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マエストロ・セイルーロの論文を読む! 「構造化トレーニング」4:〜古典的なパラダイム〜

私は身体にまだ毛が生える前に彼と知り合った。そして今、私たちは一緒にヒゲを剃る。正直なところ、私がパコと知り合うことがなかったら、今、理解しているような監督の仕事を理解することはなかっただろう。
ペップ・グアルディオラ(2012年1月)

プロローグ

「フランシスコ・セイルーロ!?」

「誰だ!それは?」

「FCバルセロナのトップチームのフィジカルコーチなんだ。」

「グアルディオラと一緒に働いている!」

と言うのが、私が4年間通ったスペインサッカーコーチングコース学校、通称CARの先生の1人であり、CARで唯一フランシスコ・セイルーロの理論を教えることができ、私がCARで最も尊敬するダビ先生が、トレーニング論の授業で、最初に私たち生徒に教えてくれたことだった。

その日から、フランシスコ・セイルーロに非常に強い興味を持ち、彼の革命的なトレーニング理論を、ダビ先生の授業で、学び、理解し、知っていくうちに心酔していった。

フランシスコ・セイルーロのトレーニング理論は、スペイン人にとっても難解である。

ダビ先生がカフェテラスで、他の先生に:

「セイルーロのトレーニング理論を実践して見ないか?」と質問しても、

「いえいえ、私には難しすぎる」と言って断り、逃げ出す先生を実際見てきた。

もし、バルサのカンテラのコーチになりたければ、フランシスコ・セイルーロのトレーニング理論を学ばなければならない。なぜなら、FCバルセロナのトレーニングメソッドは、セイルーロのトレーニング理論をベースにしているからだ。

当然、ペップ・グアルディオラもフランシスコ・セイルーロの生徒である。

現在のフランシスコ・セイルーロは、クライフに1994年に見出され、トップチームのフィジカルコーチに就任してから、バルサで25年間勤めたフィジカルコーチを退任して、バルサの全てのスポーツ部門のメソッド部門ディレクターに就任している(現在は、2019年からバルサのフットボールの育成年代のメソッド部門ディレクターに就任している)。

その難解で、多くのスペイン人コーチにとっても手をつけることを拒ませるトレーニング理論を、彼の論文を翻訳することで、紹介したいと思う。

この構想は、数年前からあったのだが、フランシスコ・セイルーロの論文を読んで理解することは最難関であり、スペイン語は当然、専門用語ばかり、スペイン人が読んでも難解なこの論文を、日本人で、しかも、少しスペイン語を学んだ私が翻訳するのである。

翻訳には、非常に長い年月を要している。これから少しづつ、膨大な数ある論文の中から、主要なフランシスコ・セイルーロの論文を翻訳していく。できれば彼の「チームスポーツのためのトレーニング理論」を理解し、実践できるようなところまで翻訳していきたいと思う。

もしかすると、10年以上かかることもあり得る。

フットボールをはじめとするチームスポーツと、陸上競技などの個人スポーツのトレーニング理論や方法が同じで良いのだろうか?

と言うような疑問を持ちながら読んで欲しい。

※ 尚、この論文の翻訳は、私自身の解釈なので、その辺りはご了承願います。

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チームスポーツのフィジカルトレーニング

構造化トレーニング(Entrenamiento Estructurado):
Valencia Junio 2002
F. Seirul-lo

チームスポーツのための適切なトレーニングプロセスを作成するには、スポーツパフォーマンスの異なるパラダイムを定義することが重要です。 伝統的に、スポーツトレーニング科学は、いくつかの個人スポーツのニーズを研究することによって発展し、その結果がチームスポーツに適用されてきました。

複雑なダイナミック(動的)・システム理論の分析は、チームスポーツのための特定のトレーニング科学を構築するための最良の理論的基礎を提供すると強く信じています。

従って、複雑性を説明するためのより適切な解決策を提供するためには、系統的デカルトパラダイム(機械論や還元主義)を修正することが必要です。

※ ダイナミック・システムについては、加藤洋平氏のブログ「発達理論の学び舎」でダイナミック・システム理論の概要が説明されている。

ダイナミックシステム理論は、システム的な観点を中心に、多様な概念を織り込むことによって、発達研究の進展に貢献してきました。例えば、「自己組織化」という概念が一例です。また、人間の発達に関して、遺伝的要素から始まり、脳内神経や社会的な要素などの相互関係を念頭に置きながら、複雑なシステムを考察している点が特徴的です。

