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24.3月チェロレッスン②:次のステップへ。

「夜、久しぶりだなぁ。3週間ぶりか。」

レッスン室に入ると、開口一番先生にそう言われた。
3週間ってそんなに久しぶりでもないと思うのだが、なんだかんだで先生とは毎週顔を合わせていたからな。

「確定申告は終わりましたか?」
私が聞くと、
「15日には終わったよ。年明けから少しずつ書類揃えるようにしていたからね。」
先生、得意げにVサインしてみせる…かわいい。
先生の家、物が多いからなぁ。
「えらいですね〜。」
と言ってあげた。

「ところで、お前んトコのオケ。大丈夫なのか?」
先生とウチのマエストロ、先日一緒に飲んだときに、マエストロはウチのオケを辞めるつもりだと漏らしたのだそうだ。

オケの私たちは、マエストロの口からハッキリとは聞いていないが、何となくそんな気がしていた。

「大丈夫ではないでしょうね。背伸びしすぎな曲ばかり選ぶから、嫌がられてるのでしょう。私もうんざりですもん。」
メンバーの高齢化が進んでいるのも、運営が苦しい原因の一つだ。

「以前センセが面倒見ていたアマオケ、良いなぁ。私はダメですか?」

先生、「う〜ん。」と難しそうに言う。

「ソッチ辞めてコッチ来る?もちろん構わないんだけど、活動曜日が夜が普通に仕事している日なんだもんなぁ。ただでさえ、お前は忙しいし。」

ああ、以前もそんなこと言われたな。
今すぐ転団を考えている訳ではない。じっくり考えようと思う。

           ★

バッハ無伴奏5番プレリュードのレッスン。

「まずは、3ページ目冒頭から、できれば最後まで弾いてみて。」

かしこまりましたっ!



一つ息を吸って、吐くタイミングで弾き始めた。

一気に最後まで弾いた…というか、弾けた。

先生、かすかに頷いた。

「音程、3箇所注意かな。
129小節目、183小節目、218小節目。」

はー。さすが。私が苦手なところをよく見抜いてくれる。というか、誰が弾いても難しい部分だと思うけど。

なぜ音を外しやすいのか、先生が弾きながら説明してくれた。その後、何度か私もさらう。
あとは家でじっくりさらってみるよう、言われた。

「それにしても。かなり練習してきただろう。よく弾けている。」

わお!先生が手放しでほめるなんて、珍しい。
私、思わずガッツポーズ。

「夜中しか練習できませんが。この3週間、がっつりミュートして、毎日練習するようにしたんです。」

「練習はいいんだけど。ちゃんと寝るようにしなさいよ。」
「はぁい。」
まるでお父さんみたいなことを言う先生。

「じゃあ、部分練習は今日でお終いだ。次回からは通しで弾くよ。引っかかっても、とにかく全部通して弾くから、そのつもりで。」

ようやく、ここまで来た。
最終目標は、引っかかりなく、滑らかに一つの曲として仕上げること。
強弱記号のない無伴奏、曲の表現も考えなければ。

「結局のところ、私に必要なのは集中力だと思うんです。途中、我に返ったとたん、弾けなくなります。長い曲を弾くのに集中力を持続させるコツはありますか?」

「夜からそんな質問をされるとは思わなかった。」と先生。
私は没頭すると周りが見えなくなるタイプだ。
でも、この曲に関しては集中力が続かない。

「そうだな…。1曲が長いソナタでも通常間奏があるが、この曲にはない。だから、ボクが最初に書き込ませた区切りの部分でちゃんとブレスすることかな。」

発表会でアダージョを弾いたときにも言われたな。
「…わかりました。意識してみます。」

           ★

「センセ。確定申告終わったんですから、家へ遊びに行ってもいいですか?」

楽器を片付けながら、私は聞いた。

「ああ、前にそんなこと言ってたね。」と先生。

「いいよ。ただ、ぜんぜん片付いてないよ。」
「ええ、知ってます。片付ける気もないんでしょう?」
「まぁね...。」ため息をつく先生。
「どこから手を付けたらいいのか、わからないんだよ。」
持ち物が少ない上に物に執着のない私には、理解できない。
別にわかり合いたいわけでもない。

           ★

帰り道、職場へ向けて車を走らせていたけれど、どうにも頭痛がひどくなってきた。

レッスンが終わってホッとして、どっと疲れが出たのだろう。

大人しく、自宅へ引き返した。

その日は久しぶりに練習を諦めて、早々に就寝したのだった。
練習のしすぎは、いけませんね。