炎で焼かれるスパルタステーキ、素敵庵

おいしいステーキの解釈にはいろいろある。

直火の遠火でじっくり時間をかけて焼き上げ、外はカリッと芯はロゼ色。
断面をみるとまだ芯は生のようにみえて、けれどしっかり熱が入ってあたたかい。
それを素手で持つのがためらわれるほど熱々にしたお皿にのせる。
ずっと肉の温かい状態は守られる。
けれど必要以上に熱が入りすぎないで、シェフが企んだおいしい状態をたのしみ続けることができるステーキもある。
その佇まいは静かで端正。
肉のおいしさをしみじみ味わう、お行儀の良い料理でもある。

一方、豪快極まりないステーキもある。
炎にまみれて焼き上がり、鉄板の上にあっても出来上がったばかりのおいしい状態が壊れない。
頑丈にしてたくましい、心揺さぶるようなステーキ。

「素敵庵」というステーキレストランのステーキがそういうステーキ。

有楽町と銀座の境界線上を走る高速道路の下。この高速道路ができたのが昭和33年。東京オリンピックに向けての東京改造の一環としてということだから60年も以上のことです。
地上2階地下1階。できた当初の名前が「有楽フードセンター」といい、今でもレストランが多く集まる商業施設。地下一階のお店です。
本店は鹿児島にある。ステーキハウスにして素敵庵とは洒落た名前で、厨房を囲むように設えられた座り心地のよいカウンターが特等席。ふた席にひとつの割合でバラの一輪挿しが置かれています。洒落てます。

ランチセットにはスープとサラダがついてくる。スープは熱いコーンポタージュ。ポッテリとしてなめらかで味わい、香りともにクラシック。ボリュームたっぷりのサラダはキリッと冷えててシャキシャキ。お腹の準備が整っていく。

特徴のあるステーキの焼き方です。
神戸にA−1ステーキという老舗店があってそこのやり方のまま。分厚い肉を焼いて食べるならこの焼き方が一番おいしい…、と心底思えるやり方でいつもワクワクしながらながめる。
まず塊肉を直火の遠火で焼いていく。じっくりゆっくり。ヒックリ返したり立てたりしながら6面こんがり焼き上げて、蓋して芯まで温度が上がったところで鉄板を準備する。

強火でガンガンにあっためて上に玉ねぎ。ガルニを並べたところに食べやすいよう包丁を入れたステーキ肉を鉄板の上の玉ねぎの上において追加の玉ねぎのっけて蓋となす。醤油だれを混ぜたワインをたっぷり上から降り注ぎ、炎で包んで香り、風味をつけたら完成。

本家A−1では炎に包まれた鉄板を持ち上げ揺すって火を消すというパフォーマンスがつくのだけれど、ここは鉄板の温度を下げて自然消火で仕上げるスタイル。
のせたときには生だった大量の玉ねぎにしんなり熱が入って、中には焦げ目もついたのもあり、どれほど炎が強烈だったか。
その玉ねぎでまもられたステーキ肉は、焼き目もきれいでうつくしく断面見事なレアに仕上がる。

食べる前からウットリです。
オージービーフの200g。脂の少ないリブの部分で、まずは一口。
レアではあるけど芯までしっかり熱が入って、噛むとクチャっと潰れるようにして歯切れてく。歯茎や奥歯にまとわりつくような肉感的な肉の食感。ジュワッと肉汁が口の中へと流れ出し、表面の焦げたところがガツン!と顎をたのしませるのが、また旨い。

にんにくを使ってもいいですか?と肉を焼く前に確認があり、思う存分とお願いしたら思う存分たっぷり使って仕上げてくれた。ぶつ切りでしっかり芯まで熱が入ってとろけるように焼けていて、ご飯にのっけて一緒に食べるとたまらぬおいしさ。

フライドポテトにもキャロットグラッセにも、たっぷりのほうれん草にも肉の脂やタレの旨味が染み込んで、何を食べてもステーキ味というのがうれしい。なにより肉の下に敷かれた玉ねぎがすべての味を一切合切引き受け吸い込みおいしくなってて、それと一緒に食べるステーキのおいしいことにウットリします。
男性だけでやってるお店。薩摩的なる厳つい風貌でありながら仕事は丁寧、愛想もよし。贔屓にしたいお店のひとつ…、来るたび好きがつのる店。


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サカキシンイチロウのおいしい手帖

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