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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化9 戦略・戦術の最適化③ 集団プレーは認知・社会的感情構造と相互作用する

集団プレーは認知構造および社会的感情構造と相互作用する

フットボールの集団プレーを最適化するには、認知構造および社会的感情構造と相互作用することが重要であると考える。なぜなら、各プレーヤーは相手ディフェンスのプレーを読み(認知構造)、即興プレーを創造するためにアサーティブネス〈自他を尊重した自己表現〉・コミュニケーション(社会的感情構造)の全ての手段を使って互いに情報を得なければならないからだ(アサーティブネス・コミュニケーションは言語と非言語に大きく2つに分けることができる)。


集団プレーにおいて優位性を獲得するには、各プレーヤーが集団プレーのオプションを持ち、認知構造および社会的感情構造と相互作用することである。その集団プレーの優位性を獲得するためのメソッドとしてフットボールのダイヤモンド・オフェンスを構築する必要があると考えた。


アリゴ・サッキによると:

私たちのプレーヤーは、ボール、スペース、相手、チームメートの4つの基準点を持っていた。全ての動きはこれらの基準点に関連して発生しなければならなかった。各プレーヤーは、これらの基準点のどれが自分の動きを決めるのかを決断しなければならない。

アリゴ・サッキが4つの基準点について説明したように、フットボールの攻撃の目的はゴールチャンスを得るために、チームメイトと協力して、どのスペースにいる相手を排除してボールを相手ゴール近くへと運ぶかということだと考える。この攻撃の目的を実行するためにはチームメートとコミュニケーションを取ることが非常に重要になってくる。認知構造と社会的感情構造の詳細と相互作用を理解することによって、フットボールのダイヤモンド・オフェンスの理解が深まると思う。

フアン・アントン・ガルシアはチームメート間の相互作用についてこのように述べている:

集団戦術は、戦術方法の傾向を見ることができるチームメイト間の相互作用の指針を表している。


相互扶助と協力は集団プレーと戦術に関係している

フランシスコ・セイルーロ(2004)が提案した社会的感情構造の中に自己管理グループ(Auto-gestión)があり、その下に相互扶助(Ayuda mutua)と協力(Cooperación)がある。

相互扶助(Ayuda mutua)と協力(Cooperación)に関する自己管理グループ(Auto-gestión)の構造化について、フランシスコ・セイルーロはこのように述べている:

自己管理グループは、チームスポーツにおいてのプレーの複雑さの海を、望む通りの方角へ航海することができる唯一の船である。


集団プレーの定義:

集団プレーはアレックス・サンスとセサル・フラッタロラによって定義された。セサル・フラッタロラはスペインフットボールコーチングコース・レベル3において教科の一つであった集団プレーの先生であったので、セサルから直接、集団プレーのコンセプトを学ぶことができた。

ボールを保持している、保持していない両チームのプレーヤーが、ボール、相手、チームメートがチームプレーの形式で実行される一連のアクション、ポジション、スキルである(プレーシステム、プレースタイル、チームのディフェンスの形など)。


個人戦術の定義:

アレックス・サンスとセサル・フラッタロラは個人戦術について、このように定義づけている:

個人戦術とは、ボールと相手との関係において実行される、ボール保持をしていないプレーヤーのスキルとポジショニングである。

つまり、アレックス・サンスとセサル・フラッタロラの個人戦術の定義は「ボール保持者」と、ボール保持者から「ボールを受けようとするプレーヤー」と、「ボールを受けようとしているプレーヤー」を「マークしているプレーヤー」との関係であり、2対1の数的優位な状況のことであると言えるだろう。

スペインフットボールコーチングコースが定義する個人戦術:      攻撃の個人戦術
幅(Amplitud)
深さ(Profundidad)
マークを外す(Desmarque)
守備の個人戦術
マーク(Marcaje)
カバーリング(Cobertura)
ペルムタ(Permuta): カバーリングに入ったプレーヤーへのカバー(例:ウイングがサイドバックのカバーに入る)


戦術の定義:

カルロス・コルベランは戦術をこのように定義づけている:

