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白土三平先生追悼ブログ 令和の時代にこそ読むべき作品

白土三平先生が逝去されたとのニュースに接し、この記事を書いております。

白土三平先生と言えば、やはり「カムイ伝」ではないかと思います。
江戸時代、被差別階級のいわゆるえた・非人階級に産まれた「夙の三郎」ことカムイは、虐げられて生きることをよしとせず、そうした階級社会から抜け出そうと忍びになるのですが、忍びの道もまた修羅の道、上役の命に従って人を殺めることの理不尽さに反発し、カムイは「抜け忍」の道を選びます。

「抜け忍」となったカムイが追手から逃げ、旅を続ける様が描かれているのが「カムイ外伝」です。

私個人としては、「カムイ伝」よりも「外伝」のほうが好きです。
徳川の封建時代にあって、運命に抗うカムイたちを描いた社会的メッセージ性が強い大河ドラマである「カムイ伝」に比べ、「外伝」は、カムイが諸国を放浪し、そこで出会った人々との心の交わりを描く人間ドラマ、というテイストです。

なかでも、10~12巻収録の「剣風1⃣~3⃣」は、「剣聖」柳生連也斉(厳包)といった実在の人物が登場してカムイと闘いを繰り広げるなど、基本的にオールフィクションで構成されているカムイ伝・外伝のなかでも異色のつくりで、さらに、哲学的・精神的な描写がふんだんに織り込まれ、この3巻だけで一個の世界観を表現しており、まさに「神回」の呼び声が高いものとなっています。

30年以上前の作品ですので、読んだことのある方も少ないと思われますが、こんな時代だからこそ読んでおくべき!ということで、10~12巻収録の「剣風1⃣~3⃣」の中から個人的名シーンをピックアップしてお届けしたいと思います。

まずは、10巻「剣風1⃣」からの引用です。

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↑↑↑いつものように独り旅をするカムイになにやらクセのありそうな坊さまが声をかけます。いわく、「死相が見える」とのことです。

↓↓↓カムイが眺めているのはネコでした。まさにネズミを捕まえようと身構えています。

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↓↓↓ネコはひとたびネズミを捕まえますが、頭上を飛ぶタカに気をとられ、その隙にネズミは逃げ出そうとします。

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↑↑↑圧倒的な力の差がありながら、ネズミはネコに必死に抗います。

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↓↓↓徐々にネズミの抗う力は弱まっていきますが、ネズミは最期の力を振り絞って気迫を見せます。

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↑↑↑ネズミの烈帛の気合いに一度はひるんだネコでしたが、後ろを見せて逃げようとするネズミを仕留めにかかります。
しかし、そこで坊さまがネコに向かって石を投げ、ネズミを助けます。

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↑↑↑眼前で繰り広げられる自然の摂理にあえて介入した坊さまに、カムイは「何故だ」と問います。

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↑↑↑坊さまはカムイの考えを言い当てます。カムイは、ネズミの姿に、差別や社会階層、忍びの組織といった抗いようもないものに抗おうとする自分自身を重ねているのです。

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↑↑↑ネズミがどのみち食われるのも運命(さだめ)、万に一つの僥倖を得るも運命(さだめ)

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↓↓↓万に一つの僥倖、それこそが天命

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↑↑↑万に一つの僥倖、そのためにあがくのは「むだ」というほかない。しかし、それでも運命に抗って生きようとすることこそ「生」の本質。世の中の無常の理。

「一つの夢のかなたに千、万のついえた夢のあるを思えば・・・」「万に一つの機を得るためのむだも試さぬ手はない」 
カムイは、もはや自分のことを言っています。
社会の差別や下忍の非情な世界から抜け出し、自由に生きるカムイの「夢」、カムイ以前にも数多の忍びが抜けようと試みるも果たせず、また理不尽な差別を打破しようとするも果たせず、その者たちの夢はついえたのですが、そうした「夢」をみた先人たちを思えば、たとえ「むだ」だと言われようとも、抗うことをやめるわけにはいかない、カムイの悲壮な覚悟です。

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↓↓↓そんなカムイの悲壮な覚悟とは裏腹に、一度は命を救われたネズミもタカに無残に捕食されます。万に一つの機の石によってすら結局自然の摂理を覆すことは出来ませんでした。カムイも封建体制、忍びの組織から自由になることは出来ないことが暗示されます。

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続いて11巻「剣風2⃣」から

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↑↑↑先ほどの坊さま、実はとんでもなく強いお人でした。8巻でカムイを瀕死にまで追い詰めた「百日のウツセ」を子ども扱いです。
「こんなガキに血みちをあげるとは、柳生も落ちたものよ・・・」というセリフがなぜかやたらカッコいいと感じています。

↓↓↓どうやら坊さまは柳生の関係者のようで、成り行きからカムイも尾張柳生の里に向う流れになります。しかし、柳生の里に近づくにつれ、心変わりして柳生の里を素通りしようとするカムイを柳生の門弟たちが力づくで連れて行こうとします。

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↑↑↑「剣にかけて」でも連れて行こうとする門弟に対し、自由に生きることに「命をかけている」と豪語するカムイ。
私も人生のどこかのシーンで、「そのために命をかけている」と言ってみたいものです。

↓↓↓そして、ひょっこり出てくる坊さま。
強者同士の剣術談義が始まります。

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↑↑↑月が斬れるか、と問う坊さまに、「月は斬るものではない・・・」そりゃそうです。

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↓↓↓もったいつけた割にはとんちのような話です。

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↑↑↑水に映る無数の月、実体は中空にあるものただ一つ。

↓↓↓「ただ一つの月を斬る!」とドヤ顔で言い放ち、攻撃を仕掛ける坊さま。

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↓↓↓坊さまの渾身の突きを受け止めたカムイ。何かつかめたようです。

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↑↑↑「剣は影か・・・」 
何のことやらサッパリわかりませんが、彼らほど極めた者になると、もはや技術云々ではなく、哲学的・精神的な部分で勝敗が決まるものなのかもしれません。
この坊さまとの問答をきっかけに、カムイは突然レベルアップを果たすのですが、その理由を、カムイは「水月の心を会得したやもしれぬ・・・」と述べています。

最期に12巻「剣風3⃣」からです。

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↑↑↑坊さまは、「阿多棒心」という高名な武芸者で、柳生厳包、利方兄弟の父である柳生兵庫の兄弟弟子でした。
一方で、柳生が伊賀にカムイを売り、全てを隠滅すべく棒心老師も含めて抹殺にかかってきます。
クライマックスは、柳生兄弟とカムイの決闘です。

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↑↑↑「武士であるまえに男であれば・・・男の矜持(キョウジ)がござろう・・・」
ジェンダーレスな昨今の価値観とは相容れなくなってきていますが、「男だろ」をカッコよく言うとこうなる、というセリフです。

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↑↑↑この続きはコミックスで・・・・

こうして見ていきますと、骨太のストーリー、会話のないコマが作り出す間、深い精神性、どれをとっても唯一無二の読み味です。「外伝」は是非ともアニメ化してもらいたいです!!!

若き日に夢中で読んだ漫画の作者がひとり、またひとりと亡くなっていきます。これもまた人生・・・
白土三平先生のご冥福をお祈り申し上げます。

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