スペイン式フットボール分析学:W杯2018 ポルトガル対スペイン試合分析(前半)1 〜前進〜

スペイン代表のゲームモデル(プレーモデル)を分析する。尚、スペイン代表のゲームモデルを知るためには、相手チームであるポルトガル代表のゲームモデルを知る必要があるので、この日の対戦から、両チームがどのような戦略および戦術で戦ったのかを分析する。

今回は主にスペイン代表のゾーン2における前進(Progresar)を分析した。


FIFAワールドカップ2018ロシア グループステージ・グループB 

ポルトガル対スペイン(3対3)

両チームのスターティングメンバー


分析項目:

組織的攻撃:
1. ボール出し:ゾーン1(Salida de balón)
2. 前進:ゾーン2(Progresar)。前進とはパスかコンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)を使って自陣からハーフラインを超えて相手コートに入ること。
3. ダイレクトプレー(Juego directo)
4. セットオフェンス:ゾーン3 (Finalizaciones)

守備から攻撃への切り替え:
5. カウンターアタック(Contraataque)
6. 攻撃の再構築(Iniciar organización ofensiva)

組織的守備:
7. ボール出しへの守備ゾーン3:D. Salida de balón
8. 前進への守備(ゾーン2):D. Progresar
9. ダイレクトプレーへの守備:D. Juego directo
10. セットオフェンスへの守備ゾーン1:D. Finalizaciones

攻撃から守備への切り替え:
11. プレッシング:カウンタープレッシング含む:Pressing
12. 後退: Replegar
13. プレッシングと後退:Pressing y Replegar

セットプレー:



1. 組織的攻撃:ボール出し(ゾーン1):Salida de balón

スペインのキックオフ直後、一度セルヒオ・ラモスまでボールを下げて、ポルトガルがどのように、どこからプレッシャーをかけてくるのかを確認するスペイン。ゾーン1からの「ボール出し(Salida de balón)」にプレッシャーをかけてこないポルトガル。ポルトガルはゾーン2から4−4−2のゾーンディフェンスで、ディフェンスラインは互いの距離を近くしてバランスよく縦パスのコースを狭めている。両サイドのMFは縦パスを切ってグラウンド内側へ追い込む。相手が苦し紛れに内側へ縦パスをしたボールを奪って「カウンターアタック」するのに適したディフェンス方法だ。なぜなら、ボールを取り戻したときにディフェンスプレーヤーが相手ゴールの方向を向いた状態なので、「カウンターアタック」がしやすい特徴があるからだ。ゾーン2でボールを取り戻すと相手ディフェンスラインの背後にスペースもあるので、「カウンターアタック」にもうってつけだ。ポルトガルのこの試合の攻撃戦略の1つは「守備から攻撃への切り替え」時の「カウンターアタック」であることが推測できる。

ポルトガルが、主にゾーン2からディフェンスを開始するので、スペインの前半の「ボール出し(GKからのゴールキックを含む)」はほとんどなかった。

スペインやバルサ等のポゼッションスタイルを志向するチームは試合開始の最初の5分で相手チームがどのように、どこのゾーンからディフェンスをしてくるのかを確認することが多い。


2. 前進:ゾーン2(Progresar)

図1:スペインの「前進」とポルトガルのゾーン2における「前進への守備」スペイン:2-3-2-3(4-3-3)対ポルトガル4-4-2(ゾーンディフェンス、一部ミックスディフェンス:イニエスタとイスコとブスケッツとD.シルバへの守備)

※ミックスディフェンス:ディフェンスのプレーヤーが自身が守るゾーン内においてマンツーマンで守ること。

図1を見る。スペインは通常「5レーン理論」に置き換えて考えると、ゾーン2(ミドルゾーン)の「左インサイドレーン」でイニエスタにボールを渡して、イニエスタのプレーから左サイドを中心に「セットオフェンス(Finalizaciones)」を開始するチームである。この試合であれば左MFのイニエスタと左WGに入ったイスコと左SBのJ. アルバを起点としたオフェンスをしたいのだと考える。