戦術とはリレーショナル・インテリジェンス(関係性の知能)である。それは、個人的および文脈上(試合中の状況)の可能性に適した解決策を創造することを可能にする抽象化をベースにしており、集団目的を追求することにおいて効果的な相互作用を可能にする。

集団プレーと戦術は、アリゴ・サッキが言ったように、ボール、スペース、相手、チームメイトとの関係であり、社会的感情構造と深い関わりを持っている。さらに、ボールの近くにいるプレーヤー(チームメイト、相手)は、ボール保持者とインタラクティブ(直接的な相互作用)の関係にあり、ボールから遠いプレーヤー(チームメイト、相手)は、ボール保持者とインタラパッシブ(間接的な相互作用)の関係にある。集団プレーと戦術はチームプレーであり、チームプレーは社会的感情構造の優位性を獲得することであると言えるだろう。

スペインフットボールコーチングコースが定義する2対1の状況においての攻撃とは:
ボール保持者のチームメートがボール保持者のゾーンに入ること。

攻撃の個人戦術は、ボール保持者、チームメート、相手との2対1の関係のことである。個人戦術は、集団プレーでありチームスポーツであるフットボールに必要なコンセプトなのであろうか。なぜなら、2対1の数的優位な状況は、意思決定の側面から見ると非常に簡単であるからだ。

フランシスコ・セイルーロが言うように、フットボールはプレーヤーにとって非常に複雑なスポーツである。アレックス・サンスとセサル・フラッタロラ(2016)はフットボールの意思決定についてこのように述べている:


意思決定は複雑な決定の局面である。

もしかすると、単純な決定しか持たない個人戦術のコンセプトは、フットボールという複雑な決定の局面であるスポーツには必要ないのかも知れない。


試合中の技術、戦術、集団プレーの割合

セサル・フラッタロラはスペインフットボールコーチングコース・レベル3の集団プレーの講義の中で、試合中の技術、戦術、集団プレーの時間の割合を以下のように説明した:

技術:2〜3分    個人戦術:4〜5分   集団プレー:82分

上記のデータを見ると、試合中の実に90%が集団プレーであるということだ。個人プレー(技術と個人戦術)は10%程度である。

さらにセサル・フラッタロラは:

次にオフェンス側が2対1の状況になった場合、70%の確率でオフェンス側が勝つ。

私はスペインサッカーコーチングコース・レベル3の、集団プレーの講義の間の休み時間に集団プレーについてのある質問をセサルにした。セサルは心良く丁寧に黒板に図を描きながら、説明してくれた。

私:個人戦術は2対1ですよね。では、集団プレーは何対何からが集団プレーなんですか?
セサル:2対2からが集団プレーだよ。2対1(個人戦術)は意思決定がシンプルで、しかも、プレーオプションが非常に少ない。ボール保持者が自分でシュートするか、チームメートにパスするかだ。2対2になると急に意思決定が複雑になる。色々なプレーオプションが2対2以上になると出てくる。だから、2対2以上が集団プレーだよ。

上記の技術、個人戦術、集団プレーの割合は、セサル・フラッタロラの集団プレーのCARの講義ノートを解釈したもの)

以上のセサルのコンセプトからフットボールについて考えると、集団プレーであるフットボールの最小人数は2対2であり、オフェンス側が2対2の状況をいかにして、2対1の数的優位にするかがフットボールの醍醐味であると考える。オフェンス側が2対1の状況になると70%の確率でオフェンス側が勝つことができるので、フットボールを始めたばかりの子供や小学校低学年に2対1(個人戦術)をトレーニングすることは効果があるのかも知れないが、それより上の年代のプレーヤーに2対1(個人戦術)のトレーニングをしても、意思決定がシンプル過ぎるので、トレーニング効果が薄いと考える。

チーム戦術、集団プレーをトレーニングをするのではなく、コーディネーション構造(技術、プレーヤーの動き含む)やコンディション構造(体力、スピード、持久力含む)にフォーカスしたトレーニングをするのであれば、ボールを使った2対1を実行することによって、単純ではあるが認知構造(意思決定、戦術含む)の要素も入っており、プレーヤー個人にフォーカスしたの動きの質を高めることを目的としたトレーニングになることだろう。しかし、フットボールは非常に複雑なスポーツである。その高まった個人の動きの質を、チーム戦術、集団プレーのトレーニングをすることによって最適化する必要がある。認知構造と社会的感情構造を柱にして、それらの相互作用が発生する状況、すなわち、試合の状況を設定した複雑性の中でのトレーニングをすることによって、試合で良いパフォーマンスを発揮することが可能になると考える。

