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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化7 2.1.3〜4 戦略・戦術の最適化:認知構造

2.1.3 戦略・戦術の最適化

フットボールのダイヤモンド・オフェンスはフットボールの集団戦術である。フランシスコ・セイルーロ(2002)が提案したようにフットボールプレーヤーがダイナミック・システムであると考えると、プレーヤーは常に構造間の相互作用とフィードバックから構成されると考えることができる。これまで、フランシスコ・セイルーロが提案した「6つの構造」の構成要素について説明してきた。さらにフランシスコ・セイルーロは、「戦術・戦略の最適化」のトレーニングを導入するための「6つの構造」に優先順位があると説明している。

図3:フランシスコ・セイルーロのコンセプトを解釈したもの(コーチングコースCARの講義ノート)


2.1.4 認知構造と社会的感情構造のシステム内の最適化

フアン・マヌエル・リージョによると:

ポジショナルプレーはスペースと時間に関係しており、プレーヤー間の相互作用はチーム戦術に関係している。

フアン・マヌエル・リージョが言うよに、ポジショナルプレーがスペースと時間に関係しているということは、認知構造が最も重要である。なぜなら、フットボールは頭から始まり足で終わるスポーツであると考えるからである。
そのような理由でフットボールのダイヤモンド・オフェンスを研究するには、フットボールの試合中にプレーヤーが、どのように何を知覚しているのかを知る必要がある。

フットボールのダイヤモンド・オフェンスは、相手ディフェンスのプレーを読み、相手ディフェンスのリアクションによって即興プレーを創造するためのメソッドである。それを実行するためには、プレーヤーの認知構造の基礎を知ることが重要である。


ここから更に、フランシスコ・セイルーロ(2002)が提案した認知構造をより詳細に説明する。

全ての情報は、あらゆるところから発生し、全ての異なる事柄の構成要素は、多様な環境と、プレーやトレーニングの相互作用中に体験した状況から現れる。   


フランシスコ・セイルーロ(1985)によると、集団スポーツの認知構造におけるスペース(空間)と時間に、詳細なコンセプトが存在する。

空間的-時間的知覚

空間的知覚(ニュアンス)
- 自分の身体:自身がプレーをする場所
- 標識と目標(静的):ゴール
- 距離:個々の場所
- 部分別の距離:
 近くのスペース:部分内(例:ボール保持者の近くにいるプレーヤー)
 遠くのスペース:部分間(例:ボール保持者の遠くにいるプレーヤー)
- グローバル距離:
 近くのスペースと遠くのスペース:味方プレーヤー間、相手、ボール(動体) 
軌道:「アクセス軌道」 (自身の身体を使って、思っている場所にアクセスする)または「アクセス経路」(自身、もしくは他の人を巡回して動かす。投げる、打つ、蹴る etc)
- 部分別の軌道:
   近くのスペース:部分間
   遠くのスペース:自身の身体、味方、相手、ボール(動体)         
   グローバル軌道:近くへのアクセスする軌道と遠くへのアクセス軌道

- 方角(自身の身体の方向):相互作用スペースと関係している。
   近いスペースと遠いスペース:味方、相手、ボール(動体)
   標識と目標:ゴール。”変化する空間”

- 組織:
   相互作用:標識と目標、距離、軌道、方角。”集団の場所”
時間的知覚(ニュアンス)
- 継続時間:
 インタラクティブ(Interactiva):直接的な相互作用、相互扶助の関係
 インタラパッシブ(Interpasiva): 間接的な相互作用、協力の関係

- スピード:
 部分別スピード:スピードの変化、身体のあらゆる部分のスピードの変化 (例:脚、手、胴体、リズム、etc...)

- グローバルスピード:
 スピードを維持する(スピードを維持した状態で様々な動きをする)

- スピード差:
 プレーヤーと動体の間(例:各プレーヤーが異なるスピードで動く、ボールとプレーヤーのスピードの違い)

- 事柄の予測:
 リアクション反応、予測、
 前/中/後:
 例:前:ボールを受ける前  中:プレー中:ボール保持者  後:ボールをパスをした後

「空間的-時間的知覚のニュアンス」はフランシスコ・セイルーロのコンセプトを解釈したもの(コーチングコースCARの講義ノート)


図4:空間的知覚(ニュアンス)

空間(スペース)的知覚:

認知構造には空間的-時間的知覚が存在し、詳細ないくつかのニュアンスがあることをフランシスコ・セイルーロ(1985)は提案している。この認知構造を観察することによって、プレー中にプレーヤーが何を見て、どのような認知と、どのような選択をスペースと時間の中で実行するのかを理解することが可能となる。自身がプレーをしている場所と方向、ゴールの位置と距離、味方の位置と距離、相手ディフェンスの位置と距離、ボールの動きと距離をフットボールプレーヤーは知る必要性があるとともに、これらを知ることが、自身がプレーをするスペースを認知したことになり、そのスペースの大きさが、プレーをする時間とも関係していることだろう。集団スポーツであるフットボールのチーム戦術・戦略を実行するには、空間(スペース)と時間を認知することが重要であると考える。


時間的知覚:

