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スペイン式フットボール分析学5:FIFAワールドカップ 日本代表分析 対セネガル代表 〜前進〜


日本代表2つの戦略

ゾーン2までボールを運んだ日本代表のゲームプランは、セネガル代表のディフェンスラインが高いので、「右インサイドレーン」から「左ポケット」への斜めのロングパスによる「ダイレクトプレー」と、相手のアンバランスなMFラインの弱点をついて、ポジショナルプレーを基本コンセプトとしたパスとコンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)による「前進」と大きく2つのパターンがあった。ゾーン2のシステムは日本代表が3−3−1-3(両SBワイド)対セネガル代表4−4−2(ゾーンディフェンス:一部ミックスディフェンス)であった。


ナポリのような左サイドからの「前進」

日本代表の「前進」は右サイドに一度相手ディフェンスを引きつけて、ダブルボランチの柴崎と長谷部を起点としてセネガル代表の2トップをボール保持者(柴崎もしくは長谷部)に引きつけて、左サイドにスペースを作りサイドチェンジをして「前進」する。

「5レーン」の「インサイドレーン」へのDFラインとMFラインの間のライン間への縦パスを第一のオプションとして、主に両WG(乾、原口)が「インサイドレーン」に入りボールを受ける。もしくはそのパスコースがセネガル代表のディフェンスに消されている場合は、第二のオプションとして両WGが空けたスペースの「アウトサイドレーン」の高い位置に移動したプレーヤー主に両SB(長友、酒井)にパスを通して「前進」する。

セネガル代表のMFラインのリアクションによって、乾か長友のどちらかを選択し「前進」する。乾がボールをライン間で受けるとセネガル代表の右SBワゲは1人で2人(乾と長友)をディフェンスしなければならなくなる。この数的優位(2対1)の状況を利用して素早く「アウトサイドレーン」の高い位置に移動した左SB長友にパスをして「前進」する。

図1:柴崎が2トップを引きつけ、インサイドレーンの左CB昌子へパス、昌子はライン間に入る乾か、高い位置に移動する長友への2つのオプションがある。


図2:乾がインサイドレーンのライン間でボールを受けると2対1(乾、長友対ワゲ)の数的優位な状況ができる。

相手ディフェンスのリアクションによって、オフェンス側がプレーの選択を変えるというポジショナルプレーのコンセプトはフランシスコ・セイルーロが提唱する社会的感情:Socio-Afectiva(チームメートとの関係性や戦術)の優位だとも言えるだろう。

相手ディフェンスのリアクションによってプレーを選択するポジショナルプレー例

図3:(例1)昌子が「インサイドレーン」でボールを保持。MFラインとDFラインのライン間に移動した乾に縦パス。

左WG乾が「インサイドレーン」のライン間で縦パスを受けて前を向けた場合、相手ディフェンス2人(右SBと右CB)を引きつけて、「左アウトサイドレーン」の高い位置に動く左SB長友へパス。もしくはCFW大迫がオフサイドにならないようにタイミングをはかり、乾からパラレラのパスを受ける。

図4:左WG乾が縦パスを受けた時に、相手右SBのプレッシャーを背後から受けた場合

この場合は、素早くできればワンタッチで「左アウトサイドレーン」の高い位置に移動した左SB長友へパスをする。相手右SBのプレッシャーを左WG乾は受けているが、「左アウトサイドレーン」高い位置に大きなスペースができているので左SB長友はフリーでボールを受けることができる。

図5:左WGが縦パスを受けた時に、相手右CBのプレッシャーを背後から受けた場合

この場合は左SB長友が「左アウトサイドレーン」高い位置に移動しても、相手右SBがマークすることができる。しかし、グラウンドの中央で左WG乾とCFW大迫対相手CB2人との2対2の数的同数であるので、例えば、乾が大迫とワンツーで中央突破することも可能であろう。

このようにして、ポジショナルプレーはチームメートの配置の優位性、ポジション優位と数的優位、その2つを活かす社会的感情(チームメートとの関係性や戦術)の優位性を獲得するのが、ポジショナルプレーの醍醐味であり、これら3つの優位性が獲得できることで、個人能力の優位性(例:ドリブル突破)である質的優位も発揮しやすいと考える。


セネガル代表の弱点:

対するセネガル代表のディフェンス時のMFラインは非常にバランスとポジショニングが悪かった。なぜかと言うとセネガル代表のMFラインは自身の受け持つゾーンの中でマンマークをするミックスディフェンスだからである。この試合の前半を分析した限りではディフェンス時のMFラインの4人が等間隔に並ぶことはなく、グラウンドの内側にスペースができていた。特に右WGサネと左WGサールは日本代表の両SBを監視しているのだが、そのことで「インサイドレーン」で、ダブルボランチとの距離が離れてしまい、「インサイドレーン」にスペースを空けてしまっていた。また、ボランチのゲイェはトップ下の香川をミックスディフェンスしているので、香川の動き方、スペースの作り方次第では「センターレーン」のCFW大迫へのパスコースができやすいことも意味している。この試合の前半でも何本かゾーン2で大迫に縦パスが入っている。セネガル代表のMFラインではミックスディフェンスを採用しているが、ポジションチェンジをしながら、ポジショナルプレーをしてくる日本代表には有効なディフェンス方法だと思えなかった。

