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シズラーとロイヤルホスト

伝説のロイヤルホスト、新宿三井ビル店

西新宿の超高層ビル街。ほとんどのビルが飲食店は地下か高層階に配するフロア構成。一階部分には家賃のとれる銀行のような施設が並んで、夜は真っ暗。
そんな中で三井ビルだけが通りに面したところに飲食店が配置されていて、通りににぎわいが溢れ出していた。
そのにぎわいの真ん中にいたのがロイヤルホスト。

おそらく当時、日本で最も成功していたファミリーレストランが三井ビル店だったでしょう。
朝食の時間帯から深夜に至るまで、ずっとニギヤカ。
特に朝の時間は、近所のホテルに泊まっている外国人客が次々お店にやってくる。ホテルの高いくせにパッとしない朝食を食べるよりもロイヤルホストの朝食の方がいいからと、それでわざわざ。
トリップアドバイザーなんてない時代です。口コミひとつで朝のにぎわいを作れるほどにその店の状態は良かった。
いつも同じ状態をキチッと作り出す調理力。
気配りと笑顔あふれるサービス力。
店の三方がガラス張りという清潔を保つことが難しい店でありつついつもピカピカ。
たしかにこの店があればホテルのコーヒーショップなんていらないなぁ…、って思わされるほど見事な店でありました。

伝説の終わりと、リセット

ただ閉店した。
ネットワークビジネスが盛んになった頃、その人たちがお店を荒らした。
コーヒー一杯で二時間、三時間テーブルを専有して売上が激減。お店のムードも殺伐とした。
ネットワーク関係の人、お断りと看板を出すも手遅れ。コーヒー1杯のお客様もお食事のお客様も同じ品位のサービスで…、というコーヒーショップレストランの根幹がゆるいで結局、コーヒー1杯の利用ができないシズラーになる。
ステーキレストランとしてアメリカからやってきた。
けれど当時の食肉環境では手軽な価格でステーキを提供することはむつかしく、しかもご飯のおかずとしてステーキよりもハンバーグの方が適してる。だとするとロイヤルホストの方が良かった…、ということになり一時期不人気。
困ってしまったロイヤルホストが起死回生をかけたのが「野菜がおいしいサラダバーレストラン」としての生き方で、それがあたった。

ちなみにサラダバーがついてくるステーキレストランはたくさんあるけど、サラダバーそのものに値段をつけてサラダバーだけでも売れて、しかもお客様が十分満足できるほどのクオリティをもったお店は他にない。
ずっと人気を保ってる。

あのロイヤルホストがなくなってしまったのはとてもさみしい。
今はシズラーがそこにある。
でもそのシズラーの状態をみていると、ロイヤルホストであることをやめてしまって正解だったのかもしれないなぁ…、ってしみじみ思う。

シズラーの空気

近所にロイヤルホストの店が数軒、営業している。
そのロイヤルホストもこのシズラーも、教育、しつけの行き届いたスタッフたちが働いている。
髪型、装い、立ち居振る舞い、言葉遣いとどれもが「ロイヤルクオリティ」。
ただロイヤルホストよりシズラーの方が、笑顔も自然で仕事もおだやか。
ロイヤルホストにいるとどこかピリピリした緊張感とか、あるいはバタバタとしたせわしなさを感じる。
でもここシズラーではそういうムードを感じない。

メインはステーキなどのグリル料理。
それはレストラン的に厨房から料理が運ばれてくるんだけれど、それ以外にサラダやスープ、ご飯やパンはバフェに並んで食べ放題。
料理の提供が遅いであったり雰囲気を悪く感じるほとんどすべての責任が、ロイヤルホストのようなレストランではお店の人の方にある。
けれどバフェというにおいてのその責任は、お客様とお店の人の双方にある。
メインが遅ければサラダバーをたのしんでいればいいわけで、だからお店の人の表情や作業にどこかホッとしたムードを感じる。

お客様とお店の人との幸せな関係

本来、サービス業っていうのはサービスを提供する側と受ける側が立場は違えど対等な高さにあって、互いに責任を分担し合うことで成立するのだけれど、最近の日本ではその前提が崩れてしまった。
唯一、その関係性が取り戻せるのがセルフサービスがある空間なのかもしれない。
「バフェというセルフサービス」があるこういう場所ののどけさは見ていてとても気持ちいい。
それに最近、ホールで働くサービススタッフの数が少ないお店が多い。
ガラーンさみしい空間では料理も冷めて感じるけれど、バフェレストランではお客様が自然に席を立って自分でサービスをする。そのにぎやさと活気は得難い、食欲誘う良い要素。
人を幸せにするレストランの1つの形なのかもしれない…、って思ったりする。

なんでシズラーみたいなロイヤルホストを作らないんだろう。
サラダバーのロイヤルホストという意味でなく、セルフサービスを取り入れたお店とお客様が相互依存できる業態。
そんなことしたらお客様から嫌われるってビクビクしながら無理をしている。
お客様の善意を信じることができれば多分、セルフサービスロイヤルホストって受け入れてもらえるに違いないって思うんだけど、どうだろう。

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