フットボールはプレーをする位置、ポジション、レベルによってプレーする時間に限りがある。ボールを受ける前に周囲の状況を確認し、いくつかのプレーオプションを準備することが大切である。プレーオプションというものは個人的なもので、例えば超一流プレーヤーやファンタジスタと呼ばれる人は、多種多様なプレーオプションを持っていることだろう。当然、グループ、チームとして共通の攻撃のプレーオプションを持つべきだと考える。なぜなら、ボールを受けたプレーヤーと、その近くにいる味方プレーヤーは相互作用するからである。ボール保持者とその近くにいるプレーヤーは何かしらのコミュニケーションを取る必要がある。それは動き(例:マークを外す動き)でも、ジェスチャーでも、アイコンタクトでも、言葉による指示でもなんでもかまわない。認知構造において、個人で認知する能力に加えて、チームおよびグループとしてのプレーオプションを持つ必要性を感じる。

個人として、グループおよびチームとして、次のプレーを予測して同じ絵を描くことができれば、プレーヤー自身のプレースピードは上がることだろう。

プレーヤー自身の移動のスピードはもちろん重要だが、フットボールプレーヤーの最も大事なスピードとはなんであろうか。


時間はスピードと関係している:

「FCバルセロナで最も素早い選手は、グアルディオラだ」と言ったら、同意できるだろうか?週に一度行われるスピードに関する練習で、最適解を見いだすのは常にグアルディオラだった。5〜20メートルのダッシュ・止まる・動き出すという動作において、セルジはグアルディオラより速い。しかし動き出す前の「予測を立てる」「次のアクションまでに味方のポジションを見る」「正しいポジションをとる」といった動作で最も速いのは、グアルディオラだ。            フランシスコ・セイルーロ(2000)


フランシスコ・セイルーロ(1998)はフットボールにおけるスピードの定義をこのように説明している:

「少ない時間である一定の距離を走ることのできる選手ではなく、試合の中で起こる様々なプレー展開を最適な形で分析、実行、解決できる選手」

フランシスコ・セイルーロは時間的知覚の中の「事柄の予測」において、前(ボールを受ける前)/ 中(プレー中:ボール保持者)/ 後(ボールをパスした後)の3つがあることを提唱している。現役時代のペップ・グアルディオラは、この「事柄の予測」のスピードが速かったというように推測することができる。

なぜなら、フットボールは、誰かがスタート合図をするのではなく、自身で、自らの状況(スペースや方向)やゴール、ボール、味方、相手の位置と距離を認知し、瞬時に最適解であるアクセス経路を見つけなければならないからだ。その最適解を見つけるスピードが、あの痩せて、見るからに移動のスピードは遅そうなペップ・グアルディオラがその当時のFCバルセロナで最も速かったのだ。さらにそのスピードは最適なタイミングでなければならない。遅すぎても、速すぎてもダメなのだ。

ペップ・グアルディオラのスピードとは、「前:ボールを受ける前」に周囲の状況を素早く、的確に認知して、分析し、予測する。「中:プレー中(ボール保持者)」は、どのタイミングで、どのくらいのスピードでプレーをするか、パスをするかを認知し予測し実行するか、予測したプレーと違えば、次のプレーオプションを実行に移す。「後:ボールをパスした後」は、次のプレーを考え、自身のポジションの役割の中で最適なポジションに素早く移動する速さのことだったのだろう。

時間的知覚の中で「部分別スピード(身体のあらゆる部分のスピードの変化)」、「スピードの変化」、「スピード差(例:各プレーヤーが異なるスピードで動く、ボールとプレーヤーのスピードの違い)」についてもフランシスコ・セイルーロは言及している。スピードの変化はまさしく、時間のコントロールであり、相手が体感するスピードの一つであろう。メッシやイニエスタ、ネイマールのようなプレーヤーは、スピードの変化を得意としている。実際、上記の3人が時速何キロで走るのかは知らないが、彼ら3人よりも速いプレーヤーは数多くいることだろう。

フットボールプレーヤーのスピードというのは、時間をコントロールすることができるプレーヤーのことを意味しているのかも知れない。

これが、フットボールプレーヤーに必要なスピードであり、フランシスコ・セイルーロが提唱するスピードであると考える。最近は試合中に時速何キロで走ったなどの移動のスピードばかりに注目が集まりがちだが、フットボールプレーヤーのスピードとは何かを改めて考える必要性があるのではないだろうか。

そして、時間的知覚は、個人だけではなく、グループ、チームとしての直接的、間接的相互作用と、スペースから成り立っていると考えることができるだろう。フットボールプレーヤーに必要なスピードとは、スペースの認知とそれによって、どのくらいのスピードでプレーをしなければならないかの時間を予測するために、「事柄の予測(前/中/後)」を、試合中に素早く的確に分析し、予測、実行する能力であると考える。

戦略・戦術の最適化はまさしく、スペース(空間)と時間の支配であり、それはフットボールプレーヤーの認知構造と密接に関係している。フットボールとはスペースと時間であると言えるだろう。


チャビ・エルナンデスがスペースと時間について説明している動画があったので添付する:

引用・参考文献:

Garcia, David. Crash course to positional play: Part 2 of 4 –Organized structure (Blog). 12 de Mayo 2017.

Ribera, Nebot, David. “Táctica estratégica outline socio-afectiva del grupo deportivo.”

Seirul-lo Vargas, F. Estructura Cognitiva. Sesiones formativas para entrenadores deportivos. (2013).

ラファエル・ポル. バルセロナ:フィジカルトレーニングメソッド. 翻訳:坪井健太郎. 監修:小澤一郎. カンゼン. 2017. 12.

Seirul·lo Vargas, F. (1998). Planificación a Largo Plazo en los Deportes Colectivos.

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