さくら_金沢城

4月6日

4月6日は少し特別な日だった。

ライブの物販のアルバイトに行くために、街の中心街へ自転車を走らせた。アパートの近くの川に沿って走り、観光地を抜け、繁華街を糸を縫うようにゆっくりと丁寧に走る。

今日はどこもさくらが満開だった。
さくらの花が、ポップコーンのようにぽこぽこと弾けていた。
川沿いに綺麗に並んださくらも、街の観光名所の周りを囲うように植えられたさくらも、ひょんなところにぽつんと立っているさくらも、みんな会議でひそひそと相談して4月6日に咲こうと示し合せたんじゃないかと思うくらい一斉に咲いていた。

道中の大きな公園でイベントをやっていた。たくさんの屋台が並んでおり、多くの人で賑わっていた。
流れる小川のそばで裸足ではしゃぐちびっ子。ビールを片手に笑顔のお姉さん。出店に並ぶカップル。
そういえば、昨日行ったカフェのお兄さんが明日春まつりがあるって言っていたような気がする。お兄さんはわたしに、夕日の色について教えてくれた。夕日は、赤、オレンジ、青など毎日色が違うのだ。今日もあのニコニコのお兄さんに会えるかなと胸を弾ませたけど、時間がなくて敢え無くお店に寄ることを断念。泣いた。

そんなこんなで時間ぎりぎりでライブハウスにすべりこむ。知らないバンドだった。ライブハウスというとギャンギャンに激しく演奏しているイメージだったが、どうやら今日はアコースティックのバンドらしい。アコギの音色が耳に優しかった。エレキギターの電子的な音の良さはあまり分からないけど、アコギのぽろろんと鳴る音は好きだ。今日のぽこぽこと咲いていたさくらを思い出した。アコギの音色は、さくらと少し似ているなと思った。

ライブハウスを後にして、今日来た道と逆に自転車を走らせる。夜桜はまた違う雰囲気を醸し出していた。昼間に見たさくらよりも少しエッチだ。思わず見蕩れて、自転車をとめてアイフォンのカメラを桜に向ける。後ろから自転車がきたので、歩道の真ん中に止めてあった自転車を歩道の隅に寄せた。いい写真を撮ろうと色んな方向にアイフォンのカメラを向けてみる。確かにどこを撮っても綺麗なのだけど、なんだかしっくりしない。自分の技術のなさに問題があるのだと認めたところでカメラの画面を閉じ自転車にまたがった。すると、さっき後ろで自転車に乗っていたおじさんが、わたしと同じように自転車をとめて真剣な顔でアイフォンを桜の花びらに向けていた。ふと周りを見ると、夜のわりに家族連れがたくさんいる。まつりの帰りだろうか、わたがしを持った子供が近くできゃっきゃっとはしゃいでいた。

そこで、わたしは今日4月6日は特別な日であることに気づいた。