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"天文部"の部長だった時の話

「先輩、放課後のプレアデスを観てください。マジで。」
高2。後輩に言われたこの言葉を当時の僕は軽くあしらっていた。
人生で5本の指に入るレベルの後悔である。

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先日こんな記事を書いた。


この記事は投稿後じんわりとプレアデス界隈に浸透しはじめているようで、アニメ放送後長い年月が経つにもかかわらず「界隈」が存在している事の嬉しさと、勢いだけで書いたこの記事が拡散されることの若干の気恥ずかしさでTwitterの通知が来るたびに変な顔になってしまう。

放課後のプレアデスは「何者でもない」主人公たちが「何かになるため」の成長の過程、そしてその美しさを「魔法少女」というファンタジー性を「サイエンスフィクション」のレベルにまで落とし込み、そこにダイナミックな宇宙の様子をはじめとした様々な装置を用いつつ幻想的で分かりやすい形に整えた状態、かつ考察の幅が十分にある状態で視聴者に伝えていて、「何者でもなくても私は私」「未完成であることは可能性を秘めているという事でもある」という前向きなメッセージがそこには内包されているのでは云々...

とにかく言いたいことが溢れて止まらない。イッキ見したせいで、押し寄せてくるさまざまな関係性やら演出やら脚本やらがいかに優れたものであるのかを上手に言語化できない悲しい自分がいる。月曜の視聴直後から周りの友達に延々と布教しているが深い話は全部ネタバレになってしまうし、そろそろ悪質な宗教勧誘とみなされて大学を辞めさせられるかもしれない。プレアデスはいいぞ。(あおすばもいいぞ)

と、そうではなくて、僕自身がこの作品を受け入れるにあたって、絶対に忘れてはいけないことを上の記事で言い忘れていた。

「放課後のプレアデス」はアニメ作品としては結構珍しい「天文部」を用いたボーイミーツガールではなかろうか、という視点。

冒頭の話に帰ってくる。

かくいう僕も高校時代、天文部の一人だったのだ。というか部長。小難しい話は分からないけどその時は天文が大好きだったし、屋上の部室の鍵を開けて星空とよろしくやっていたのだ。住んでいるのもSUBARUのお膝元。どんくさいスペックも相まって、第1夜視聴中の僕はすばるにシンパシーを感じられずにはいられなかった。(ただのイキリトである)
じゃあ何でシンパシーが後悔につながるのか。

今日のnoteはその天文部の話。ちなみに正式名称は「天体気象部」である。

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今からだいたい7~8年前、中学3年生だった僕は理科の授業で初めて天文学に触れた。元々「学研」が好きだった両親の影響もあって天文学の世界を知らなかったわけではない。単純にその時は一切の興味がなかった。しかし中3、進路選択で悩んでいる僕は「理科2」で天文学と真っ向から向き合う事となる。

学んでいく過程で僕は天文学のスケールの大きさに感嘆する事となる。例えばオリオン座の1等星ベテルギウスは太陽の1000倍、大きさにして123億kmある。なんじゃそりゃ。天文学はバカなのだ。スケールが大きすぎて人間の些細な悩みがとてもちっぽけであることを教えてくれる。結局人間の営みだって全部地球の活動の一瞬に過ぎないと確信が持てる。

天文学の面白さを話し出すとキリがないのでこの辺にするが、僕はそんな天文学をもっと知りたいと感じた。僕的にはこういう知的好奇心の芽生えは珍しかった。

そして大型望遠鏡を備える県上位クラスの進学校になんとか合格した。受験は本当につらく苦しい戦いだったと今でも思う。そして意気揚々と「天体気象部」の部室に乗り込んだわけだが...

