アメコミ基礎知識

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 2012年、洋泉社の『別冊映画秘宝 アメコミ映画完全ガイド スーパーヒーロー編』のために書いたモノ。
「3000字でアメコミの基礎知識をまとめてください」というとってもチャレンジングな発注に、なんとか応じてみました。ぜえぜえ。(^_^;)

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『別冊映画秘宝 アメコミ映画完全ガイド スーパーヒーロー編』
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 アメリカン・コミックスの歴史は、実はスーパーマンやバットマンといったスーパーヒーロー達の誕生よりも前から始まっています。
 アメリカにおけるマンガは(というよりも世界のマンガは)、十九世紀末、まずは新聞の挿絵から発展した新聞連載マンガとして始まっています。今でも有名な「リトル・ニモ」や「ポパイ」、「ディック・トレイシー」といったキャラクターは二〇世紀初頭から三〇年代にかけて、新聞連載マンガとして生まれたものです。「ターザン」や「バック・ロジャーズ」などといったパルプ雑誌のヒーローたちも、この頃、どんどん新聞連載マンガ化が行われています。

 一方、アメリカでマンガ雑誌が初めて出版されたのは一九三三年のことです。最初の頃は新聞に連載されていたマンガを一冊にまとめた再編集ものが主流でしたが、オリジナルもののマンガを掲載する雑誌も徐々に増えてきました。これが現在のアメコミの誕生だと言えるでしょう。

 そんな中、一九三八年に創刊された『アクション・コミックス』という雑誌に、「スーパーマン」の第1話が掲載されます。これが、その後のアメコミ全盛時代とスーパーヒーローものの流行の引き金になったのでした。
 それまで、コミックスのヒーローたちはあくまでも普通の人間でした。ところがスーパーマンは、カラフルなコスチュームに身を包み、様々な超常的なパワーを駆使して悪人をやっつける、文字通りの「超人」だったのです。当時のアメリカの子どもたちが夢中になったのも、当たり前と言えば当たり前のことでした。

 スーパーマンは登場と同時に大人気となり、それを追うようにして次々と新たなスーパーヒーローもののコミックスが誕生しました。バットマン、グリーン・ランタン、ワンダー・ウーマンといった、今も人気のあるDCコミックスのキャラクターたちの多くも、この時代に生まれています。

 また、時代もアメコミに味方しました。アメリカの研究者によれば、当時、第二次世界大戦の影響で紙不足となり、それまで盛況だったパルプ雑誌がどんどん減っていったのに代わるように、ページ数の少ないコミックス(アメリカのコミック誌は月刊で一冊三〇数ページくらいなのです)が増えていったというのです。
 また、戦争を題材にして、スーパーヒーローたちが日本軍やドイツ軍と戦うといったストーリーを取り入れたコミックスも多く、それがまた当時の子どもたちの人気を得ました。マーヴェル・コミックスのキャプテン・アメリカなどは、その典型だと言えるでしょう。

 戦後、アメコミはスーパーヒーローのアクションものだけでなく、SFものやホラーもの、実録犯罪ものやリアルな戦争ものなど、ジャンルをどんどん拡げていきます。
 ですがそれは、「子どもの教育上よろしくない」という、社会からの批判にさらされる結果となってしまい、アメリカにおけるコミックスのブームは一九五〇年代を通して、下火になっていきます。

 アメコミが再び人気を取り戻すのは、五〇年代後半のことです。DCコミックスとマーヴェル・コミックスに、それぞれ有能な編集者が現れ、新たなスーパーヒーローものを続々と生み出していったのです。
 DCの編集者ジュリアス・シュワーツは、忘れ去られていた四〇年代のヒーローたちをリニューアルすることを思いつきました。元々は魔法の力で超能力を得ていたフラッシュやグリーン・ランタンといったヒーローたちに、SF的な誕生の秘密と、前よりもスマートなコスチュームを与えて、今風の言い方をすれば「リブート」したのです(ちなみに、最近映画化された「グリーン・ランタン」は、このリブート版のほうが元になっています)。

 これによって、DCコミックスが再びアメコミ界で台頭し始めた六〇年代初め、マーヴェル・コミックスもまた大革新が起こります。
 DCの成功を見た当時の社長から、自社でもスーパーヒーローものを出せと命じられた編集者兼ライターのスタン・リーが、次々に斬新なヒーローを生み出していったのです。
 リーは、六一年から六三年にかけて、ファンタスティック・フォーを皮切りに、ハルク、スパイダーマン、ソー、アイアンマン、X-メンと矢継ぎ早にヒーローたちを生み出し、六四年には戦時中の人気キャラ、キャプテン・アメリカを復活させました。今、映画化で人気を博しているマーヴェル・ヒーローたちは、このとき誕生したのです。

 スタン・リーが生み出したマーヴェル・コミックスのヒーローたちが、それまでのアメコミのヒーローたちと一番違っていたのは、皆それぞれに人間くさい存在だったというところでした。それまでのスーパーヒーローたちは性格的にも完全無欠な正義漢がほとんどでした。ところが、たとえばスパイダーマンはガリ勉高校生で学校ではいじめられ、彼女には告白できず、実家が貧しいためバイトに励んでいます。ハルクは、変身してしまうと知能が低下して暴れるばかりなので、軍に追われて逃亡の旅を続けています。ファンタスティック・フォーは、チームの中で喧嘩ばかりしています。そんな、完全無欠とはほど遠い姿が、当時の若いアメコミファンに大いにうけたのです。

 七〇年代に入って、この傾向はさらに加速し、マーヴェルもDCも、ベトナム戦争や麻薬といった、当時の若者たちを取り巻く社会問題を題材として盛り込むようになっていきます。中でも有名なのは、スパイダーマンで、主人公の友人が麻薬中毒になってしまうストーリーや、グリーン・ランタンとグリーン・アローが社会問題と直面しつつアメリカを旅する『グリーン・ランタン&グリーン・アロー』のシリーズでしょう。
 マーヴェルのX-メンやDCのティーン・タイタンズといった、若いヒーローたちが活躍するヒーローチームものが人気を博すようになったのもこの頃です。

 八〇年代に入ると、ストーリーとキャラクターの複雑化はさらに進みました。中でも、フランク・ミラーの『バットマン ダークナイト・リターンズ』と、アラン・ムーアの『ウォッチメン』は、それまでの正義の味方としてのヒーロー像に真っ向から疑問を投げかける衝撃的なストーリーで、アメコミファンを震撼させると共に、日頃アメコミを読まないような層にまで、その存在をアピールしました。この頃からアメコミは「子どものためのもの」から脱却して、大人も楽しめるものとして徐々に認識されだしたと言ってもいいでしょう。

 ですが、それは逆に、読者の高齢化を招いていきました。メインの読者層がいつのまにか小中学生から高校生や大学生に移っていったのです。内容の複雑化だけでなく、単価の上昇などもあり、今やアメコミは小さな子どもが簡単に買えるものではなくなってしまったのです。

 大ヒットの連発で、アメリカでは空前のアメコミ映画ブームが起こっていますが、アメコミ出版そのものは、上記のような問題を抱えたままです。これから、映画化ブームの中、アメコミはどう変化していくのか、一ファンとして、注目していきたいところです。

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