社会的感情構造の相互扶助(Ayuda mutua)と協力(cooperación)に話を戻す。オフェンス側の集団プレーが2対2以上の状況のことであると考えると、ボール保持者、チームメート、相手は、相互扶助(Ayuda mutua)の直接的な相互作用の関係になり、ボール保持者の近くにいることになる。そして、この相互扶助(Ayuda mutua)の関係になる空間を介入スペース(Espacio de intervención)と呼ぶ。

ここでもう一度、相互扶助(Ayuda mutua)と協力(Cooperación)について説明する。

相互扶助(Ayuda mutua):ボール保持者の近くにいるプレーヤーと相互扶助と直接的な相互作用の関係にある。
介入スペース(Espacio de intervención):介入スペースは、プレーヤーはプレーに参加し、直接的な相互作用をする関係のスペースである。
協力(Cooperación)とは、ボール保持者の遠くにいるプレーヤーであり、ボール保持者と協力と間接的な相互作用の関係にある。そして、このスペースを位相空間(Espacio de fase)と呼ぶ。
協力(Cooperación):ボール保持者の近くにいないその他のプレーヤーからなる。
位相空間(Espacio de fase):プレーに間接的に相互作用する関係のスペースである。

図6:相互扶助と協力に関する自己管理グループの構造化。フランシスコ・セイルーロのコンセプトを解釈したもの(ダニエル・ボカネグラ・カマーチョからの引用)

用語:

Auto-gestión: 自己管理  

Episodios impredecibles: 予測不能な事柄

Episodios semejantes: 類似した事柄


この図から、相互扶助(Ayuda mutua)は直接的に相互作用し、予測不能な事柄(状況)である。協力(Cooperación)は間接的に相互作用し、類似した事柄(状況)であると言えるだろう。

相互扶助(Ayuda mutua)と協力(Cooperación)は、自己管理グループと呼ばれた一つの船であり、相互作用の関係にある。ポジショナルプレー(ダイヤモンド・オフェンス)はボールの近くにいるプレーヤーだけがプレーに参加しているのではなく、ボール保持者から遠いところにいるプレーヤー、例えば、誰かが空けたスペースを埋めるプレーヤーや、ボール保持者がボールを前に運ぶ、またはパスができないときに、ボール保持者の後ろにポジションを取りパスコースを確保し、バックパスを受けてサイドチェンジの準備をするプレーヤー等も必要になる。ゴールキーパーも含め、プレーヤーは一つの船に乗り、相互に作用すると考える。

下の図は、相互扶助(Ayuda mutua)と協力(Cooperación)の関係をグラウンドに表した一つの例である。

図7:フランシスコ・セイルーロのコンセプトを解釈したもの(コーチングコースCARの講義ノート)


※アリゴ・サッキ:フットボール監督

※アレックス・サンス:フットボール監督、コーチ、教員

※セサル・フラッタロラ:フットボール監督、コーチ、教員、ルイス・エンリケのアドバイザー(FC Barcelona B 2010〜2011)

※カルロス・コルベラン:フットボール監督、コーチ

引用・参考文献

Juego de Posición under Pep Guardiola: http://spielverlagerung.com/2014/12/25/juego-de-posicion-under-pep-guardiola/

García, Antón, Juan. Balonmano Fundamentos y etapas de aprendizaje. Editorial: S.L. Editorial. 1990.

Seirul-lo Vargas, F. (2004). Estructura Socio-Afectiva. Documento INEFC Barcelona. UB.

Sans, Alex; Frattarola, César. Los fundamentos del fútbol –Programa AT3-. MCSports 1ª edición. 2009.

Táctica primer nivel de fútbol. FCF.

Frattrarola, César. Apuntes Tercer nivel CAR El Juego Colectivo. FCF. P 8. 13. 14.


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