イニエスタは「左インサイドレーン」の相手MFラインの背後で左CBのS.ラモスからボールを受けたいが、ポルトガルの右MFモウティーニョと右SMFのB.シウバがMFライン間を狭くしているのでパスコースがない。そこで、左WGのイスコが「左サイドレーン」にJ.アルバと入れ替わるように落ちてきたが、そのイスコの動きに右SMFのB.シウバがミックスディフェンスでマーク。イニエスタは右SMFのB.シウバがイスコをマークしてできた一瞬のスペースでS.ラモスからボールを受けるが、その動きを予測した右MFモウティーニョがイニエスタをマークしたので、S. ラモスから短い縦パスを受けたイニエスタはワンタッチでパスを返す。S.ラモスはDFラインまで落ちてきたイスコに横パス、そのパスに素早く右SMFのB.シウバが反応して素早くプレッシャーをかけてくるので、ワンタッチでパスをS.ラモスに返す。イスコと入れ替わるように「左サイドレーン」前方に上がったJ.アルバを右SBのC.ソアレスが監視している。ピボーテのブスケッツを右FWのG.ゲデスがミックスディフェンスをしているので、ブスケッツへのパスコースもない。左FWのC.ロナウドはゾーンディフェンスでグラウンド内側への縦パスをケアしている。ポルトガルの左サイドのディフェンスの仕方とブスケッツへのディフェンスの仕方が理解できたスペインは、S.ラモスが右へサイドチェンジをする。

図2:スペイン代表のサイドチェンジに対してミックスディフェンスをするポルトガル右SB

右MFのコケはS.ラモスがサイドチェンジをしようとする瞬間、右WGのD.シルバが、「右アウトサイドレーン」の高い位置でボールを受けることができるようにするために「右インサイドレーン」を落ちてボールを受けるふりをして相手左SMFのB.フェルナンデスと左MFのW.カルバーリョを自身に引きつけてスペースを作っている。

「右アウトサイドレーン」に位置している D.シルバにS.ラモスから素早いサイドチェンジのロングパスが入るが、左SBのR.ゲレイロがミックスディフェンスでマークしていたので、D.シルバへのボールは左SBのR.ゲレイロにカットされてしまう。


スペイン代表の前進(Progresar)解決策1:

図3:ブスケッツがディフェンスラインに落ちて3バックを形成、ブスケッツの空けたスペースにコケが入る。

試合が始まって9分が経過する頃にスペイン代表はゾーン2での前進に1つの解決策を見つける。

サイドを変えながらも「左インサイドレーン」から攻撃を仕掛けたいスペインは、ピボーテのブスケッツがディフェンスラインに落ちるラ・ボルピアーナ(La volpiana)の動きを使って、左CBのS.ラモスと右CBのピケの間にポジションを取る。

このブスケッツの動きと連動するように、右MFのコケがブスケッツが空けたスペース、相手2トップの背後にポジションを取る。右FWのG.ゲデスはブスケッツにプレッシャーをかけ、ピボーテの位置に入ったコケに相手左MFのW. カルバーリョがミックスディフェンス。S.ラモスからパスを受けたブスケッツはコケを見るがマークされているので、G.ゲデスを自身に引きつけてS.ラモスにリターンパス。スペインはディフェンスラインで3対2の数的有利、局面では2対1の数的有利(ブスケッツとS.ラモス対G.ゲデス)の状況を作り、S.ラモスのコンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)による前進ができるようになった。

見逃せないのが、左SBのJ.アルバのワイドに開く動きと、左WGのイスコと左MFのイニエスタが相手のMFラインの背後にポジションを取る動きだ。この3人の動きによってS.ラモスに前進するスペースを与えている。

スペイン代表の前進(Progresar)解決策2:オーバーロード

※オーバーロード:あるエリアにおいて、ディフェンスプレイヤーの人数よりも多くオフェンスプレイヤーを配置させること。

図4:イスコが左SBの位置まで落ちてディフェンスラインに入る。

2つ目の前進(Progresar)の解決策は左WGのイスコが左SBのJ.アルバのエリアに入ることである。このゾーン2の「左アウトサイドレーン」のエリアで2対1(イスコとJ.アルバ対B.シウバ)の数的優位、オーバーロードな状況ができている。

ポイントは一度右サイドへサイドチェンジしようとして、相手を右サイドに寄せて左サイドにスペースを作ることである。更に左MFのイニエスタには右MFモウティーニョがミックスディフェンスをしているので、ボールを受けたイスコが前進するスペースもできている。

