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フットボールのダイヤモンド・オフェンス における攻撃サポートの構造化 25 4つのパス・オプション 〜バスケットボール5〜

どのようにして、ファイナルゾーンにおいて、継続してボール保持者の周りにダイヤモンドを形成するのか?

トライアングル・オフェンスの「4つのパス・オプション」は、フットボールのダイヤモンド・オフェンスのプレーのベースを形成すると考える。

4つのパス・オプション:基本の動き

図32で、ガードからボールを受ける右WG(フォワード)は右外側に位置して、相手ディフェンスの配置によって4つのパスパターンから選択する。これが「最初の入りだけは決めておいて」相手ディフェンスのリアクションに応じて、攻撃を即興的に行なうフリーランス・オフェンスの考え方を反映していると考える。この4つの形をベースとして、様々なプレーオプションをプレー状況に応じて適用してくのだ。

第1のオプション:中央へ斜め前のパス、ポストプレー

(テックス・ウインターのトライアングル・オフェンスをベースにしている)

ポストプレー:

3番はポストの5番へパス。1番は3番の外側か内側を通って、右コーナーに位置し、オーバーロードの状況をつくる。右外側のゾーンに数的優位ができる。

図32

フォワードからのポストへのスプリットパス(スプリット・ザ・ポスト):

図33のように、3番はポストのセンター5番へパスを出した後、インサイド側にステップフェイクをして、5番のベースライン側(外側)に向かってカットする。

図33

センターにパスした3番はコーナーに移動した1番をフリーにするための最初のカッターになり、その1番のプレーヤーがいる方向にカットし、1番はセカンドカッターとなる。

3番のカットには2通りある:

1. スクリーンを意図しない、すばやいカット。セカンドカッター1番は、ファーストカッター3番のすぐ後ろを通るようにカットする。
2. セカンドカッター1番にスクリーンをかけようとしながらチェンジ・オブ・ペースのカットをする。このようにすればディフェンスは、常に相手がどのようなカットをするのか、と考えることになる。

トライアングル・オフェンスの特徴は、様々なカットを使い、相手ディフェンスに判断を迷わせるように仕向けることだ。相手ディフェンスのリアクションによってオープンスペースができ、そのオープンスペースへカットしたプレーヤーにパスをするために他のプレーヤーがカットし、相手ディフェンスに判断を迷わせゴールチャンスを獲得するためのメソッドである。

※ スプリットパス:ポストプレーヤーを利用して、2人のプレーヤーが交差しながらカットする動きのこと。

※ スプリット・ザ・ポスト:アウトサイドに位置する2人のオフボールマンが、ボールを保持したポストマンの周りを時間差的に交差してカットするプレイ。


第2のオプション:バックパス、サイドチェンジ

(テックス・ウインターのトライアングル・オフェンスをベースにしている)

サギング・ディフェンスに対して:

バスケットボールの攻撃方法論である「プリンストン・スタイル・オフェンス」という素晴らしい本を書いたディレーク・シェリダン(2013)は、相手チームがサギング・ディフェンスをしてきた場合の意思決定について説明している:

ボール保持者は2つの意思決定を素早くしなければならない。

1. 5番がパスをもらえない状況であるという判断。
2. 2番に対するディフェンスの位置が低いという判断。

※サギング: オフボールマンをマークするディフェンスプレイヤーが、自身のマークから離れ、ボールラインまで下がってヘルプポジションをとること。

もし相手ディフェンスが下がり、ディフェンスラインのライン間の距離が狭い場合は、5番へのポストプレーは難しい。更に相手ディフェンスの背後へのパスをするスペースもない場合は、素早くプレーの方向を変える。それが第2のオプションである。

図34

ディフェンスが下がっており、5番へのポストプレーが難しいと判断した3番は、素早くサークルトップにいる2番へ速いパスを送る。ボールを受けた2番は正面からシュートを狙う。この位置からのシュートが正確であれば、相手ディフェンスは2番(ガード)から離れて守ることが難しくなる。


ウィークサイド・フォワード(ウイング)のピンチポスト:

図35

もし、3番からパスを受けた2番がシュートを打つことができない場合は、図35のように、ウィークサイドにポジションを取るフォワード(ウイング)の4番へパスをする。4番は、フォワードのスターティング・ポジションとバスケットとの中間地点付近ややバスケット寄りがプレーエリアとなる。

4番はそのフォワードのスターティング・ポジションからピンチポストの位置へカットし、ディフェンスを振り切って2番からのパスを受ける。4番へパスを出した2番は、4番の外側を通り、バスケットに向かって素早くカットする。4番は自分でシュートしてもよいし、2番へリターンパスをしてもよい。

右コーナーにポジションを取る1番はディフェンスバランスを考えて、本来のガードの位置へ戻る。

フットボールに置き換えて考えてみる。例えば、右WGがボールを保持している状況(攻撃システム:4−3−3)で、右サイドで数的不利だったり、相手ディフェンスラインがペナルティエリア前まで引き、相手のMFラインとDFラインとの間にスペースがなく、味方のCFWとポストプレーができるスペースやパスコースがない、更にディフェンスラインの背後にもスペースがない場合は、逆サイドへサイドチェンジをする。一度中央にポジションを取るピボーテや右MFやDFにバックパスを送りサイドチェンジ。左MFがセンターレーンか左内側レーンでパス受け、前にスペースがありミドルシュートを決める能力があればシュート。シュートできなければ、逆サイドの左WGが、ペナルティエリアの左角からハーフスペースに落ちてボールを受け、左MFと左SBとのコンビネーションで攻撃をする。左MFからパスを受けた左WGがボールを保持して、相手ディフェンスを自身に引きつけ、MFにパス、そのパスをダイレクトでオーバーラップした左SBにパスして、ボール受けた左SBのセンターリングから得点を狙うという絵を描くことは簡単であると思う。左WGはボールを受けた時に前を向くことができればシュートに持ち込むこともできるだろう。

