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デザインの定義が変わる夜(CXO Night #3 デザインを越境せよ イベントレポート)

こんにちは。のっちです。
CXO Night「デザインを越境せよ」に参加しました。今回も高倍率となっており、若手のクリエイティブな社長からデザイナーなら誰もが知っている人まで「こんな人たちが一同に集まる夜ってあるの?」というイベントでした。その前評判通り、とてもアツいイベントとなりました。今回はそのイベントレポートになります。

若手デザイナー社長トーク

まずは若手デザイナー社長トークから。モデレータはFOLIO CDOの広野さん。ゲストとしては「未来の電話を再発明する」Talkroomを制作しているペンギンの人、しょせまるさん(本名初めて見ました)と、リリース直後ユーザーの心を掴んで大きなムーブメントを作った匿名チャットアプリ「NYAGO」を制作した株式会社UNDEFINEDの若月さんです。
しょせまるさんはイベント開催当日に個人で開発したBATONをリリース。ツイッターで10万を超えるインプレッションを出すなど、そちらでも話題となっています。ほんとにペンギンでした。

自然と残ったデザイナー経営者という選択肢

若月さんの起業のきっかけは共同創業しようとしたメンバーと「いいものが作れる」と確信したから。デザイナーは社内にいなかったため、自分でやってみたいと手をあげたことがきっかけとのことです。

しょせまるさんは新しいプロダクトを作りたいという思いが根元にありその手段として起業を選んだとのこと。共同創業者はしょせまるさんとは違って論理派タイプとのことで、そのバランスがpiconの良いプロダクトを作る理由となっているようです。

お二人とも「デザイナーにならなければ!」というよりは「プロダクトに一番向き合えるのがデザイナーだから自然にそうなった」という印象があり、自然とデザイナー経営者という選択肢が目の前に残っていたのだろうとと感じました。

また、「デザイナーとしての力を高めるためにどんなことをしているか」という質問に関しては、若月さんは「トレースなど基本的なことはしたが、メインは新しいものを作りながら試行錯誤した」しょせまるさんは「下手でもいいから作って出すことを繰り返した」とのこと。
デザイナーの力は新しいものを作り、とにかく出してフィードバックを真摯に受け止め、その改善によって磨かれるもの。お二人はデザインの専門的教育を受けているわけではないのかもしれませんが、デザイナーとして必要なマインドセットを持ち合わせており、スキルアップの最短距離を行くことが出来たからこそ、こうしたプロダクトを生み出すことが出来たのだと思いました。

NYAGOはとにかく出してフィードバックから改善していくチーム。メンバーからもたくさんのコメントがあるようで、周囲のターゲット層のコメント含め、それらに向き合いながら作っていくうちに良いプロダクトの輪郭が作られていったとのこと。
PRに関しては、OGP(シェア時に表示される情報)を特徴的にして、とにかく印象に残るように心がけたそうです。ユーザージャーニーの中で最初にプロダクトに触れる場面ですし、コミュニケーションツールという性質から見ても、そのこだわりがバズの一役を大きく担っていたと言えるでしょう。


ちなみに「NYAGOの説明動画かわいい!ってか金かけてる!」って思った人は僕だけではないはずなのですが、あの映像は友人が作っていて、声は友人の妹さんだそう。「今風」のクリエイティブをすぐに作り出せたところもNYAGOの強さだったのではないでしょうか。

しょせまるさんが心がけているのは世界観。トイストーリーのバズ・ライトイヤーのワンシーンを見て「これだ!!」と思い、それを何度も見てTalkroomの世界観を作っていったそうです。

デザインを移譲することの難しさ

現在UNDEFINEDのフェーズがプロダクトを作るフェーズであるため、若月さんの現在の業務はほとんどがデザイン業務。
会社の体制としてはPMがワイヤーまで書いてそれを若月さんに渡すタイプということで、若月さんは画面の作成に集中して取り組むことが出来ているそうです。

piconは最近まで2名でやっていたので、しょせまるさんは開発以外の全てのことを請け負っていたのですが、メンバーが増えて行くにあたって必要な部分を周囲に受け渡しているそう。しょせまるさん自身はデザイナーでありたいので、その業務をどう移譲して行くか、これから試行錯誤するということでした。

