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スペイン式フットボール分析学2:W杯2018ロシア:スペイン代表のファイナルゾーンの攻撃分析 イラン戦(前半)

スペイン代表のゲームモデル(プレーモデル)を分析する。尚、スペイン代表のゲームモデルを知るためには、相手チームであるイラン代表のゲームモデルを知る必要があるので、この日の対戦から、両チームがどのような戦略および戦術で戦ったのかを分析する。

今回は主スペイン代表のゾーン3における「セットオフェンス(Finalizaciones)」を分析した。

FIFAワールドカップ2018ロシア グループステージ・グループB

イラン対スペイン(0対1)

両チームのスターティングメンバー


スペイン代表のファイナルゾーン(ゾーン3)の攻撃を分析した理由は、第一にイラン代表がスペイン代表のゾーン1からの「ボール出し(Salida de balón)への守備」を失点するまで開始しなかったこと。

第二にイラン代表はハーフラインから4−5−1のゾーンディフェンスで守備を開始するのだが、スペイン代表がボールをサイドチェンジするだけでズルズルとゾーン3(スペイン代表から見て)の自陣ペナルティエリア前までディフェンスラインを下げてしまうので、スペイン代表のゾーン2で行われる「前進」を分析する必要がなかったからである。

イラン代表のこの試合の目標は失点しないで0対0で試合を終えることであり、その目標を達成するための「プレーモデル」を考えてこの試合に臨んだのだろう。また、失点するまで積極的に「カウンターアタック」を実行することもせず、相手のスペイン代表のミスとセットプレー、ロングスロー、フリーキック、コーナーキックからの得点しか考えてなかったように思える。


スペイン代表のボール支配率

チーム別データ


ファイナルゾーン(ゾーン3)基本システム:

スペイン代表:3-2-5 vs イラン代表:6-3-1(ゾーンディフェンス)

図1:ファイナルゾーンの基本システム(3−2−5)とプレーヤーの配置(左サイドのJ.アルバ、イニエスタ、イスコと右サイドのカルバハル、D.シルバ、L.バスケスはポジションに流動性がある)

スペイン代表とイラン代表の基本システムは4−1−4−1である。イラン代表のファイナルゾーン(ゾーン3:スペイン代表から見て)においてのシステムが、両WGがディフェンスラインに入り6バックを形成した6−3−1のゾーンディフェンスであるため、両SBの右カルバハルと左J.アルバが高い位置を取り3−2−5システムになる。ブスケッツがディフェンスラインに入りピケとS.ラモスと3バックを形成する。イラン代表のディフェンス時のシステムはゾーン2では4−5−1のゾーンディフェンスである。

ディフェンスの基本原則として、ディフェンスラインで数的優位をつくるというのがある。その基本原則をふまえて考えると、オフェンス側は相手のディフェンスラインでは通常は数的不利である。MFラインでは数的同数、もしくは数的優位、自チームのディフェンスラインでは数的優位である。

イラン代表の6バックに対して数的優位を形成するのは非常に難しいことである。そこで大事になってくるのがポジション優位(例:相手の背後でボールを受ける)と質的優位(個人能力で相手を上回る)とフランシスコ・セイルーロが提唱する社会的感情の優位(チームメートとの関係性の優位、戦術的優位)である。数的優位を含めてこの「4つの優位性」をどのようにスペイン代表は活用して、イラン代表のディフェンスを打ち破るのかを分析する。

数的優位、ポジション優位、質的優位、社会的感情の優位


前半40分にセンターリングを上げるための1つの解決策を得る:

図2:前半40分のスペイン代表の配置。尚、前半25分からイランの1トップS.アズムンがマンツーマン気味にブスケッツをマーク。そのため、ブスケッツは中央右サイドへ移動する。ピケがブスケッツと変わって中央でボールを保持する。

40分になった頃にやっとサイドから数的優位を作りセンターリングを上げるところまでこぎ着けることができたスペイン代表。試合開始当初のプレーヤーの配置と比べると、左右WGのイスコとL.バスケスが相手ディフェンスの外側にポジションを取るようになり、グラウンド中央の相手ディフェンスラインのライン間にいるのはD.コスタただ1人となっている。

右CBピケがグラウンド中央にポジションを取りボールを保持している。左サイドの3人がラインに並んでいる(イニエスタ、イスコ、J.アルバ)。これをフットサル用語では3 on lineと呼ぶ。

図4:イスコが斜め前方に移動し、イニエスタとポジションチェンジ。

3on lineからイスコが斜め内側に移動する。イスコがグラウンド内側へ移動することによって、相手ディフェンスもイスコの動きに注意を払わなければならなくなるので、イスコがいた場所がオープンスペースとなる。そのイスコが空けたスペースにイニエスタが移動して、S.ラモスからパスを受ける。このイスコとイニエスタのポジションチェンジの動きをハンドボールでは「ユーゴ」と言う。

図5:ボール保持したイニエスタは、イスコにボールをパスして斜め前方に走る。

左サイドでボールを保持したイニエスタは相手ディフェンス2人を引きつけて、イスコにパス、自身はグラウンド斜め前方に走る。この動きをフットサルでは「サイの動き」とか「Cortina(カーテン)」と呼ぶ。

図6:相手ディフェンス2人を引きつけるイニエスタ

イニエスタがグラウンド斜め前方に走って移動したことにより、相手ディフェンス2人もイニエスタ動きに引きつけられるので、ボールを受けたイスコの前方にはオープンスペースができる。イスコも相手ディフェンスを引きつけて左SBのJ.アルバにパス。

図7:フリーでセンターリングを上げるJ.アルバ

J.アルバはこの試合初めてフリーでセンターリングを上げることに成功したが、マイナス気味のクロスは相手ディフェンスに阻まれてしまいシュートチャンスは得られなかった。

前半はこの3 on lineからのイスコとイニエスタがハンドボールやフットサルの動きであるユーゴ(ポジションチェンジ)や「サイの動き」もしくはCortina(カーテン)を使って、両サイドで大きな動きを入れることで両サイドで2対1の数的優位を作りフリーでセンターリングを上げるところまではいったが、イランの人数をかけた守備になかなかシュートチャンスを得ることができなかった。

イラン代表はスペイン代表戦に向けて相当数のこのゾーン3(スペインから見て)をディフェンスするトレーニングを積んだことだろう。サイドからのセンターリング以外にもペナルティエリア外からのミドルシュート狙いたいスペイン代表だったが、ゾーン3内でのイラン代表のプレッシャーが素早く、インテンシティの高い守備になかなかミドルシュート打たせてもらえなかった。それでも、一度、D.シルバが右斜め45度からミドルシュートを打ったが相手ディフェンスの足にあたりゴールにはならなかった。

後半はまた次回に書くが、もう試合結果をわかっている人は、相手チームがゾーン3で人数をかけてディフェンスをしてライン間や背後にスペースがないときは、数的優位、ポジション優位、社会的感情の優位を獲得することは本当に難しい。

やはり、メッシやベイルなどの個人能力によるドリブル突破、質的優位から数的優位、ポジション優位、社会的感情の優位を獲得する必要がこのイラン代表のディフェンスから強く感じる。

今回の分析内容は、実は、私のスペインサッカーコーチングコース・レベル3の卒業論文である「フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化」と内容が重複するところがあり、まだ、公開していない内容であった。ハンドボールやフットサルをダイヤモンド・オフェンスに応用しているので、詳しいことはそちらに書こうと思う。

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