スペイン代表の前進(Progresar)解決策3:オーバーロード

図5:左サイドのオーバーロード

ゾーン2のセンターでボール保持したS.ラモス。左WGイスコと右MFコケがディフェンスライン近くまで落ちてきて、両インサイドレーンを埋めている。左サイドから攻撃を仕掛けたいスペインは一度「右インサイドレーン」にいる右MFコケにパスをして、相手ディフェンスを右サイドに寄せる。この時に相手ディフェンスは右サイドの方を見るので、その隙に左SBのJ.アルバは「左アウトサイドレーン」の高い位置にポジションを取る。ボールを受けたコケは縦パスのコースを探すが、ないので、「左インサイドレーン」にいるイスコにサイドチェンジのパスをする。この瞬間、左サイドのエリアで2対1(イスコとJ.アルバ対B.シウバ)の数的優位、オーバーロードな状況ができている。


スペイン代表の前進(Progresar)解決策 4:右インサイドレーンからの前進

図6:右インサイドレーンからの前進

左サイドでイニエスタ、イスコ、J.アルバがマークされてしまった場合は、「右インサイドレーン」から前進する。この図の場合は、右FWのG.ゲデスがS.ラモスからの縦パスをケアしているのでブスケッツのマークをしていない。S.ラモスはブスケッツを経由してサイドチェンジ。左FWのC.ロナウドはゾーンディフェンスをして、グラウンド内側へのパスコースを塞いでいる。ボールを受けたブスケッツにC.ロナウドがプレッシャーをかけに行くことで、右CBのピケはフリーになった。ピケに前進するスペースを作るために右SBナチョは開き、右MFコケは右斜め前方へ移動、その動きに相手左SMFのB.フェルナンデスがついていく。CFWのD.コスタも相手ディフェンスラインの背後に走り、相手ディフェンスラインを下げる。右WGのD.シルバは中盤に落ちてピケからボールがもらえるようにサポートする。


スペイン代表の前進(Progresar):

スペイン代表はゾーン2においての前進は左MFのイニエスタを起点として、左SBのJ.アルバと左WGのイスコの3人で左サイドを突破してシュートまでいく戦略である(たまにCFWのD.コスタがプレーに参加することもあるが)。左サイドが相手ディフェンスに塞がれている場合でも、一度右サイドに展開し、左サイドにスペースを作り、もう一度、左サイドに展開して左から攻撃していく特徴を持っている。スペインの攻撃はイニエスタを中心に始まる。もし、イニエスタにパスができない場合はイスコがボールを受けてJ.アルバと連携して攻撃する。右サイドは右SBのナチョ、右MFのコケ、右WGのD.シルバと素晴らしいプレーヤーが揃っているが、右SBのナチョはディフェンス重視であるので、あまり攻撃には絡まない(この試合で3点目を決めるが)。右MFのコケと右WGのD.シルバから攻撃を仕掛けても良いと考えるが、この試合においての右サイドは相手ディフェンスを右サイドに引きつけ、左サイドに展開するためだけに機能している。

これは、おそらくポルトガル代表は左サイドを起点にして攻撃を仕掛けてくるからだと考える。C.ロナウドは右サイドにも行くが、主に左サイドから真ん中へ移動してシュートに持ち込むので、スペインの右サイドでボールを失った場合、ポルトガルの左サイドからC.ロナウドを起点とした素早い「カウンターアタック」を避ける狙いもあったと考える。

ただ、このスペイン代表は基本的にイニエスタを中心に左サイドから攻撃するチームである。今回は主にスペイン代表のゾーン2における前進(Progresar)を分析した。このワールドカップ期間中に、スペインもしくは他のチームの集団プレーを分析したいと思う。


スペイン代表のポジショナルプレー:

スペイン代表のプレースタイルはポジショナルプレーである。プレーヤーの配置で優位性を獲得し、ゴールチャンスを得ようとするプレースタイルだ。ポジショナルプレーにも色々とあると思うが、このロペテギ(解任されたが)が2年間かけて素晴らしいプレーヤーを使って実践するポジショナルプレーは、グアルディオラのチームやバルサ、サッリのナポリとも違う独特なものであると考えるし、非常に興味深いチームである。ロペテギが去り非常に残念ではあるが、彼が作り上げた今回のスペイン代表のワールドカップにおける試合は楽しみである。

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坂本 圭 EVOLUCIÓN DEL FÚTBOL ...

スペインサッカーコーチングライセンス・レベル3(S級相当)取得。2016-2017シーズン CF Badalona (2部B)で試合分析を担当。FC バルセロナアカデミー品川大井町校でコーディネーター兼コーチ。フットボリスタ・ラボ。浜辺健太フットボールラボ。

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