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24.2月チェロレッスン②:"絶望先生"からの、復活。


自宅練習で時間があれば、オケで演奏するブラームス交響曲第3番のいずれかの楽章を、音源と合わせて通して弾くことにしている。

1楽章の最後の部分、弦楽器の嵐が去って、天から光が差し込むようなチェロのソロを弾く時なんか、チェロやってて良かった、オケやってて良かった、生きてて良かった!とさえ思えて泣けてくる。

           ★

前の生徒さんと入れ替わりにレッスン室へ入った。

「先日はお邪魔しました。」
先生に挨拶した。先生の家へ遊びに行ったのだった。
「お土産、ありがとう。」
と先生。

「あれから、ブラームスの"ヴァイオリンとチェロのための協奏曲"を繰り返し聴いています。改めて聴くと、カッコいい曲ですね〜。」
私が言うと、先生ニヤリとした。
「ああ、夜がボクに『ヴァイオリンにもオケにも負けていた』って言った曲ね。」

ドキリとした…つい先日、ソリストを務めた先生を、私はそう言ってディスったのだった…マズイ、根に持たれたか?

「スミマセン!大変失礼なことを言いました....。」
慌てて謝る私。
先生、椅子の背にもたれて言った。
「いや。ボクも思っていたことをそのままズバリ指摘されたから気になってるだけだよ。」
笑顔だが、目が笑っていない。
何だか雰囲気が先週までの“絶望先生”と違う…いつもの無双な感じに戻っている。

これは…私のカウンセリングが効きすぎたか?

今回のレッスンは荒れそうだ、と覚悟した。

           ★

最初にスケールを弾く。

前まで先生も一緒に弾いてくれていたが、いつの頃からか先生は拍を取るだけになっていた。


無伴奏5番プレリュード。
「ええと、どこまでやったっけ?」
「最後のページを見てもらって、音間違いを指摘されました。」
「そうか。じゃあ、5ページ目から。」

最初の6小節を弾いたところで、ちょっと待て、と止められる。
「182小節のトリル、重音のGはどこへいった?」
「あ…忘れてました。」
「Asに気を取られてるんだろう。ココはGとDの重音のほうが大事なの。やり直し。」
「…わかりました。」
最初に戻る。

最初から手厳しい。

二段目の最後でまたストップ。
「188小節のA。フラットからナチュラルに戻っているのに、音程が曖昧。適当なことするなっ。」

うう…鋭い。
アルペジオ的な弾き方をすると、ついつい流して雰囲気で弾いてしまう、私の悪いクセ。

三段目の最後でまたまたストップ。
「192小節のCから193小節Fisに飛ぶところ。ちゃんと狙い定めて飛ぶこと。」

ああ…なんとなく気にしていたことを言われてしまった。

私は音程を聞き取ることが苦手。

私の音楽との付き合いの始まりは、大学で何の基礎もなくオーケストラに飛び込んだところからで、ソルフェージュをまともにやってきてないためもあると思う。ピアノの経験もない。

フレッドのない弦楽器。チェロだと指板が左肩にあるので、指板が視界に入らない部分がある。なので、「この場所で、この音が出る」という感覚で弦を押さえている。

1ポジションはここ、2ポジションはここというように、私は場所感覚で音を出しているが、先生はその曖昧さがいけない、と言った。

「距離感覚だけではダメ。特に今のようにポジションが飛ぶ部分。
お前がいま必死になってやってるブラ3に、同じような部分はないか?」

「…3楽章。冒頭のチェロのソロ。3ポジションEsから7ポジションBへ飛びます。」
「そう、それ。弾くたびにBの音が違ってることはないか?」

う…その通りだ。

「どこで正しい音が出るのかを、正確に掴むこと。
音程はピアノで確かめてもいいが、弦楽器特有の音程があるから、できれば指板上で確かめなさい。
A線上の7ポジは指板で確かめようがないが、そのFisはD線1ポジションで音程を確かめられるだろう?何度も確かめて、音感覚を掴みなさい。きちんと狙って音を取りに行くこと。」

指板上に鉛筆で印を付ける人もいるが、私の先生はそれを許してくれたことがない。「身体が覚えないから」だそうだ。

先生には言っていないが、実はA線の6ポジションGの音が出る場所、黒檀製の指板に凹みがある。何度も弾いているうちにできてしまったのだ。触ると、そこがGだとわかる。A線上だけでなく、そういう凹みがG線にもある。


また、218小節のドッペルの音程も指摘されてしまった。

「Fisは拡張だから仕方がないとして、重ねるEsとCは普通の4ポジなんだからそこを起点としてFisを取れって、この前も言っただろう。」

まったくもう、と苦い表情で頭を掻く先生。
同じこと言わせて、すいませんッ。

「難しいのはわかってるよ。でも、やるのッ。
ココ決まんなきゃ、かなり格好悪いよ。」

仰る通りでございます…。

「それから、220小節のEs、3ポジだからどんな運指でもいいけど、絶対に音を外すな。ゼッタイだ。」

センセ...いくら熱くなってるからって、弓で人を指すのはやめてください。

「やっぱり、5番って難しいですね…。」
ぼやいた私に、先生が間髪入れずに口を挟む。
「ココまできて、今更ソレを言うか?ボクは最初に言ったよ。難曲だって。それをどうしてもやりたいって言ったのは、夜だよ。」

先生、完全に呆れている。
はい、はい。センセはちゃんと言ってました。
悪いのは私です。

「最後まで弾けるようにはなったんだ。通して1曲仕上げるよ。何度も言うが、コレをミスタッチなく、止まることなく通して弾くのは本当に難しい。でも、やるからね。」

はー、ココからが勝負か…なんかもう、3年くらいかかりそう。モチベーション、保てるかなぁ。

           ★

「ブラームスは何でチェロコンチェルトを作曲しなかったんでしょうね。センセの弾いた“ヴァイオリンとチェロのための協奏曲"なんて、チェロ協奏曲でいいでしょう。」

レッスン後の雑談。レッスン室を片付けながら私は言った。
先生も頷く。

「そうだねぇ。ブラームスはチェロ協奏曲を作っていないんだよ。シューマン先生が作ってるから遠慮したのかもね。」
「ブラームス、私が交響曲弾いてても明らかにチェロ好きって感じるのに。勿体無い。私はシューマンよりブラームスが好き。弾くのは難しいけれど。」
「シューマンは早くに亡くなったのに、ブラームスは結局クララと結婚せず、一生片思いだったもんなぁ。それだけブラームスにとってシューマンは偉大だったのだろうか。」
「クララに告白したけれど、振られたかもしれないよ?ブラームスはどういう立ち位置で生きていたのだろう。気になるな。」

先生とのこういう雑談は好きだ。作曲の背景を知ると、その曲の弾き方が変わることもある。想像するのも楽しい。

「では、また来週。」と言って、それぞれ帰路についた。


それにしても先生、先日私に抱きついて泣いていたというのに、この回復ぶりはどうだ。

今回のレッスン、めっちゃ怖かったんですけど!
帰り道からどっと疲れた。夕飯も食欲湧かなくて、体重1kg落ちていた。

やっぱりセンセは、私の天敵である。






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