してきたのが近年のため、電力品質自体が不安定な状況となっています。まずは電力の安定供給を実現することが目的となっています。

・欧州の場合
もっともスマートグリッドとして発展しているのが欧州です。
 欧州では、衛星を使用して電力の品質を監視する拠点同士のデータを送受信し、ほぼリアルタイムで送電網の状況を監視することで広域監視を実現しています。
 ドイツなどでも再生可能エネルギーに対する関心が高く、多くの小規模発電設備が設立されています。
 こうした小さな発電所が多く送電網に接続されると、電力の品質管理を行うためにより高度な需給制御が必要となってくると言えます。

まとめ
スマートグリッドは、再生可能エネルギーなどの小規模分散型電源を接続し、効率よく需要先まで届けることができる唯一のシステムであると言えます。
自然エネルギーによる発電が今後も普及していくためには、電力会社による需要予測を地域ごとで独立して行っていく必要があるでしょう。そのためには海外のスマートグリッド事情でも課題となっている電力需給の予測をより精度を高める必要があります。
その先には、電力を町全体、国全体でエネルギーの使用を最適化するスマートコミュニティがあるということも頭の片隅にも入れておくとよいでしょう。
それは言い換えると、今後エネルギーの効率的な利用を考えるには、既成概念にとらわれない独創的な発想が重要であるということができます。



参考文献
我が国におけるスマートグリッドの展望 (林泰弘 電気学会誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiej/33/8/33_561/_pdf
スマートグリッド技術の現状とロードマップ(NEDO再生可能エネルギー技術白書)
https://www.nedo.go.jp/content/100107277.pdf
再生可能エネルギー発電とスマートグリッド(河口修 三菱電機)
http://www.iblc.co.jp/column/029/
ドイツのエネルギー協同組合が直面する課題と新たな展開(寺林暁良 農林金融2016年7月号)
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1607re2.pdf


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