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プロントの「0号店」

どんなチェーンストアにも一号店がある。
その一号店がまだそのままあるチェーンもあれば、あっさり一号店を捨ててしまうチェーンもある。
ほとんどにおいて、一号店はおっかなびっくり。
予算が豊富にあることは珍しく、だから理想のお店では無いことがあったりする。
それで閉店。
あるいは移転。
ただチェーン店が大きくなったときに、そのブランドに集まる社員、スタッフにとって「はじまった場所」があるかないかは大きな違い。
だから一号店を大切にするブランドはいいブランドって思ってしまう。
スターバックスの松屋裏側にある日本一号店なんて、場所はそのまま。
拡張、改装、改築とずっと最先端でいさせ続けていたりする。

さて、今日の話題のプロントのコト。
一号店ではなく、「0号店」がいまだ現役。
新宿西口にあってチェーン展開を構えて1号店を銀座にオープンする一年前から実験店として営業されてたそのお店。
「すべてがはじまった場所」でなく「すべてがはじまる前の場所」。

ちょっと歩くとオフィス街。
電気街のちょっと外れという場所でサラリーマンやカメラ屋さんで働く人が仕事の合間や仕事終わりにホッとするのによいロケーション。
間口小さく奥行き深いカウンターがメインの店で、丁寧に作り込まれたインテリアです。
かつてサントリーが全国に手広く展開していた「ジガーバー」を彷彿とさせる木造りの バックバーに、立ち飲みが様になる高さ、広さのカウンター。
ちなみにジガーバーの展開が1984年から。この店ができたのが1987年ですから参考にした部分もあったのでしょう。

昼はカフェ、夜はバー。
二毛作というコンセプトに大手資本の会社で最初に取り組んだのがおそらくプロント。
バックバーが2つに別れてて、半分がエスプレッソマシンを中心としたカフェの厨房。残り半分はバーの機能が納められてた。
カフェの部分は上島珈琲。
バーはサントリーがノウハウを出し共同出資で共同経営。
その洗練されたシステムにみんな感心したものでした。

上島珈琲にしてもサントリーにしてもそれぞれ喫茶店やバー、居酒屋がお客様。
だからカフェやバーを直営事業で手広くするのは本業の取引先のライバルを作ってしまうことになる。
「やり方を知っているのにやれない」というのは、なかなかに焦れったくってなやましいこと。
でもこの業態なら、「サントリーさん、バーをはじめるらしいじゃない」ってバー経営者から言われても「いやいや、上島珈琲さんのカフェがメインの店ですから」…、って逃げられた。
上島珈琲にしてもそう。
そういう意味でも上手なアイディア。

ただ今となっては二毛作業態というよりも「夜にアルコールや肴も提供しているコーヒー専門店」というイメージかなぁ…、つまりカフェ寄り。
お店の造りも今では随分チープになって、お酒よりもコーヒーがあう雰囲気になっちゃった。
日本人のアルコール離れを考えるとしょうがないんでしょう。

しかも直営事業でなく加盟店ビジネス。
自分たちの金を使わず、他人に金を使わせるというのがフランチャイズビジネスの本質だから、出しやすい程度の金額で儲けることを提案しなくちゃいけなくなる。
新しい店を開業するということは、理想と現実の折り合いをつける厳しい仕事なのだけれど、フランチャイズでできるお店は「わかりやすい現実の集大成」。
そこにパラパラと魔法の夢をふりかける。
魔法はいつか効き目をなくしてしまうのだけど、魔法が効いてるうちにどれだけ稼ぐことができるのか。
そこがフランチャイズ本部の腕の見せどころというコトになる。

姿を変えて業態も変え、ずっと続いているということは二毛作という初期のコンセプトが時代を超えるのによかったんだろうと思う。
時間帯に合わせて柔軟に営業内容を変えてしまうというコトを長期的に翻訳すれば、時代が変われば柔軟に営業内容を変えればいい…、というふうにも受け取れる。
店を運営する人にとって「準備万端、出来上がり!」。
それをイタリア語に直せば「プロント」。
オモシロイ。

せっかくだから、創業当初からの売り物、ホットドッグを食べてみました。
千切りキャベツと一緒に挟んだキャベツドッグでパンもソーセージもそこそこおいしい。
ホットドッグって考えてみればコーヒーのお供にもよく、酒の肴にもなったりもする。
この業態において重宝な料理だったんでしょう。なつかしむ。


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