若月さんもデザインという部分にはこだわりを持っており、どう移譲して行くのかが難しくなりそうとのこと。
この難しい問題に対して、お二人がこれからどういう意思決定をして行くのか、またお伺いしたいなと思いました。

しょせまるさんが感じているデメリットはクリエイターとしての悩み。しょせまるさんは典型的なクリエイター気質であることを自認しているため、その業界でトップを取るために全ての時間を割くことが出来ないのが悩みとのことでした。

しかし逆にメリットとして、社長ということは好きな組織を作ることができるので、組織内のデザイナーの掛け算で最高のプロダクトづくりを思い描くことができることをあげていました。

若月さんがデメリットとしてお話していたのはデザイン以外の業務に時間を割かなければ行けない場合に、デザインに集中することが出来ないということでした。

メリットとしては、「イケてる会社が作りやすい」こと。アウトプットのビジュアルにこだわるデザイナーが経営に携わっているからこそイケてる組織になるし、イケてる組織にはイケてる人材が集まりやすい。そのような好循環を生み出すことができるのはデザイナー社長ならではのメリットと言えるではないでしょうか。

若月さんが目指しているのは「イケてる会社を作る」こと。AppleやAirbnbのように「UNDEFINEDで働いてるの?かっこいいね」と言われるような組織を作り、それを大きくしていくことが、若月さんの将来的な展望とのことでした。

学生に伝えたいことは「なんでもいいから好きなことを見つける」こと。「これやっている俺 / 私かっこいいよね」と自分に酔っちゃうようなものを見つけてそれに傾倒することが将来のためになるのでは、とのことでした。

しょせまるさんはpiconを「発明研究所」のようなラボにしたいと考えていて、そのためにとにかくプロダクトを作りやすい環境を作っていきたいということでした。

しょせまるさんは学生の時にしておけばよかったエモいことをたくさんやり残しているそう(制服ディズニーとか合コンとか)で、それを経験していれば現在のプロダクトにももっと反映できていたかもしれない...!と感じているそう。確かに直接的なフィードバックになりそうな後悔...。
だから、「今しかできないリア充なこと」を考えてそれを楽しむことが、後々の経験に活きてくるのでは、ということでした。

前の質問も含め、お二人とも「デザインとしてプロダクトにこだわる」デザイナーとしての視点「〜のような組織/カルチャーを作っていきたい」という経営者としての視点を併せ持っており、まさにデザイン社長だなと思いました。

もちろん色々な障害があり日々悩むことも多いと思いますが、それにきちんと解を出して進んで行く姿はかなりかっこいい(イケてる)し、こういった人材が世に増えると、よりデザインと経営が密接になって行くと感じました。
(あと「イケてる」って言葉を半年分くらい2人から聞いた気がします。笑)
お二人のこれからに期待です!

質疑応答にて、しょせまるさんはペンギンスタイルの夏服に悩み中とのこと。今年の夏スタイルにも注目しましょう!

デザイン業界をリデザインする ReDesigner 佐宗さん

LT1人目はGoodpatchの運営するデザイナーのキャリア支援サービス、ReDesigner佐宗さん。最近話題のサービスですね。

まず佐宗さんが出したのは「14%」という数字。これはフォーチュン100(全世界の企業のうち総収入のトップ100企業)のなかでデザインエクゼクティブを置いている割合とのこと。これがユニコーンになると21%にも昇るそう。5社のうち1社がデザインに多くのリソースを投下しているということで、グローバルに見てデザインの重要性が上がっていることが伺えます。

デザインの地位向上に伴って、その役割も複雑化(今回のイベントの趣旨からすると「複雑化したのではなく最初からデザインってそういうものなんだよ!」ということを言われそうですが、デザインに携わっていない方から見て多岐にわたっているという認識を頂けると幸いです...。)。経営に携わるところからユーザーにとても近い部分まで、幅広い業務が「デザイナー」という言葉の中に入っています。

