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ピアノ練習曲ブルグミュラーと「だれも知らない(知ってる)小さな国」

本文は平成30年(2018)にFacebookに投稿したものです。
有川浩さんがコロボックル物語を書くと知った日から2年後のことです。

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 ピアノの練習曲ブルグミュラー。
 バイエルは機械的な運指練習みたいですが、ブルグミュラーの練習曲は主題があって曲想があって「音」を「楽」しめるように工夫されていると思います。
 このブルグミュラー練習曲は25番までありますが、この総てをオーケストレーションした音楽家がいます。
 岐阜は各務原市の音楽家の平光保さんです。
 平光さんが師事したピアニスト山崎孝さんのコンサートで、山崎さんは喝采をうけてアンコール演奏をすることになりました。
 そこで飛び出てきたのが子どもの習う練習曲でした。平光さんは意表を突かれ驚くのもつかの間、その練習曲の美しさにはっとしたと云います。それにオーケストラをのせてみたい。

 平光さんが私に語ってくれたことがある。
 単純な練習曲の旋律にオケをどう組み入れますか。その旋律をちぎってあちこちパートに振り回したり、お手軽コードを使ったりしたらオケではたえられません。
 それは対位法ですよ。作曲に取りかかっていたときはいつも、どこでも対位旋律を探していました。あるときは愛犬の散歩中に着想し夢中で帰宅し一心に楽譜に落としていく。一段落して、あっ犬のことを忘れてた・・・・・そんなことを。体位旋律は、どの旋律をとっても主題となりうる複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いに調和して重ね合わせる音楽技法であり、旋律の重なり、和声の美しさに、私たちは魅了されてゆく。

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 そのオーケストレーションのできばえは、
「えっ、ブルグミュラーのピアノ練習曲にはオーケストラバージョンがあったんですか?」
 オーケストラバージョンを聞いたプロの音楽家の質問でした。その音楽家は、ブルグミュラーのオケバージョンが発見されたのかと感じたそうです。つまりブルグミュラー自身がオケ用のスコアを遺していたんだと思わせるほどの、自然で美しい仕上がりだったのです。

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 おっと、有川浩さんの
 「だれもが知ってる小さな国」講談社のことです。
 この本の原曲は、佐藤さとるさんの「だれも知らない小さな国」です。

この原曲を読んだときのことは、ここに書きました。↓ 
https://note.com/saintex/n/n25d102b45c73

 その上で、有川さんの、「だれもが知ってる」方の「小さな国」です。

 ネタバレにならぬよう中盤までの浩さんワールドのさわりです。
「ニンゲンハ、ジブンガ ミタイモノシカ ミナイ。オレタチガ、ミノルニ ヨクミツカルノハ、ミノルガ ナニモミツケヨウト シテナイカラダ」

 そしてハリーは、不敵に笑った。
 お父さんが言う男の優しさと、トシオさんが言う男の優しさは、絶対にちがう。
 トシオさんが、本当に悪人だったら、こんなに難しくない。
 ぼくたちは、腹を立てて、怒って、トシオさんをきらっていたらいい。
 勝手な人だし、迷惑だけど、根っから悪人じゃないから、困るのだ。
 たくさん、傷つきながら育ってきて、世の中をひがんでいるのだと分かってしまうから、憎むことができなくて、苦しいのだ。
 目に見えない誰かに、思いやりを持つということは、一体、なんて難しいんだろう。
 人には、それぞれ譲れないものがある。そしてぼくとヒメにとって、コロボックルは、絶対に譲ってはならないものなのだ。

 わくわくしながら読み進めたのに、ページをめくるたびに、
  懐かしいおもいに、
  優しいおもいに、
  大事な家族へのおもいに、
  大事な友達へのおもいに、
  友達以上の人へのおもいに、
  あるいはちょっと困った人へのおもいに、

 子どもの感性に、成長の過程の多感な感性に、大人のそして老人の感性に、仕合わせな甘酸っぱいものが涙腺を満たすのです。
 対位旋律「だれもが知ってる小さな国」は登場人物のヒコ(比古)とヒメ(比売)。
 登場人物設定の逸話も素敵だが、ヒコとヒメの織りなす物語が対位旋律です。
 対位旋律はよき主題「だれも知らない小さな国」があってこそ輝きます。
 勿論のこと主題もまたよき対位旋律があってこそ輝きを増すのです。
 輝きを増すのは互いに響き合うから。それぞれが主張を持ちつつハーモニーとなるのです。
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「有川さん、書いてみたら?」その一言で、奇跡は起きた。
 ぼくたちに、コロボックルを、ありがとう。
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 上は本の帯の言葉だが、それにも共感至極なのです。そしてかわらない村上勉さんの挿絵も素敵です。

 巻末に後書きではなく佐藤さとるさんから有川浩さんへの手紙が添えられています。最高の勲章ですね。

 転属で勤務地が那覇から各務原に変わり、小学2年生になった娘には誕生日に佐藤さんの「だれも知らない小さな国」を、また友人家族に招待されたときなど、そこのお子さんにコロボックルシリーズを、プレゼントしました。
 昔コロボックル物語を贈った友人家族に、有川浩さんの「だれもが知ってる小さな国」を贈りたいと思っています。いやコロボックルの輪の広がりを信ずるなら、上梓から2年半、もう読んでるんだろうな。

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