フットボールのダイヤモンド・オフェンス における攻撃サポートの構造化 28 ゾーン・ディフェンス攻略理論2 〜バスケットボール8〜

前回は、テックス・ウインターの4つのゾーン・ディフェンス攻撃メソッドの2つ「原則的な攻め方」と「フリーランス・アタック」について書いた。今回は「ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」と「ディフェンスと逆のアライメントを使ったオフェンス」について書く。

3. ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス

「ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」とは、例えば、相手ディフェンスが1−3−1のゾーン・ディフェンス(バスケットボールの場合)だったら、オフェンスも1−3−1に。相手ディフェンスが2−3のゾーン・ディフェンスであれば、オフェンスも2−3というように配置するシステムのことである。

テックス・ウインター(1962)は、「ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」についてこのように説明している:

オフェンスシステムとして ”ポジションバスケットボール” を徹底するという方法がある。このシステムは、基本的なオフェンスポジションからときどきカッティングなどをする以外は、ポジションを変えないものである。

テックス・ウインターが「ポジションバスケットボール」と呼ぶ、このオフェンスの特徴は、オフェンスとディフェンスが1対1の関係になるので、相手ディフェンスはゾーン・ディフェンスにとって最優先であるボールよりも、相手オフェンスプレーヤーに注意が向いてしまうことである。ゾーン・ディフェンスがいつしかサギングマンツーマン・ディフェンスような形になってしまうのだ。

サギングマンツーマン・ディフェンスとは、ディフェンスプレーヤーがマンツーマン・ディフェンスでありながら、ボール(ボール保持者)とマークをしている相手オフェンスプレーヤーの両方を見られる位置にポジションを取ることである。必然的にサギングマンツーマン・ディフェンスは、ボール(ボール保持者)よりもディフェンス全員が自陣の低い位置に下がった状態になる。

このオフェンス方法は個人能力を最大限に生かすことが可能となるので、個人能力で相手チームを上回る質的優位をもったプレーヤーが多くいるチームには、最適なシステムであろうと考える。

テックス・ウインター(1962)は、「ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」を3つの目的としてこのように説明している:

1. 1対1の状況をつくる。ディフェンスは、自分のゾーンにいるオフェンスをカバーしなければならないため、1対1の状況が生じる。オフェンスは、この1対1の状況を有効に活用すること。特に、特定のエリアでこれを用いたり、マンツーマン・ディフェンスの基礎が備わっていないチームにこれを使うと有効である。
2. ディフェンスの弱点をつく。特にディフェンスが下がったことでオープンになるプレーヤーにパスを出す。
3. 高さやクイックネスを最大限に利用する。

このオフェンスシステムは、オフェンスプレーヤーとディフェンスプレーヤーが1対1の状況になることで、全ての相手ディフェンスプレーヤーにプレッシャーを与えることになる。

テックス・ウインターが説明する「特定のエリア」とは、フットボールに置き換えると、ゾーン3(守備側から見てゾーン1)で、ボール(ボール保持者)よりも相手ディフェンス全員が自陣の低い位置に下がった状態の時に有効であると考える。(そうは言っても相手FWはゾーン3まで下がるのではなく、ゾーン2に留まるチームも多いと考えるが)。

相手ディフェンスの各プレーヤーは、自分が守っているエリアにオフェンスプレーヤーが1人がいることになるので、そのプレーヤーをマークすることになる。オフェンスプレーヤーはポジションを維持しながらパスを素早く回す。ボールを素早く回すことで、相手ディフェンスはボールとマークの両方を視野に入れることが難しくなる。

自分がマークしているオフェンスプレーヤーにオープンスペースでボールを受けられては困るので、自然と自分のマークの方を注視することになり、ゾーン・ディフェンスがいつしかマンツーマン・ディフェンスのようになってしまい、最終的に自分のマークしているプレーヤーが動くことにより、その動きについてしまうことによって、結局、オフェンス側にオープンスペースを与えることになってしまうのだ。

フットボールでもバスケットボールでも、その他のボールを使う集団スポーツは、ボールを相手ディフェンスが反応するより速く回すことができればシュートチャンスが得られるであろうし、マークを外したオフェンスプレーヤーにパスをしてシュートチャンスを作り出すこともできるだろう。