しかし、そのデザイナーの役割の複雑化に対して周りの理解が追いついているとは言えず、多くの部分でミスマッチが起きているのが現状です。確かにこういう話はよく聞くし、転職が億劫になって踏み出せなくなる、ということも頷けます。

そこで登場したのがReDesigner。「デザイナーがパフォーマンスを最大限発揮できる社会を作る」をビジョンに掲げ、企業とデザイナーの間に入って双方の理解を促し、最適なマッチングを実現するのがこのサービスの特徴です。
デザイナーのこと、そして日本企業とのデザインプロジェクトを数多くこなしてきたGoodpatchだからこそできるサービスと言えますね。

最後に出されたReDesignerのゴール。これはアツいですね...。デザイナー1人ひとりのキャリアだけでなく、デザイン業界全体をリデザインしようとするGoodpatchの想いが伝わってきます。

ReDisignerではデザイナーの業務に精通した方が面談してくれるそう。どうやら佐宗さんにも面談してもらえるみたい...登録しよう...。

SNSとメディアとデザイン kakeru 三川さん

続いてのLTはSNSでよくお見かけするOptの三川さん。SNSメディアkakeruの編集長をされていらっしゃいます。

OptではSNSコンサルティングを事業として行なっていますが、そのブランディングの一環としてkakeruが発足したそう。えとみほさんを筆頭に、多くの個性豊かなインフルエンサーの方々が、kakeruでSNSに対する情報を発信し、Optのブランディングや仕事の獲得につながっているとのこと。

Optは先日、クリエイターが集まるStudio Optを開始。kakeruはこれから、そのStudio Optとともにポートフォリオサービスの開発や、クリエイター同士のマッチングを開始したりするそう。デザイン業界が活気付きそうな取り組みですね。

このような取り組みを一緒に実施してくれるデザイナーさんなどクリエイターを大募集しているということ!新しいクリエイターの生き方を作っていきたいという方はぜひ、素敵なティザーサイトをのぞいてみてください!

僕はうまくまとめられてないので、スワンさんの素敵なデザインメモを掲載させていただきます。勉強になります...!

「デザインを越境せよ」レジェンドトーク

さて後半戦。後半では日本のデザイン界をリードするお三方から「デザインを越境せよ」ということをテーマにお話をいただきました。Takram Podcastを聞いている方は田川さんに一目会えることを楽しみにしていた人もいるのではないでしょうか(僕もその一人です)モデレータはしおたんさん。
登場した時から皆様の神々しさがすごい。

まずは今回のテーマである「デザインを越境する」ということについて。

越境してこそデザイナー

そもそも「越境」しなければいけなくなったのはどうしてなのか?

田川さんは昔から考えられている分解主義が原因であると言います。
ビジネスやテクノロジーはその性質上、大きな問題を解決するためにより小さい問題に噛み砕き、その小さいものを解決することで大きな問題の解決に挑むという図が一般的とされています。
そのため、「ここはビジネスサイドで解決します」「ここは技術サイドが」という議論がなされ、自然と「自分たちの範囲」が決まっていきます。

しかし、デザインが向き合わなければいけない大きな問題はユーザーであり、ユーザーに対して責任を負う人です。その課題を解決するためには、当然ながらマーケティングや技術的視点から課題を見つめ、統合する必要が出てきます。そのため、デザインは「自分たちの範囲」を定めず、他の分野と一緒になることで、大きな課題を解決することができるのです。

つまり、「デザインの越境」というよりは、「境」を持たずに課題解決することが、あるべきデザインの形である。田川さんに言わせれば「デザイン『の』越境」ではなく、「デザイン『は』越境するために必要なマインドセット/スキル」である、ということでした。

深津さんも「デザイナーが越境するのではなく、越境して課題解決に挑む人がデザイナーである」と話します。
可視化されていない問題を枠組みに落として見える化し、それに対する解を見つけるのがデザイナーと呼ばれるはず。しかし、分業化されて狭い領域をデザインと呼ぶようになってしまったため、「越境」という言葉が出てきたのが現在の日本のデザインである、ということでした。

