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アルコールランプ

あの頃通った学校がもうすぐ無くなると聞いて
思い出を拾いながら僕は歩く
役目を終えた校舎は寂しげだけれど
どこか満足しているようだ

スマホのライトで照らしながら歩く廊下
落とし物は今も忘れられたまま
黒板の傷、窓際の水道、植木鉢の跡
理科室の戸棚、残されたアルコールランプ

火をつけるために、今日を燃やして
儚い炎、弔う昨日
消えないように、その手をかざして
儚い記憶、彷徨う言葉
頭の中の面影達が
アルコールランプを囲んだ

僕の思い出、どうか消えないで
いつか振り返る時、僕を過ぎるのは
人混みは嫌いと言った都会の夜
まっすぐに笑った君の瞳


燦々と降る雪の暖簾に白い息を吐いて
故郷を思いながら酒を呑む
僕は寒い雪の日が嫌いだけれど
映画の中で降る雪は好きだ

マッチもライターも照らすには心もとない
落とし物は今も見捨てられたまま
廊下の夜、教室の朝、卒業の跡
理科室の無人、見つけたアルコールランプ

火をつけるために、今日を燃やして
果てない炎、燻る昨日
消えないように、その手をかざして
果てない記憶、漂う言葉
頭の中の面影達が
アルコールランプを囲んだ

僕の思い出、どうか消え去って
いつか振り返る時、僕を過ぎるのは
痛みを知った15の夜
懸命に実った春の蕾


あの頃通った学校がもうすぐ無くなると泣いて
それでも何度もこの地に花は咲いて
悲しいこと、苦しいことがある度、
僕が縋るのは、君がくれた言葉たち

今、この場所に立って、
明日も生きていこうと思うのは、
これまで生きてこられたから
これまで生きてこられたのは、
まっすぐ歩いたあの日、
気持ちを伝え合った空があったから

僕の思い出
消えて欲しい、消えないで欲しい
眺めたアルコールランプが
教室を照らした

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