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仮名・匿名・源氏名等で名誉毀損が成立するのか

 最近特に多い相談は,インターネット上使用する名称(ハンドルネーム)でのみで活動していたところ,ハンドルネームを名指しされた上で活動を中傷された,源氏名を用いて実店舗で働いているが,インターネット上でスレッドを立てられ中傷された,というものです。これらの問題については,そもそも,社会的評価が低下したか否かという以前に,中傷が「その人」に対して向けられたものか,すなわち,「同定可能性」が問題になります。

 まず,仮名や匿名,源氏名だからといって直ちに名誉毀損が否定されるわけではありません。名誉毀損の典型は,実在する特定の個人に対する中傷ですが,本名ではなく芸名を使用している芸能人が中傷された場合,「(本名である)本人に対する中傷ではない」ことを理由に,名誉毀損が否定されるわけではありません。

 芸能人はもとより,作家,漫画家,クラブやラウンジ等のホステス,ホスト,コスプレイヤーなど,その名前で社会的に活動を行っていると言える人たちに関しては,本名を名乗っていないからと言って名誉毀損が成立しないとする理屈は成り立ちません。では一方で,そういった社会活動を行っているとまでは言えない,例えば,ブログやSNS,ゲーム実況など,インターネット上のみで活動を行い,インターネット上でのみ使用している名前,名称を名指しされた上で中傷された場合はどうでしょうか。

 かつて,インターネットを利用しているのは一部の人達に過ぎない,という考え方から,否定説もあったようですが,インターネットがこれだけ社会に普及し,インターネットを用いないで生活することはまずないといえる世の中であることからすれば,インターネット上のみで用いる名前であったとしても,一定の活動を行っていると評価できれば,それは社会活動として一定の法的保護を認める,といった肯定説の方が趨勢のようです。

 松尾剛行・山田悠一郎著「最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務【第2版】(勁草書房)」でも,「最近の裁判例は,ハンドルネームであっても,インターネット上でブログを連載する等,広義の社会活動といい得る活動を一定期間期間継続していれば,インターネット外での社会活動にそのハンドルネームを用いていなくても,同定を認める方向に舵を切り始めているように読める」(178頁)と言及しています。

 ただ,仮に社会的評価の低下が認められるとしても,その後の慰謝料請求についてどこまで認められるか,という問題については留意が必要です。名誉毀損の場合の慰謝料請求については,被害者の属性,被害者が被った不利益,名誉毀損内容の流布等様々な要素を考慮して判断されますが,ハンドルネーム等による名誉毀損の場合,ハンドルネームの「その人」に対する名誉毀損であって,本名である「その人」に対する名誉毀損とまでは言えないことには留意が必要です。

 ハンドルネーム等の名前に対する中傷であっても,そのハンドルネームでの活動に支障を来すことは当然想定されるところですが,実名である本人に対する名誉毀損の場合と比較すると,どうしても,精神的苦痛の程度に影響が出るように思われます。

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