しかしそうした包括的なスキルを持つためには色々な教育が必要で、それってこの前のデザイン宣言は何か関連しているのですか?というしおたんさんの疑問から、Qは飛ぶけど話はデザイン宣言の話に。しおたんさん流石の仕切り。

デザイン経営宣言の目的

デザイン経営宣言は田川さんが主筆で書いた経産省の宣言。
この宣言を書いた目的は大きくふたつあるとのこと。

ひとつめは、
「デザインを経営に取り入れるべき」という意識を持っている社員が経営層に提案を持って行くときの強いファクト(武器)として使ってもらうため
というもの。これは本当に強い武器になるし、企業内部からデザインに対する思想が変わって行くための大きな助けになって行くでしょう。

ふたつめは、深く考えさせられたことですが
これまでのデザインに対する定義をリセットして、新しいものにシフトするため
とのことでした。

現在、みんな意識していないけど、なんとなく大きくふたつにデザインを定義していて、
・狭義のデザイン:見た目を作ること。small-dとも言われる
・広義のデザイン:見た目を作ることを超えた体験設計。UXデザインや、デザインと経営を織り交ぜることとか...。Big-Dとかとも言われる
のような感覚を持っています。わかる。持ってます。「見た目を作るのはデザインの考え方としては古いよね重要じゃないよね〜」とかいう話、聞いたことありますよね。

しかし田川さんは「見た目を作るのが重要じゃない?そんなの嘘だ!はっきり言いますよ?嘘です!」と断言します。
Appleだってテスラだって、プロダクトの見た目を除外すると、良いプロダクトとは言えない。デザインが解決すべき大きな問題はユーザーなのだから、見た目が重要でないわけがない。
もちろん体験設計やプライシングなどもユーザーから見たら見た目と同じくらい重要なので「ユーザーという文脈で捉えてみると、狭義のデザインも広義のデザインも同じ枠組みの中に存在しなくてはならない」と田川さんは熱く語ります。

それでは、ユーザーという文脈で捉えなおした時、デザインの役割はどのように再定義すべきなのか?田川さんは「イノベーション」と「ブランド」だと話します。なぜなら、それらがデザイナーが寄与する力が大きく、またユーザーが直接価値を得られるものだからです。

例えばGoogleも無印良品もヒットプロダクトを生み出していますが、なんとなく「デザインがいいよね」で片付けられています。その両者の良さを認識するために「広義のデザイン」「狭義のデザイン」などの軸は使うことができなくて、「イノベーションに特化しているGoogle」や「ブランドに優れている無印良品」という考え方をすることで、両者の良さや違い、社内で果たすべきデザイナーの役割を語ることができます。

今後「イノベーション」と「ブランド」という考え方を根本に置いてデザインを捉えなおすことが、デザインをより経営に浸透させていく上で必要不可欠である、ということがデザイン経営宣言の冒頭に書かれており、これこそがデザイン宣言の目的である、とのことでした。

そこから生まれたデザイン経営の定義は
・経営陣にデザイナーがいること
・ものづくりプロセスの最上流からデザイナーが関与していること

となっており、近い未来こういった企業が多く特集され、ムーブメントとなっていきそうです。

しかし経営陣にいきなりデザイナーが入るのはきっと大変。経営にデザイナーが携わる上でどんなことが必要になるのだろう?というところからひとつ前のQに。しおたんさんまたも流石の仕切り。

経営陣との向き合い方

ここでは、noteのなかでCXOとして経営陣と対話している深津さんから。
深津さんは「相手のわかる言語で価値を伝える」ことが重要だと言います。経営陣にとって「わかる言語」とは数字であり、「ビジネス上納得できる数字でデザインの価値を伝える」ことが、デザイン経営を実行していく上で大切なことであるとのことです。
「なんとなく綺麗」のような感覚で意思決定の土俵に乗せてしまうと相手は理解できないし、結果として「みんなデザインわかってくれない!!」のような展開になってしまうこと、よくあります。慣れないうちはこの「伝える」部分に時間をしっかり使うことが大切そうです。