その実態は正直言って杜撰だった。部員は20名前後だが過半数が名前だけの幽霊部員。実際に活動する部員は確か4~5人。
活動内容もしょっぱくて、日暮れまでパソコン室で天文にかかわる事象を調べ、夜になって1時間弱、大型天体望遠鏡を操作し、市街地の光と野球部のナイターライトが溢れる中でどうにか2~3個の星にピントを合わせるだけ。合わせたところで太陽系惑星以外の星は総じてただの点。星座の形もロクにわかりゃしない。しかも顧問が渋って毎週金曜しか活動できない。

要するに廃部寸前だった。
「星を語れる男ってカッコよくね?」というシャバい理由で来た体育会系の同期連中は1か月経たずに部を去り、一応13人いた新入生は一か月で3人となっていた。まだ残っていた僕以外の同期は非常に賢い奴らだったが、僕ほど活動に真剣ではなく、テスト勉強の場所として部室を使っているような連中だったと記憶している。1年生で真面目に部活をやっているのは僕だけ。

希望を抱いてここまで来たのにこの仕打ちとは。何かやれることは無いかと顧問に直談判したこともあったが、答えは好ましくないものばかり。

そして1年の冬、文理選択で衝撃の事実を知る。
この高校「地学」がない。
「質実剛健」「文武両道」がモットーの母校だが、その実みんな考える事は基本的に「進学」。「地学」をここで勉強したところで受験に使えるかと言ったらそうでもない。そりゃやんねぇ訳だわ。完全にこの高校に失望した。

ギリギリで入学したため基本的に落ちこぼれだった僕。「地学」さえできればと思っていたのにこのザマ。もうこの高校に思い残すことは何もない、アディオス───!!!

とも思ったが、部活をこのままにしておくのはちょっと胸が痛んだ。だって僕と同じ思いをした後輩が来たらどうすりゃいいんだ。なんて言えばいいんだ。
もう自分の代がどうこう、というのは諦めるとして、後輩がいつかこの部活を楽しく過ごしてくれればそれでいいんじゃないかと。

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とりあえず僕は出来る限りの事をした。まず新入生の歓迎に力を注ぐことにした。とにかく部員数を増やしてこの部の息を続かせなくちゃいけないと思ったからだ。
結果10人の後輩が加入。彼らの面倒を真剣に見て退部を防ぎ、優秀な後輩も育成できた。天体観測会を定期的に開催し、一般の人たちを望遠鏡に案内した。部の内部から外部に活動を発信しつづけた。観測する天体もベテルギウスやカペラといった恒星から月や火星、木星といった衛星や惑星にシフトした。視覚的な面白さは必要不可欠だった。

そうして地球がまた太陽の周りをぐるりと周り、気づけば僕も3年生だった。文化祭。僕らがつくったプラネタリウムは骨組みから構築するドーム型で、これが展示で最優秀賞を獲得するに至った。

翌週の観測会は過去最高の3ケタ人を動員するものになった。念願だった土星の観測も成功した。

廃部寸前の部活を再興した。そのやりがいだけでその時は満足だった。そしてその充実感を胸に卒業した。

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で、話は戻ってプレアデスである。先ほども話したが僕は視聴中どこかですばるに対してイキリトよろしく同化体験をしていた。完全にすばるの視点に乗っ取って話を観ていたといえる。深い内容はネタバレ回避の為に割愛するとして、すばるが作中で体験していく葛藤も、感じていく神秘的な世界も、何より爽やか極まりないボーイミーツガールも、僕には無かった、という残酷な事実をここで突きつけられてしまったのだ。

そう、今までの話は本当に部活を管理経営しただけ。そこに青春なんてものはなかった。僕1人で切り盛りした部活だったし、悲しい事にここは男子校。

要するに。結局僕は自分の部活に誇りを持っていたが、今更になってちょっと後悔ちゃったな、っていう話。そんなわけで今はプレアデスをボーイミーツガールとして見れないのである。

もちろん、これだけがこのアニメの伝えたかったメッセージではないのは当然の話である。何も天文部で致命的な忘れ物をしていたとしても、それがこの作品をネガティブにとらえる理由なぞ無い。詳しいことは本編を観てほしいし、考察ならこんな駄文じゃなくてもっといい記事が探せば幾らでも出てくる。エッセンシャルな部分はStella-riumを聴いてくれ。本当に放課後のプレアデスはいいアニメだった。どちらかといえばこの作品を知るのが遅かったことの方が純粋に後悔である。

という訳で、今日の自分語りでした。



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