私たちの行動は、文脈や個人の発達史に基づいて、瞬間瞬間に再構築されるという考え方です。エスター・セレンは、私たちに備わるこうした動的な特性を音楽家の即興演奏に喩え、私たちの活動は、常にその瞬間に立ち現れている様々な要素と相互に影響を与えながら再構築されると述べています。


私たちが今日、実行しようとしているのは、バルセロナスポーツ大学(Instituto Nacional de Educación Física de Barcelona通称INEF)の教授グループが9年間、個人スポーツとは異なる、新しいテーマである「チームスポーツのための特有のトレーニング」を教えて発展させてきた20年の実践と理論的サンプルの提案です。

私は幸運でした。なぜならバルセロナスポーツ大学(INEF)の教授グループが理論の構築に参加して、私に協力し助けてくれたからです。

一方、私は長きにわたり、ビッグクラブであるFCバルセロナの財産のおかげで、これらの理論を実践し発展させることができたことをクラブに感謝しています。

最初はハンドボール、その後、フットボールの育成年代(カンテラ)とトップチームにおいてフィジカルコーチをしてきました。そして、私は今、これらの提案の基礎をチームスポーツのフィジカルトレーニングとして説明することができます。これは、伝統的なフィジカル、テクニック、戦術、心理学(メンタル)のトレーニングを特別な方法で関連づけます。これら全てを構成する新しい形を「構造化トレーニング(Entrenamiento Estructurado)」と名付けます。

実際に「構造化トレーニング」のベースの部分が、より伝統的なチームスポーツのためのフィジカルトレーニングのコンセプトに近いかどうかを見ていきましょう。20世紀のスポーツがどのようなものであったのかという簡単な説明から始めます。

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かつてのスポーツには、教育としてのスポーツ実践と、体を鍛えるトレーニングとしてのスポーツの考えがありました。そして、このスポーツの発展は、20世紀を通じて人類哲学の分野において支配的だった2つの大きな基礎や知識の柱に基づいています。一つは教育と関係している「行動主義理論」に基づくプロセスです。行動の観察から、この分析を通じて知識を抽出するために評価し分析するのです。

※ 行動主義理論:アメリカの J.B.ワトソンにより 1913年に提唱された心理学上の一主張。ワトソン主義ともいわれる。意識を対象とする伝統的心理学に反対して,心理学が科学として自立するためには,客観的に観察可能な行動にのみその対象を限るべきであるとした。したがって内観法は不要とされる (→内観 ) 。さらにワトソンは刺激=反応説によって行動をとらえ,複雑な行動には I.P.パブロフの条件反射の原理を適用し,極端な環境主義的立場をとった。


一方で、基本的に「機械論」を通じて開発されたトレーニングの効果があります。

さらに、一連の科学はスポーツ・プロセスの知識の発展を根本的に支えてきました。いくつかは、教育学、心理学などの行動主義理論や、バイオメカニクス、物理学などの力学理論に役立ってきました。

さらに、彼ら自身の視点から、部分的な知識の手段に影響を与える非常に細分化されたモデルを開発してきました。そして、細分化されたモデルの分野間の関係はほとんどありません。


結果としてこの状況をもたらしたのは何でしょうか?

スポーツのモデルは非常に細分化され、複数の学問領域にわたっています。

そして、ビッグクラブでは個人のためのビッグチームが計画され、それぞれが所属する分野に応じて、心理的、教授法的、教育的、身体的等、 クラブ、もしくはスポーツのプロフェッショナルグループが構成する、そのスポーツ特有の側面を発展させてきました。

※ 機械論:機械論(きかいろん、英: Mechanism、独: Mechanizismus)は、自然現象に代表される現象一般を、心や精神や意志、霊魂などの概念を用いずに、その部分の決定論的な因果関係のみ、特に古典力学的な因果連鎖のみで、解釈が可能であり、全体の振る舞いの予測も可能、とする立場。

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※ インテレラショナードトレーニング:フィジカル・技術・戦術というサッカーで必要とされる要素を同時に向上させる相互型のトレーニング。ボールを使ったトレーニングを行い、フィジカルトレーニングに技術&戦術的要素を加えることが基本原則となる。


そして、私たちが大変進歩してきたように見えることは、ローマやギリシャ時代の、古代初の科学の学生たちがしたことに他なりませんでした。私は、身体と考え(知能)の間、アイディアと物質の間の二分法を研究しました。疑いなく、もう少し洗練されてはいますが、20世紀のスポーツの進歩の明確な基礎は古代ローマ、ギリシャ時代の科学の学生たちが実践したことに他なりません。

