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【富山】地獄から浄土へめぐるプチ・テーマパーク まんだら遊苑

 異端にして個性派コンビニの、立山サンダーバードを訪れたあと。
 そのまま山の方へと車をはしらせると、やがて見えてくる〔まんだら遊苑〕なる、小さなテーマパークっぽい何か。

 富山県の南側をぐるっと囲む立山連峰には、地獄谷とかいう、聞くだけでも恐ろしいひびきの場所があるとか。
 硫黄などの火山性ガスが吹き出しまくって、それはもう地獄そのものの光景らしい。
 それなら北関東にも、九尾の狐・玉藻前さまがおわす〔殺生石〕があるぜ!
 ……と意気込んだものの、ネットでその風景を見る限り、地獄谷の方が規模が大きそうで、ちょっぴり悔しい。
 しかし、北関東民としては「玉藻前さましか、勝たん!」という意気込みで、ここは臨みたい。

 それはともかく……地獄谷などを内包する立山信仰にちなんで、地獄や極楽浄土を表現してみた施設が、この〔まんだら遊苑〕らしい。

 チケットを買って、中へ入ると、目の前に建っている建物へ。
 この入り口がやたらと小さくて、大人なら、かがんで入らないといけない。
 その向こう側は闇で、蝋燭の炎のような照明だけがたよりの、赤く地獄の様子がほのかに浮かぶ景色。
 内部には釣鐘があって、これを打ち鳴らすと、紅い稲光が生じ、閻魔の裁きを受けるのだ。
 もちろん、わたしは喜びいさんで、おもいっきり「ごーーーーーん!!」と打ち鳴らしてみた。

閻魔堂の釣鐘で、閻魔さまの裁きを受けるのだ!
閻魔堂の出口への通路、やたら細くて狭い

 ほぼ暗闇でわかりづらいけれど、いちおう順路の案内があって、それに従って進むと、
「ここ、ほんとうに順路?」
 と疑いたくなるような狭い通路へでる。

 外へ出ると、精霊橋というのが斜面へはりだしていて、その奥は川を一望できる展望台的な場所……なんだけど、そこへ辿り着くまで、やたらと橋が揺れる揺れる。
 他のお客さんたちが手すりにつかまりながら、よろよろしているのを尻目に、わたしはにこにこ大股で奥まで進む。
 大粒の石がごろごろしている常願寺川を眺めながら、そこにある勾玉形の鐘を、気分よく鳴らしまくったり。
 なお、足許は隙間だらけの金網っぽい床なので、スマホを落としたら大惨事。
 はるか崖下へ吸い込まれていって、泣きべそかきながら探すはめになる。

崖の上へ張り出している精霊橋
精霊橋のどんづまりは、けっこう眺望がよいぞ
精霊橋の鐘、調子にのってがんがん鳴らしまくり

 天界へと行きつけば、そこに仏教の本拠地たる須弥山(しゅみせん)を模した祭壇が出現。
 須弥山……というか、ここで怪しい呪術の儀式とかできそうなロケーションだし、なんなら、異界から何かこの世ならざる存在を召喚できそうだ。

 その下には、いろんなアーティストが「これこそ天界!」とばかりに表現した芸術作品が。
 なんとなく納得できそうなものもあれば、「解釈、むずい……!」と首をひねるものもあって、これはこれで面白い。
 現代アートとは、そういうもんだ。
 わたしは、巨大な石板がそそりたって、その真上から静かに水が流れ落ちているオブジェが、なんだか気に入った。

 さらに奥へ進むと、室内に、巨大なドームがででんと鎮座している光景にでくわす。
 天卵宮と名付けられているこのドーム、裏側へまわると、ぽっかり入り口が空いていて、中へ入れるようになっていた。
 仰向けに寝転んで、瞑想する場所らしい。

 硬くてつやつやに磨いてある石の床へ身を横たえると、なんだか良い香りにつつまれ、白い天井には、ほのかな光の何かが、ゆらりと展開している。
 胎内にて、生まれ変わるための瞑想をする場所らしい。
 気持ちよく、ぼーっとしている間にも、4組ほどの客が入れ替わり立ち替わり、出入りしていった。

 最後は、闇の道。
 胎内を出て、いざ、この世に生まれ変わらんとする、ぐねぐねと曲がった通路で、ほぼ闇に包まれている。
 産道をたどる気持ちで、手探りしつつ奥へゆくと、唐突に、外の世界へと飛び出ることになった。
 ……ま、その出口、自動ドアだったけどね。

 ただこの闇の道、たどっている間に想起したのは、坂井希久子の小説『江戸彩り見立て帖』の第一巻に出てきた、胎内巡りのシーン。
 その一節に「闇は案外、饒舌だった」とあって、ものすごく感銘をうけた描写だった。
 闇は、単なる闇にあらず。
 黒は、この世のすべてを内包する色。

 そんなことを憶い出しつつ、この、小規模ながら、古代の信仰と現代アートが融合した施設をあとにした。

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