ゾーン、マンツーマン、ミックス、コンビネーションディフェンス(例:DFラインで両SBはミックスとCBはゾーンディフェンス)など、色々なディフェンス方法があるが、ゾーンディフェンス以外の方法は、相手チームのオフェンスに対してのリアクションであり、相手チームの動きに左右される受動的なディフェンス方法である。オフェンスプレーヤーをしっかりマークすることができると言う長所はあるが、相手チームにスペースを与えることになる。

ゾーンディフェンスは、相手チームの配置ではなく、ボールと自身がディフェンスするスペースを守ることが前提であり、相手チームの配置に左右されない能動的なディフェンス方法である。また、日本代表のようにボールポゼッションしながら、ポジションチェンジをして、スペースを作り、プレーヤーのポジション優位な状況を作って攻撃をしてくるチームに対しては、個人的にミックスディフェンスでディフェンスすることは難しいと考える。そして、これがこのセネガル代表のMFラインのディフェンスの弱点になることは明らかであったし、日本代表もスカウティング済みであり、セネガル代表のDFラインとMFラインの間のライン間を攻撃することを戦略の1つにしていたと考える。

セネガル代表の考慮すべきことは、もしかすると、日本代表のオフェンス方法の分析があまりできてなかったかもしれない。西野監督になって、日本代表のオフェンス方法も変わったことだろう。しかもパラグアイ戦で、やっと日本代表のプレースタイルが出来上がった印象がある。また、コロンビア戦は相手がほとんどの時間10人であったので、あまり参考にならなかった可能性はある。


偽りのダブルボランチ:

図6:長谷部がディフェンスラインに入り3バックを形成、柴崎は1ボランチでゲイェにミックスディフェンスを受けている。

ダブルボランチの長谷部と柴崎は基本的に長谷部がDFラインに入ることが多く、柴崎が1ボランチになるか、動いてグラウンドの中央にスペースを空けて、そのスペースを他のプレーヤーに使わせる方法で「前進」しようとしている。

図7:ゲイェにミックスディフェンスを受ける柴崎は右斜め前方へ移動、グラウンド中央にスペースを空ける。

この図の場合、1ボランチの柴崎がゲイェにミックスディフェンスされており、パスを受けることができない。柴崎はこのゲイェの動きを利用して、右斜め前方に移動して、グラウンド中央にスペースを空けている。右WG原口と右SB酒井宏は先ほどの左サイドのパターンと同じように原口が相手DFラインとMFラインのライン間に位置したが、パスコースがなく、右CB吉田は右SB酒井宏へパス。トップ下の香川は右WG原口が空けたスペースに入った。

図8:柴崎、香川、原口がポジションチェンジすることで、グラウンド中央にオープンスペースができた。

このようにして、相手ディフェンスのディフェンスの仕方、マークの仕方によって柴崎はスペースを作り、他のプレーヤーに使わせる動きをし、「前進」に貢献している。

図9:柴崎が右斜め下に落ちて3バックを形成、長谷部は1ボランチでパスを受けて、CFW大迫に縦パスを入れる。

この図では、長谷部にグラウンド中央でボールを受けさせるために、柴崎が右斜め下に落ちてディフェンスラインに入り3バックを形成している。その柴崎の動きに相手FWのニアンが反応し、柴崎をマークしようとする。その瞬間、吉田から長谷部へパスが入る。次に右WG原口が「右インサイドレーン」とトップ下の香川が「センターレーン」、相手DFラインとMFラインの間のライン間にポジションを取っている。この2人へのパスコースを消す相手MFラインの2人のプレーヤー(ゲイェとエンディアエ)。しかし、そのことで、CFW大迫への縦パスのコースが空き、長谷部が縦パスを通して「前進」する。

同じ状況のオプションとして、長谷部が相手MFラインの中央の2人(ゲイェとエンディアエ)の間を素早いコンドゥクシオンでハーフラインを超える場面も前半見受けられた。相手のプレーを読み、相手のリアクションによってプレーを選択している。

ここで大事なのはチーム全員の配置が相手ディフェンスの配置に影響を与えていることだ。例えば、左右SB(長友、酒井宏)がワイドに開いていることで、相手両WGのディフェンスに少なからず影響を与えているのだ。1人2人のポジショナルプレーではなく、チーム全員でのポジショナルプレーを日本代表はゾーン2で実践している。その中心となるのが、長谷部と柴崎である。

図10:柴崎がDFラインに入り、長谷部は左SBの位置へ

この図では、セネガル代表のMFラインのアンバランスさが理解できる。右WG原口へのパスコースを塞ぐために相手MFラインの2人(左WGと左MF)は「右インサイドレーン」を閉じている。「センターレーン」では香川を相手MFがミックスディフェンス、「左インサイドレーン」ではライン間に移動した左WG乾を相手右WGがミックスディフェンス。左SB長友を相手右SBがミックスディフェンス。セネガルの2トップはライン間を狭くしていないので、トップ下の香川にボールがわたり、フリーで左SBの位置にいる長谷部がボールを受け、前進することができた。左サイドで3対2の数的優位である。

このようにして、前半はセネガル代表の弱点であるアンバランスなMFラインをついて日本代表は組織的に前進し、シュートチャンスを得ることに成功している。

次回は前半のもう1つのキーワードである日本代表の「ダイレクトプレー」を分析したい。



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