見出し画像

【ガチ中華】上野アメ横 天天楽

 ガチの中華めしが好き。
 まったく忖度なしの、容赦無くガチな中華が好き。

 秋葉原の〔香福味坊〕で大喜びした翌週、今度は上野へ出かけることにした。
 年末のアメ横はとても混雑するのに。
 いつも混雑しているけれど、この時期は二倍くらい人口密度が高い。

 狙い通り、アメ横の通りの左右どちらにも、ガチ中華なお店が立ち並んでいた。
 そんな中で、運良くテーブルが空いてくれているお店があった。
 ほぼ屋台。
〔天天楽〕と看板をかかげているそのお店は、小姐(女性の店員さん)が機敏な動きの内に、得もいわれぬ無愛想さを秘めている。

 ──ここだ!

 わが勘が、ターゲットをしぼった瞬間である。

 わたしにとってはお姉さん的な友達で、いつも生暖かい目で見守ってくれる存在のKさんと一緒に、あまり綺麗とはいえない席につく。
 清潔すぎたら、ガチっぽくなくて、むしろ不満ですらある。
「わたしは、これかな。びゃんびゃん麺
 これは、テキストでは書き出せない難しい漢字である。
 なんでも、中国の漢字で3番目に画数が多いらしい。
 見ていると、なにやら呪術めいていて、うっかりすると呪われそうな文字である。

「のどかさんの見立てで、私によさそうなのを選んでよ」
 Kさんに、そう信頼されると、張り切ってしまう。
「じゃあ、牛肉麺がおすすめかな」
 牛肉麺は、だいたいにおいてマイルドな味付けで、誰にでも安心しておすすめできる。

 他にも、
焼き小籠包……ちょっとめずらしいね。これも食べよ!」
 頼んだ。
羊肉の串焼き、中国ならではの香辛料で美味しいんよ。一本ずついこう!」
 頼んだ。
「飲み物はね……ああ、せっかくだから中国らしく〔王老吉〕でいこうよ。甘みのある紅茶、みたいなもんで、美味しいよ」
 頼んだ。

漢字が変態的に複雑すぎる、びゃんびゃん麺

 アメ横の、あわただしい往来のすぐ横で、運ばれし焼小籠包を食す。
 外側がパリッとしているのが、焼きらしい食感で、あとは定番の小籠包。
 口へ含んだ時の香味が、通常とは違う。
 これを、中国の酢である〔醋〕へつけるのだ。
 アミノ酸が、日本の黒酢の20倍という、化け物級にして、ごく一般的に普及している、中国伝来の酢である。
 もとから真っ黒。
 日本の酢のように、醤油とまぜる必要もない。

 なお、我が家では、しっかり常備している。

焼き小籠包と醋

 満を辞して登場した、びゃんびゃん麺。
 メニューの写真では、特になにもかかっていなかったが、実物は唐辛子がてんこもり。
 上記の〔醋〕をベースとしたタレがかかっていて、深みのある酸味に支えられている味だ。

びゃんびゃん麺

 Kさんの牛肉麺も、ほどなくして登場。
 身体の芯までしみわたるような、深くて優しい味わいだ。

牛肉麺(にぉうろう・みぇん)
羊肉串

 すべてを味わいつくし、ガチ中華の味わいでドラマチックになっている口の中を、ほのかな甘味の〔王老吉〕で、ほっとリセット。
 これは「わんらおじー」と読む。
 日本でいうところの、午後ティーに、どことない中華風味が乗った味、といえば、想像がつくかな、と思う。たぶん。

王老吉

 満足したところで、お会計をすべく、店員さんへ声をかける。
「さざえ、じゃかじゃん!」
 こちらへ振り向き、近寄ってきた。

 本来は、
「小姐、結賬(しゃおじえ、じえじゃん)」
 で、これが「お会計をお願いします」という北京語なのだが。
 北京へ留学してた知り合いが「これでも通じるか実験してた」と言ってたのを思い出して、つい、使ってしまった。
 結果として、少しだけ小姐の頭上に「?」が浮かんだ気がしたけれど、とりあえず、通じてくれてよかった。

 屋台は、長居する場所ではない。
 わたし達は、そそくさと離脱し、表通りの方へ去っていった。
 東京に住んでいた頃には、よくKさんと一緒にいってたカラオケ館が、そこにあるから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?