IDEOで多くの経営層と向き合っている田仲さんは、評価ツールを使って会社の力を可視化することで、クリエイティビティを組織がどの程度運用できるのかを理解してもらっている、ということでした。
デザインが経営に携わると言っても、最初は不安であり、本当にうちで活かすことができるの?という疑問を持っている方は数多いそうです。
その疑問を解決するために「コラボレーションはうまくできているか?」「プロトタイピングはできるか?」などの評価を実施して伝えることで、デザインがどのように組織に浸透するのかを理解してもらい、現状をしっかり共有してプロジェクトを推進して行っているとのことでした。


ここから、経営とCXO からデザイン組織についての話題にシフト。(ナチュラルシフトすぎてわからなかった)

長期を見るCXOと現場のクリエイティブ担当を分離

田川さんが深津さんのCXOの役割としてとても参考になったと話していたのは、プロダクトチームのクリエイティブディレクターとCXO(深津さん)は別の人がしていること。深津さんはnoteのビジュアルに関してはほとんど他のデザイナーに任せていて、彼らが自分たちの力を遺憾無く発揮できるように適切なクリエイティブの道を作っていくことに徹している、とのことでした。

noteのデザイナーは現在3-4名。その人数でも役割を明確にしています。
これは、現場でPDCAを回しながら最適なUIを作っていくことと、長期的ビジョンからプロダクトにとってより良い道を作っていくことが別物であると認識し、「プロダクトが複数になった時にどうトンマナ合わせる?」「ブランドのガイドラインはどうする?」などの難しい課題により早く応え、長期的に健全に成長する組織体を作るためであると言えます。

この役割を同じだと認識していると、例えば1年目のイケてるプロダクトが2年目以降崩れていく、なんてことがよくあるそう(なんとなくわかる)。

経営層に近いデザイナーのメンバーはこういった問題をあらかじめ認識しておき、自分が現場かマネジメントどちらにいるべきなのかを考えて一緒に働く人を見極めることが必要、ということでした。

デザイナーとプロダクトの適切な距離感をつくる

また、デザイナーが組織を作る上でお三方が共通で持っている認識として「デザインがプロダクトに寄りすぎると、品質が落ちる」という話がありました。

デザイナーがプロダクトに情熱を傾けないと品質は低いわけですが、あまりにプロダクトを自分ごと化しすぎるとプロダクトの品質は落ちてしまう。これは客観的視点が損なわれるという理由もありますし、周りの力を使っていくという想像力が欠けてしまうことも一因です。

TakramではAttachmentとDetachmentといって、プロダクトを自分の中に取り込む行為と、拘って掴み続けているプロダクトと意識的に距離を置くという行為を実行することで、デザインする上で客観性を保つようにしているそうです。

また、noteでは、サービスに対する帰属意識をできるだけ分散させるようにしているとのこと。
つまり「これは〇〇さんの作品です!」のようなUIを作るのではなく、多くの人が関わることで、プロダクトメンバーはnoteと適切な距離感を保ちながら制作を続けているとのこと。
ちなみに深津さんはその帰属意識をクリエイターや読者も持つことができるように設計しようとしているそう。なんともすごい話だ...。

他にもデザイナーがプロダクトとの距離を適切に保つ方法として「I」と「We」を使い分ける、という話を田川さんがしてくれました。

デザイナーはプロダクトで自己表現をしすぎてはいけないが、100%自己表現ができないと、自分の存在価値を失ってしまう可能性があります(これは教育の弊害もあるとのこと)。
そのため、「この制作はWeだよね(みんなでやろうね)」「これは「I」だね(あなたに任せるね)」のように、共通意識を持ってやる部分と自分の誇りを持てる部分を明確にすることで、デザイナーの意識を高く保ち、クオリティの高いプロダクトを作っているそうです。


ここは課題を分解しやすいビジネスやテクノロジーと違う考え方なので、同じ考え方でやろうと思うと失敗してしまいます(この後半戦レポートの冒頭に書いた、課題分解の話と関わる話です)。