ゾーン・ディフェンスの原則的に、ゾーン3(オフェンス側から見て)のディフェンスでは、ペナルティエリア付近までDFラインを下げ、ゴール前にスペースを作らないようにするために、外側レーンにポジションを取るオフェンス側のウイングやサイドバックのプレーヤーがフリーになりやすい特徴がある。その外側のフリーになったプレーヤーにパスを回して、そこからドリブル突破でシュートチャンスを作る、もしくは相手のディフェンスが弱いプレーヤーのところでミスマッチを生じさせ、そのオフェンスプレーヤーの質的優位を使ったドリブル突破からでもシュートチャンスを作ることが可能であろう。

ボールを素早く回し相手ディフェンスが決断に迷うように仕向けることが、この「ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」の最大の目的であると考える。

フットボールの場合、バスケットボールのように完全に「相手ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」をすることはしないであろうと考える。なぜなら、オフェンス側も自チームのDFラインでは数的優位を保つ原則があり、ディフェンス側も特にDFラインでは、数的優位を保つ原則があるので、全てのゾーンで1対1という状況にはならないのではないかと考える。

図42:オフェンス側4−3−3から「相手ディフェンスと同じアライメントを使ったオフェンス」への変更例。ディフェンス側4−4−2の場合。

4. ディフェンスと逆のアライメントを使ったオフェンス

この「ディフェンスと逆のアライメントを使ったオフェンス」が、フットボールに置き換えるところの「ポジショナルプレー」の例として分かりやすいと考える。相手の配置システムと逆の配置システムを使うことで、数的優位やポジション優位、ライン間へギャップへのパスコース、オープンスペースが発生しやすくなるからだ。

テックス・ウインター(1962)は、「相手と逆のアライメントを使ったオフェンス」についてこのように説明している:

ディフェンスが1−3−1ならば2−1−2か2−3、ディフェンスが2−3か2−1−2ならば1−3−1のアライメントで対処する。すなわち、ディフェンスのギャップ(隙間)やオープンエリアでプレーすることによってオーバーロードをつくりだすのである。ディフェンスはショットチャンスをつぶすためにプレーヤーは位置どりを調整せざるを得なくなり、オフェンスもそれに対応して変化していく。ディフェンスはどう対処するべきか困惑してしまい、その結果、ほとんどの場合、ゾーンはやむなくマンツーマン・ディフェンスの形になる。

前にも説明したが、ゾーン・ディフェンスの攻略は、テックス・ウインターが言うように、ゾーン・ディフェンスをマンツーマン・ディフェンスのような形にさせてしまうことである。

「相手のディフェンスと逆のアライメントを使ったオフェンス」を使うことで、ある特定のスペースでオーバーロードが生じる。相手ディフェンスは、オフェンス側が逆のアライメントを使うことでフリーとなったプレーヤーやライン間のギャップにポジションを取るプレーヤーをマークしようとするだろう。最終的に、ディフェンス側はオフェンス側と同じアライメントの状況になり、ゾーン・ディフェンスがマンツーマン・ディフェンスのような形になってしまうのだ。

図43:オフェンス1−3−1対ディフェンス2−3のゾーン・ディフェンス。ディフェンスと逆のアライメントを使うことで、5番と4番のところでオーバーロードができ、2対1の数的優位の状況。ライン間のギャップ、DFの背後、外側でパスを受けることが可能。

図44:ディフェンスが相手をマークすると、マンツーマン・ディフェンスのような形になる。

オフェンス側はここから、パスを回して、スペースに動いてオーバーロードを作り攻撃していくことになる。相手ディフェンスの反応の仕方によって攻撃側がリアクションしてくことで、シュートチャンスを絶え間無く作り出して行くのだ。

図45:オフェンス側はディフェンスの反応の仕方によってリアクションする。

フットボールの「ポジショナルプレー」を考えるときに、様々な「ポジショナルプレー」の原則があることが予想されるが、まず最初に、相手のディフェンスシステムの逆の配置システムにすることを考えるところから、ポジショナルプレーがスタートするのだと思う。

例えば、相手ディフェンスがゾーン3で4−4−2のゾーン・ディフェンスであれば、オフェンス側は3−2−5。相手ディフェンスが4−1−4−1であれば、2−3−2–3など。相手の配置と逆の配置を考えることで、どこにポジション優位や数的優位、ライン間のギャップ、オープンスペースが生じているのかが分かり「ポジショナルプレー」が可視化されるのだと考える。

図46:オフェンス2−3−2–3対ディフェンス4−1−4–1。ディフェンスと逆のアライメント。

引用・参考文献:

ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 82-87.

バスケットボールクラブ大手町一家. 大手町一家 no ball no life (2010, 1, 07). https://www.basketball-ikka.net/blog-22.html

サポートありがとうございます。次の投稿をする意欲が湧いてきます。このお金はサッカーを深く知ることに使いたいと思います。