京大タテカン

立て看板規制問題に対する早稲田大学生と京都大学生の連帯について

【この記事は2018年8月に公開したものです。一時的に非公開にしていましたが、改めて公開します。】

⑴何が起こったのか
 2018年8月16日の京都・百万遍。立て看板規制問題の主戦場であるこの地に早稲田大学立て看板規制に反対する看板が現れた。その看板自体は16日の午前中に撤去されてしまったが、その看板には以下のように書かれていた。

「早稲田大学の文キャン立て看用フェンス撤去による学生の立て看権侵害に反対!!
早大生有志 × 京大生有志
早大表現研究会 早稲田の馬鹿らしさとタテカンを守る会 シン・ゴリラ 立て看文化を愛する市民の会有志 吉田寮有志 熊野寮有志 京都市民有志 金沢美術工芸大生有志 信大生有志 國學院生有志 中央大生有志 東大生有志 直接行動有志」


 この立て看板に書かれた「文キャン立て看用フェンス撤去による学生の立て看権侵害に反対!!」という文言は現在(8月16日時点)早稲田大学に掲げられている規制反対のものと同じである。そうした主張に続けて書かれた「早大生有志 × 京大生有志」という文字は、同じ問題を抱えた学生たちの間で連帯が成立したことを示している。
 さらに興味深いことにこの立て看板には早稲田大学と京都大学の学生有志だけではなく、他の大学名を見ることができる。つまり、立て看板規制問題が早大生と京大生に限定されない、幅広い関心を集めていることを表している。

⑵早稲田大学での経過
 早稲田大学立て看板規制問題に関する詳細は前回の記事に書いたので、詳しくはそちらを参照してほしい。ここでは問題の要約的整理にとどめる。
 早稲田大学の戸山キャンパス(通称「文キャン」)で実質的な立て看板(通称「タテカン」)規制があり、その規制に対する反対の声を学生たちがあげ始めた。学生側は大学側に正式に要望書を提出。学生側はその要望書で学生と大学側の意見が対話によってまとまるまで工事を延期するか、もしくは新宿区と交渉して【注1】現状維持を保証することを要求している。そうした交渉に加えて、学生側は問題の周知を図るために早稲田キャンパス南門付近に規制反対を表明する立て看板を設置した。
 以上は前回の記事に書いた8月6日までの展開である。その後、8月16日時点では大学側からの回答はない。しかし、学生側は回答をただ待っているだけではなく、ある行動に出た。9日に早稲田キャンパス南門に「京大連帯」と書かれた立て看板を掲げたのである。この看板自体は以前も掲げられていたものだが、多くの人の目にとまる南門にあらためて掲げたことで早大生側は京大生と連帯する意思を再表明したのである。

⑶必然的な連帯〜東西に残された「学生文化」〜
 早稲田大学も京都大学も「学生文化」が残り、他の大学と比して学生が主体性を発揮できる場があることで知られている。京都大学のウェブサイト【注2】を見ると、至るところで「自由の学風」という言葉が使われている。早稲田大学では、校歌の歌詞にも含まれている「学の独立」を次のように説明している。「『学問の独立』は、『在野精神』『反骨の精神』と結び合います。早稲田大学は、自主独立の精神を持つ近代的国民の養成を理想」【注3】としている。こうした文面から、早稲田大学も受動的な学生ではなく、主体的で問題意識をもって活動する学生を肯定しているように思われる。
 以上のような大学側の理念だけではなく、学生たちによって「学生文化」が僅かながらでも維持されているという共通点がある。京都大学には、今では珍しくなった「自治寮」(吉田寮、熊野寮)が残されている。一方、早稲田大学では京大に比べて文化を支える基盤が弱いものの、大学から独立した刊行物として「マイルストーン」や「早稲田魂」が出版され、それらが学生の自由な情報共有を支えている。
 こうした東西に残された「学生文化」を担う存在である早大生と京大生が、互いに共鳴しあい、すみやかに連帯を始めるのは当然だといえる。早稲田キャンパスの南門に「京大連帯」の立て看板が設置された一週間後には百万遍に「早稲田大学立て看板規制」に反対する立て看板が早大生有志・京大生有志の名前で出された。こうした連帯は両大学の学生の底力を示したといえる。
 両大学には「学生文化」が残されているという共通点があるものの、この立て看板問題に関していえば違いもある。京大生側は早大生側にはない強みを持っている。京大生側の強みは立て看板規制問題が世間にも認知されていることに加えて、市民レベルである程度の協賛を得られていることである。一方、早稲田大学の学生はサークル数や学生数で見ればかなりの潜在能力を備えてはいるものの、立て看板規制問題を「問題」として把握できていない(メールは全学生に配信されたので事態そのものは知っているものの、「問題」として考えられていない)。今回、京都大学における立て看板規制問題の本場である百万遍交差点付近の石垣に「早稲田大学立て看板規制問題」に関する立て看板を設置したことで「問題」としての立て看板規制を全国レベルで周知するきっかけになるかもしれない。

⑷今後について
 早稲田大学においては、いまだ大学側から要望書への回答がなく、大学側がどのような判断を下すのか注目される。
 京都大学では過去に正門前の立て看板規制を破った実績があり、NHKで今回の問題がとりあげられる予定【注4】であることからして社会的関心も強いと思われる。これらを顧慮すると、学生側に勝機があるかもしれない。ここでは触れるにとどめておくが、京都大学には立て看板問題とは別に吉田寮の問題がある。吉田寮はその管理・運営を寮生が行う自治寮である。京都大学側は築105年の木造建築「吉田寮」から9月末までに出るようにと寮生に迫っている【注5】。学生文化の衰退という流れからみた場合、立て看板問題だけではなく、吉田寮の問題からも目が離せない。
 この記事では早稲田大学と京都大学にテーマを限定したが、百万遍に立てられた看板には早稲田や京都だけではなく、信州大、國學院、中央、東大など他の大学名が書かれていた。その点を考慮すると、この看板は早稲田大学と京都大学の両大学に限定されない、あらゆる大学における学生と大学側の関係性についての議論のきっかけになるだろう。

注1、早稲田大学立て看板問題は新宿区の「みどりの条例」に端を発している。詳しくは前回の記事を参照。

注2、http://kyoto-u.ac.jp/ja 2018/08/16を参照。

注3、https://www.waseda.jp/top/about/work/mission 2018/08/16を参照。

注4、https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92110/2110230/index.html 2018/08/16を参照。

注5、https://yoshidaryozaiki.wixsite.com/yoshidaryozaiki2017 2018/08/16を参照。

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