フットボールはバスケットボールに比べてグラウンドも広く人数も多いので、非常に複雑性の高いスポーツであるが、バスケットボールの攻撃戦術の大局観はいくらでもフットボールに応用することが可能であると考える。もちろん、細部についてはフットボールに応用可能なものとそうではないものはあると思うが。

※ フォワードのスターティング・ポジション: フリースローラインの延長線上よりややセンターライン寄りの位置。

※ ピンチポスト:フリースローレーンのエルボー(フリースローラインの両端部分にあたるフリースローレーンの角)の外側のエリアのこと。


第3のオプション:横パス、ライン間にポジションを取るプレーヤーへのパス

(テックス・ウインターのトライアングル・オフェンスをベースにしている)

図36

相手ディフェンスがサークルトップ付近で2番へのバックパスを通さないようにプレッシャーをかけ、更に5番へポストプレーをするための斜め前のパスを通さないようにタイトな守りをしている場合、2番をマークしている相手ディフェンスの背後にオープンスペースができる。ウィークサイドにポジションを取る4番はそのオープンスペースへすかさずカットする。ボールを保持している3番は2番へパスフェイクをして、移動してきた4番へ素早くパスをする。

図37

バックドア:

図37に示すように、2番はパスが4番に渡った瞬間にバスケットへ向かって素早くバックドアの動きを行なう。パスを受けた4番は2番がフリーであれば素早くパスをする。4番が自分でシュートしてもよいし、右コーナーから落ちてきた1番へパスをしてもよい。2番はフリーにならなかった場合、ディフェンスバランスを取るためにガードのポジションへ戻る。

※ バックドア:(ドアを手前に引く)ディフェンスがオーバープレー(ディナイ)してまもってきたときに、ディフェンスの背後をカットする動きのこと。

図38

オーバー・ザ・トップパス:

ボール保持者の3番が、5番へポストプレーの斜め前のパス、2番へのバックパスができなく、ライン間に移動した4番へのパスもできない場合、4番がウィークサイドからポスト・ポジションに移動してきているので、5番はその4番の動きに合わせて、逆サイドのバスケット下に移動し、3番からオーバーザトップパスを受ける。このパスは5番をマークしているX1が5番の前にポジションをとっている時に可能となるプレーである。同時に、4番は5番がいたポスト・ポジションに移動して、ポストが入れ替わることになる。

※ オーバー・ザ・トップパス:(思い切ったこと)ディフェンスの背後をねらった山なりの思い切ったパスのこと。


第4のオプション:同じ外側に位置するプレーヤーへの縦パス

(テックス・ウインターのトライアングル・オフェンスをベースにしている)

図39

第4のオプションは、5番(ポストプレー)2番(バックパス)4番(ライン間への横パス)へのパスコースがない場合のオプションである。

コーナーに移動した1番は、3番から縦パスを受ける。1番がボールを受けると5番と3番はポジションチェンジを行なう。最初に5番が動き出しスペースを作り、5番が空けたスペースに3番が移動する。1番はフリーになった方のプレーヤー(5番か3番)にパスをする。

トライアングル・オフェンスは、外側に位置するボール保持者であるフォワード(ウイング)の「4つのパス・オプション」からセットオフェンスが始まる。相手のディフェンスの仕方、配置に応じて、「4つのパス・オプション」からその状況に最適なパス・オプションを選択するのだ。

このトライアングル・オフェンスの「4つのパス・オプション」は、すべてフットボールに置き換えて考えることが可能だと思う。ポストプレー、バックパス、サイドチェンジ、ライン間への横パスはフットボールにおいてのライン間(MFラインとDFライン)へのパスであると考えることもできるし、4つの目の同じ外側に位置するプレーヤーへの縦パスは、WGの外側を追い越してパスを受けるSBが行なうオーバラップと同じ動きであると考えることもできる。

このように、ボールを使う集団スポーツは大局観では、応用することができる戦術がまだまだたくさんあることだろう。トライアングル・オフェンスを開始するフォワード(ウイング)からの「4つのパス・オプション」はそのままフットボールのダイヤモンド・オフェンスに応用することができると考える。

現チェルシーのイタリア人監督マウリツィオ・サッリのチームでは、よく相手DFラインの背後を取るバックドアのような動きと、相手ディフェンスラインの背後に飛び出すプレーヤーへ出すロングパスがアメリカンフットボールのタッチダウンパスのようだと言われている。このようにフットボールの世界では様々なスポーツから学び応用していることが理解できるだろう。

戦術の細部については、応用が難しいところもあるかも知れないが、フットボールの戦術はこれからも更に進化することが可能である。その鍵は、他の集団スポーツであるバスケットボール、ハンドボール、フットサル。今回の論文では、紹介していないが、アメリカンフットボール、ラグビー等の戦術なども応用することが可能であることだろう。

引用・参考文献:

Winter, Tex. The Triple-post Offense: Sideline Triangle. Ag Press, (1997). 3-7, 9-11, 16-21, 40-49, 76--82, 88-90.

ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 3-4. 16-27.

バスケットボール用語辞典. 監修:小野秀二、小谷究. 廣済堂出版. (2017). 57. 84.

Derek Sheridan (ディレーク・シェリダン). プリンストン スタイル オフェンス. 編訳:塚本鋼平. 監修:佐久本智. グローバル教育出版. (2013). 27.

Coach Nick. The triangle offense Part 2: How Chris Paul would dominate in it. YouTube. 2013. https://www.youtube.com/watch?v=p1eC9KA0wHw



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