※ 二分法:一つの特性Aに着目し,この特性Aを持っているか持っていないか,つまりAかAでないかという二つの分類単位によって,分類を行う方法.この場合にAを単なる記号と考えれば,Aと非Aとは等価である.しかしながら人間が採択する分類単位は単なる記号ではない.Aという特性は人間が重要だと認知したことによって採択されたのであり,したがって非Aという特性は,Aという特性以外の,重要でないと考えられる特性となる.つまり,Aか非Aかという二分法は,すでにAの側に加担した認識作用が働いているのであり,Aという特性の恣意的な押し付けとなる危険性を含んでいる。


方法論的に、何が起こったのか? 

まあ、いくつかの科学と他の科学が連合して、細分化モデルなどの、いくつかのタイプの実践的モデルを開発しました。一方で、定期的に教えるため、トレーニングするためのグローバルトレンドを実践することはありますが、根本的にグローバルトレンドの教授法は、モデルを開発するためにあります。

テクニックトレーニング、戦術トレーニングを構成するグローバルトレンドは特定の分野を練習し習得することを実現します。

そして、パフォーマンスにおいても、通常、フィジカルトレーニング、テクニック、戦術、コンディションは分析的な傾向が現れます。そのモデルの構築に学問分野が関与できるようにモデルを細分化したのです。

90年代には、INEFバルセロナ(スポーツ大学)でも、フィジカルトレーニング、テクニックと戦術(グローバル)の2つの傾向(トレンド)を関連づけようとグローバルな視点から、「インテレラショナードトレーニング」のコンセプトを開発しました。常にこれら2つの傾向(トレンド)とそれらの基本の上に練習をグローバル化するための最初のオプションを構築しました。


古典的なパラダイム

この古典的なパラダイムは80年代から、非常に疑問視されており、90年代の終わりにF.Capraは次のように述べています:

現在、後退しているこのパラダイムは、数百年にわたって私たちの文化を支配してきた。その間、私たちの西洋社会を形成し、世界の他の地域に大きな影響を与えてきた。このパラダイムは、私たちが挙げることのできる定着した一連のアイディアと価値から成り立っている。部分から構成される機械システムとしての全世界的なビジョン。機械としての人体の存在、競争を勝ち抜くための社会生活の存在、経済的および技術的成長による無制限の物質的進歩への確信。。。
(F. Capra 1998)


要するに、スポーツと、どの要素の何が関係しているのか?

これらの価値観は、例えば、私たちは経済的成長と技術的成長を通してしか発展はできないという考え方です。

疑いもなく、その価値観は確かに減少傾向にあることでしょう。

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論文のポイント:古典的なパラダイム

・伝統的に、スポーツトレーニング科学は、個人スポーツのニーズを研究することによって発展し、その結果がチームスポーツに適用されてきた。
・複雑なダイナミック(動的)・システム理論の分析は、チームスポーツのための特定のトレーニング科学を構築するための最良の理論的基礎を提供する。
・複雑性を説明するためのより適切な解決策を提供するためには、系統的デカルトパラダイム(機械論や還元主義)を修正することが必要である。
・「チームスポーツのための特有のトレーニング」を教えて発展させてきた。それを「構造化トレーニング(Entrenamiento Estructurado)」と名付けた。それは伝統的なフィジカル、テクニック、戦術、心理学(メンタル)のトレーニングを特別な方法で関連づけたものである。
・20世紀のスポーツの進歩の明確な基礎は古代ローマ、ギリシャ時代の科学の学生たちが実践していたことである。
・20世紀のスポーツのモデルは非常に細分化され、複数の学問領域にわたっている。パフォーマンスにおいても、通常、フィジカルトレーニング、テクニック、戦術、コンディションは分析的な傾向が現れる。そのモデルの構築に学問分野が関与できるようにモデルを細分化したのである。
・90年代、フィジカルトレーニング、テクニックと戦術(グローバル)の2つの傾向(トレンド)を関連づけようと、グローバルな視点から、「インテレラショナードトレーニング」のコンセプトを開発した。
・「古典的なパラダイム」は、私たちの西洋社会を形成し、世界の他の地域に大きな影響を与えてきた。


次回、この続きは、マエストロ・セイルーロが提案する「新しいパラダイム」について投稿します。


参考文献

Seirul-lo, F. La preparación física en deportes de equipo -Entrenamiento Estructurado-. Valencia Junio 2002.


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