良いプロダクトを作るための組織意識

良いプロダクトを作るために、深津さんはベン図を頭の中に描いているそうです。デザイナーとして良いと思う円と、テクノロジーとして良い円、ビジネスとして良い円。その3つの円が重なる部分が最も狙うべき部分であり、経営陣全員がこの意識を持つことができれば良いプロダクトに近づけられるということです。
重要なのはデザイナーだけでなく組織全員がそのマインドセットを持つこと。制作会社のデザイナーであれば営業にデザイナーがついていくべきだし、周りの人がそのようなマインドになるように意識を統一していくことが求められます。

この後、「コンペは全てがダメになるように設計されている」というコンペ撲滅の話がめちゃ面白かったのですが長くなるので割愛...。

最後にこちら。

深津さんは、なんでもいいので企画して作ってみて売ってみるという経験を最初から最後までやってみることが大切と話します。
全てをやってみると、デザインからマーケから分析からなんでもやることになるので、経営目線でのデザインの立ち位置や重要性を認識できるようになり、また数字でデザインを語ることができるようになる、ということでした。とても大切ですね...!

田仲さんは、人の話を「受け入れる」ということでした。CEOはすでに本質的な悩みに行き着いていることもあり、その場合はこちらから提案ばかりするのではなく「しっかり聞いて受け入れる」ことが何よりも重要になります。
CDO/CXOというと、デザインを全て受け持って自分からどんどん提案しなくてはという気持ちになりますが、まず経営の話を聞いてわかりやすくすることだけでも大きな価値があり、その上でデザイナーとしての課題解決が必要であれば、適宜スキルを発揮する、という順番が必要とのことでした。

最後に田川さん。CXOになるためには色々あるけど、まずはそれになるぞと決めてしまう意思決定が何よりも重要とのことでした。
全員がCDOやCXOになる必要はなく「デザイン×経営」に関心がある人が向き合えばいいし、まずは自分がデザイナーとしてどこに向いているのか、どこを目指していくべきなのかを考えることが重要ということでした。(ReDesignerを使ってコミュニケーションとりましょう!ということですね!笑)
もしもCDO/CXOになりたいという人は、CEOと同じ知見をもち、適切なコミュニケーションをとるために、数字面を含めて色々な知識をつけていくことが必要。
特にCXOに関してはぐちゃぐちゃになっているものを構造化して簡単に伝えることができる能力が必要になるので、そのようなコミュニケーション能力を特に勉強する必要がある、とのことでした。

Takramがジョン・マエダさんのデザイン・イン・テックレポートを日本語訳してくださっており、それを読むと今回の議論に対する知見がもっと深まるとのこと。チェックしてみましょう!

これで後半部分の本編は終了。

まとめ

登壇者のデザイナーとしての知見が凝縮された、本当に中身の濃いイベントでした。

イベント全体として、「デザイン」という定義を大きく捉え直す必要があるなと感じました。
しょせまるさんや若月さんが「こんなプロダクトを作りたい」と同じかそれ以上に「こんな組織を作りたい」と話していたように、彼らの中ではプロダクトデザインと組織運営を同じ線の上にあるものとして捉えており、ある意味「越境」していることを前提としたトークが印象深かったです。こういう流れがスタンダードになってくる期待感がすごいです。

また、田川さんの「イノベーション」と「ブランド」という視点からデザインを見つめ直すという話や、深津さんがCXOとしてデザイナーのあるべき立ち位置を作っている話のように、デザインという枠を「越境」するかしないかではなく、「越境することがデザインの役割」という認識を持った上で、どんな役割を自分が果たすのか考えていく、ということが、これからのCDO / CXOに求められることなのだろうと思いました。

とてもとても長くなりましたがイベントの熱気が少しでも伝われば幸いです...!

登壇してくださったしょせまるさん、若月さん、広野さん、田川さん、田仲さん、深津さん、しおたんさん、そして坪田さんや運営の皆様、貴重な機会をありがとうございました!

ツイッターでも実況していたので、もしよければのぞいてみてください。

それでは、またよろしくお願いします。

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