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スペイン式フットボール分析学6:FIFAW杯ロシア 日本代表試合分析 対セネガル戦 〜ダイレクトプレー

日本代表のタッチダウンパス:

対セネガル戦においての日本代表の攻撃は、ゾーン2において相手MFラインとDFラインの間のライン間の「インサイドレーン」で乾、香川、大迫、原口らがボールを受けて「前進」する方法。

もう1つは右CBの吉田とダブルボランチの柴崎の2人による「右インサイドレーン」から「左インサイドレーン」のペナルティエリア内の「ポケット」へロングパス「タッチダウンパス(ダイレクトプレー)」による攻撃である。

この斜めの相手ディフェンスラインの背後に送るロングパスはイタリアのナポリが試合でよく使う攻撃方法の1つである。相手ディフェンスを一方の「インサイドレーン」に引きつけて、視線をボール保持者に注視させた瞬間に、逆サイドの「インサイドレーン」の相手ディフェンスラインにポジションを取るWGが、自身をマークしているディフェンスがボール保持者に視線を向けている瞬間、相手ディフェンスの背後を取ってボール保持者と対角のポケットに移動しボールを受けてシュート、もしくはパスをする。このポケットエリアの有効性は、基本的にディフェンスラインはペナルティエリアの前に最終ラインを引くのでいつもオープンスペースであるということだ。また、GKからも少し遠くこのエリアをディフェンスすることが難しいからである。

ポケット:ポケットとはペナルティエリア内のゴールエリア縦ラインとペナルティエリア縦ラインの長方形のエリアのことを指す。

試合開始当初は右CBの吉田がハーフライン付近の「右サイドレーン」から対角の「左サイドレーン」にいる左WG乾に向けて相手ディフェンスラインの背後にタッチダウンパスを出していたが、なかなか成功しない。この時、香川は相手のディフェンスを自身に引き付けるために、センターレーンから右斜め前へディアゴナルランを実行し、乾をフリーにしようとしていたが、成功しなかった。

次に前半30分に柴崎が吉田からハーフライン付近「右インサイドレーン」でボールを受け、乾に向けてタッチダウンパスを出すが成功しない。


長友へのタッチダウンパス(得点シーン):

タッチダウンパスのキッカーが吉田から柴崎に代わったが、乾がセネガル代表右SBワゲの背後を取り、柴崎からパスを受けることができていなかった。

図1:左SBの位置に入りボールを受けるトップ下香川

周到に準備された戦略・戦術:

この図でトップ下の香川が左SBの位置にポジションを取り、左SB長友が「左アウトサイドレーン」高い位置にポジションを取っている。右WGサールはミックスディフェンスであるが、右WGサールがディフェンスするゾーンに長友と香川の2人が入りオーバーロードの状況になっている。このため、サールは長友と香川の両方にプレッシャーに行ける中途半端なディフェンスポジションになっている。

おそらく香川は自身に右WGサールを引きつけて、長友に左ポケットで柴崎からのタッチダウンパスを受けてもらいたいと考えたと思う。日本代表は乾がボールを受けるパターンと、長友が受けるパターンの両方をトレーニングしていたと考える。香川のオーバーロードの状況を作るポジショニングはセネガル代表の右WGサールに香川か長友か、どちらをマークしようかと迷わせる狙いがあったのだと考える。

図2:昌子からパスを受けた香川がグラウンド内側へコンドゥクシオン

図2では「左アウトサイドレーン」でボールを受けた香川に対して、右WGサールではなく、右MFのエンディアエがプレッシャーをかけにきた。香川は、相手ディフェンスを自身に引き付けるためにグラウンド中央にできたスペースにコンドゥクシオン。3バックの中央に入っていた長谷部が右CB吉田とボランチの柴崎に近くにいる2トップの1人ニアンを彼ら2人から引き離すために香川のコンドゥクシオンと連動するように前方へ移動。その長谷部の動きにニアンはついていく。この長谷部の動きにより、ニアンを吉田と柴崎から排除することに成功。香川は吉田にパスし、自身は斜め右前方へ移動し、自身に相手ディフェンスを引きつける。

図3:柴崎からポケットのエリアでタッチダウンパスを受ける長友

柴崎が吉田からボールを受けて前を向きボールを蹴ろうとする瞬間、トップ下の香川、右WG原口、CFW大迫が相手ディフェンスラインを、自分達に引きつけるために3人とも連動して柴崎からボールを受けるために落ちる動きをした。右WG乾は、左SB長友がフリーでボールを受けることができるスペースを作ることと、右WGワゲを自身に引きつけるためにグラウンド内側へ前の3人とシンクロするように移動。

セネガル代表のディフェンスラインはこの日本のオフェンス陣の動きに一瞬、引きつけられる。右SBワゲも乾の動きに引きつけられる。右WGサールはボール保持者の柴崎を見ており、左SB長友を完全にフリーにしてしまっている。

この一連の日本代表のポジショニングと連動した動きはセネガル代表をしっかりとスカウティングし、ディフェンスの仕方と弱点をあぶり出し、どこにチャンスがあるかを考え、綿密に計画されたトレーニングした結果だと考える。素晴らしい組織的攻撃であった。

図4:長友からボールを受けてゴール右隅にシュートする乾

左SB長友が左ポケットでボールを受けるとセネガル代表のDFライン4人は素早く下がり、右WGサールが長友の背後から追ってきた。しかし、セネガル代表のMFラインの残り3人は帰陣が遅れ、乾がボールを受けた瞬間、まだペナルティエリアに到達していなかった。ミックスディフェンスは相手をしっかりとマークすることができる長所があるが、MFラインの間にスペースができてしまう可能性とMFラインとDFラインの間のライン間が離れてしまい相手チームのプレーヤーにそのライン間を使われてしまう可能性がある。乾はそのDFラインとMFラインのライン間でフリーでボールを受けてシュートすることができた。

セネガル代表GKエンディアイのポジショニングは乾がシュートする瞬間、乾から見て左に少し寄っていた。このような細かいポジショニングが勝負を分ける。

前半の日本代表の攻撃は、最初に失点したとはいえ、セネガル代表の弱点を組織的に攻撃し、素晴らしいポジショナルプレーを展開した。日本代表のスカウティングスタッフがセネガル代表のゾーン2におけるディフェンスの弱点を詳細に分析し、しっかりその弱点を突くトレーニングを選手、監督、コーチ陣、スタッフの全員の協力で実行してきたことが理解できる。

でも、この戦術、誰が考えたのだろう。西野監督だろうか?ハリルの遺産!?きっと両方であろうと考えるし、もしかしたら、日本代表の選手たちの多くがヨーロッパでプレーをしているので、最新のチーム戦術や戦略を学び身につけてきたのだろう。それを選手たちみんなで話し合い戦略、戦術を考えた可能性も否定できない。まるで、このタッチダウンパスはナポリのようであるし、ダブルボランチのスペースを作る動きとポジショニングはマンチェスターシティのようだ。

海外、特にヨーロッパの強いリーグでプレーをしている選手は良い知識と戦術を身につけているのだ。そう考えると日本代表の監督になる人は、最新の世界のトレンドに精通した監督を選ぶべきではないだろうか。


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