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2019年6月⑥:額賀澪『拝啓、本が売れません』

まだ心がざわざわしている。

◆額賀澪『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ、2018年)

意欲がある書店員に限って自由に売場を作れなかったりする。本を訴求するアイデアは持っていてもそれを実行するための決定権を持っていたなったりする。(p.90)

元書店員とは言いつつも、私は最初から最後までずっとアルバイトか平社員でしかなくて、面白い本を見つけたり、販促のアイデアを思いついても実現させるまでの力がなくて、草の根運動をするようなタフな身体も精神力もなくて、「売れなかったら」「それ売れる?」「返品率」が口癖のような上司の下で、黒い感情に溺れそうになりながら働いていたことがあった。実際、夫に当時のことを聞くと、寝ている間にひどい歯ぎしりをしていたらしい。知らなかった。

書店で働いていた頃、本を返品するのがすごく苦手だった。というか苦しかった。毎日大量に本が届いて、すばやくどこに何を置くか決断していかないといけないのだけど(すごい書店員は商品選択の思い切りの良さと選択のセンスがずば抜けている、と私は思っている)、いつも「ごめんな、何もしてやれなくて」なんていう自己陶酔気味の男が別れ際に言いそうな台詞がいつも頭の中にふわふわと浮かんでいた。

「返品」と書かれた段ボールに本を詰めている間、「あの場所でよかったのか」「ちゃんと作品の内容を理解して並べていたか」「もっと売れるためにできることがあったんじゃないか」、とか、そんなことをよく考えていたことを思い出した。でも結局、ルーティンワークに追われてなにも果たせなかった。だからフリーペーパーとか凝ったPOPとかを作っている人は本当にすごいと思うし、それを後押しするお店も素晴らしいと私は考えている。もう、やっちゃえやっちゃえ、だ。

小説家が本を売るアイデアを探す取材記、といえばわかりやすいが、私はこの「なり振りなんかかまってられるか」といった感じの雰囲気がすごく好きで、まっすぐに尊敬したり嫉妬したり憧れたり、とても楽しく読めた。この著者の書く作品は、基本的にストレートな青春ものが多いイメージなんだけど、ひねくれて転げ回って泥だらけになりながら駆けずり回る大人とかを書いても面白いんじゃないだろうか。仕事小説とかどうだろう。

その本が置かれた場所は、誰かが死に物狂いで勝ち取った場所です。誰かが必死に守ろうとした場所でもあります。誰かの渾身の一冊を押しのけて、その本はその場所を勝ち取ったんです。(p.182)

棚はあんなに静かなのに、よく考えればものすごい死闘を繰り広げているのだな。毎日のように平台は入れ替わるわけだし。そう考えると、ロングセラーって本当にすごいのかも。



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