フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化 33 〜フットサル1〜基本的な動きと戦術的な動き

フットサルの攻撃には基本的な動きと戦術的な動きがある。

※基本的な動き:相手を崩すためにはチーム全体で共有した動きを持っておくこと

※戦術的な動き:フィールドプレーヤーの4人全員が連動しながら相手を崩していく戦術を覚えていく。


2.3.9 相手のプレーを読む

ミゲル・ロドリゴ(2011)戦術的な動きについて:

相手のボールへの寄せ方や、ポジショニング、スペースをしっかりと見極めることが重要になる。相手の状態に構わずに自分たちの戦術を押し通そうとしても良い結果を得られることはできない。戦術のための戦術ではなく、あくまでも勝利のための戦術なのだ。

ミゲル・ロドリゴ、テックス・ウインター、フィル・ジャクソン、酒巻 清治、ファン・マヌエル・リージョ、ペップ・グアルディオラ等の攻撃戦術の考え方には共通する部分がある。それはプレーの状況、相手のディフェンス方法、ポジショニング、システム、どこにスペースがあるか、または作り出すことができるかを認知し、素早く意思決定し行動に移すことを基本原理としていることである。

更に、鈴木 隆二(2014)も、WEBメディアCOACH UNITEDを通じて彼らと同じようなことを言っている:

お互いの選手の距離感、次の展開を読む能力が必要不可欠

バスケットボール、ハンドボール、フットサル、フットボールには共通した攻撃戦術の考え方があるのだと考える。それは相手のプレーを読み、次の展開を予測してプレーをする力である。そのための、そのプレー状況に適した多様なプレーオプションを個人としても、グループ(2、3人)、集団(チーム)としても持っていることが必要不可欠であると考える。

オフェンス側から攻撃を仕掛け、それに対して相手ディフェンスが反応する、それに対してのリアクションを瞬時に自分たちがもっているプレーオプションから選択していくのが現代、そして将来に続くフットボールには必要なことなのではないだろうか。


2.3.10 即興プレー


鈴木 隆二(2014)は、即興プレーについてこのように述べている:

「戦術記憶」とも表現される戦術的引き出しの多いスペイン人は、フットサルでもサッカーでも誰と一緒にピッチに出ているのか、組む選手の特徴やパーソナリティーに応じて自らのプレーを変えることができ、局面、その場に応じて即興的に効果的なプレーを作り出すことができます。

ある攻撃の局面でオフェンス側の仕掛けに対して、相手ディフェンスが反応する。それに対してのリアクションは即興プレーであると考える。それは多様なオプションをあらかじめプレーオプションとしてもっていることが前提となる。それは、今までのプレー経験やトレーニング、現在行われている試合中に学んだプレーオプションから、瞬時に、直感的に無意識に選択するのだろう。

次に鈴木 隆二によると、プレーヤーは、誰と一緒にプレーをしているかが大事であり、フットボールの場合、一緒に近くで直接プレーに関与するプレーヤー(Ayuda mutua:相互扶助)の特徴によって、プレーの選択も変わってくるのだろう。その一緒に近くでプレーをするプレーヤー間の相互作用によって、創造的なプレーが即興的に発生するのだと考える。その即興プレーをするには、多様なプレーオプションをもっていることが必要条件になってくることだろう。

フランシスコ・セイルーロも、プレーヤーがもっているスキル、特徴、プレーの質は一人一人違うと述べている。それに基づいて、鈴木 隆二が述べていることを理解することができるだろう。プレーヤーは誰と一緒にプレーをするかによって、可能なプレーが変わってくるのである。誰とプレーをするかによってプレーを変えるには、多様なプレーオプションをもっていなければならないことと、試合中に、相手のプレーを読み、次の展開を予測してプレーをする力も必要である。フットボールは他のボールを使う集団スポーツもそうであるが、相手ありきのスポーツであることをここでもう一度理解することが重要であろう。なぜなら、相手が何をしてくるかによって、プレーの選択肢を変える必要性があるからだ。


ライン間のコンセプト:

ライン間のコンセプトはペップ・グアルディオラがFCバルセロナのトップチームの監督だった時(2008〜12)に採用され、現在のフットボール界で一般化したと考える。ただ、もともとこのライン間のコンセプトはバスケットボールにあったと考える。なぜなら、1962年にテックス・ウインターによって書かれたバスケットボールのバイブルとも言える名著「バスケットボール:トライアングル・オフェンス」の中で、ライン間という言葉は使っていないが、それと同義語で使われる:

「ギャップ」


という言葉で表現されているからだ。バスケットボール界に古くからあるコンセプトであったことがうかがい知れる。
そして、このライン間(ギャップ)のコンセプトが21世紀のフットボール界で流行となったのだ。


横と縦のライン間のコンセプト:

鈴木 隆二(2014)は、横と縦のライン間のコンセプトについてこのように説明している:

エントレ・リネアス(ライン間)というのは相手ディフェンスのライン間に侵入していく動きのことを指します。ディフェンスのライン間というのは横のラインだけではなく、縦のラインも含みます

つまり、「横のライン間」とは、相手ディフェンスプレーヤー同士の間、例えば、トップとトップ下の間、右ウイングと右サイドバックの間のことなのであろう。「縦のライン間」とは、MFラインとDFラインの間のスペースであるライン間にポジションを取ることであるのだ。

- 横のライン間(相手ディフェンスプレーヤー同士の間)
- 縦のライン間(相手ディフェンスラインとディフェンスラインの間)

横のライン間が「相手ディフェンスプレーヤー同士の間」ということで考えるなら、例えば、相手の右ウイングと右サイドバックのプレーヤー同士の間のライン間にポジションを取ることは、横のライン間ではなく、縦のライン間とも言えるかもしれない。もし、そうであれば、横のライン間と縦のライン間ではなくて、フットボールの場合は、「ライン間」と「縦横のプレーヤー間」に分けて考える必要があるのかも知れない。

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図66:ライン間と縦横のプレーヤー間

ライン間にポジションを取る効果:

ライン間にポジションを取るポジショナルプレーを実行するようなチームは、特に各プレーヤーが、相手ディフェンスラインとディフェンスラインのライン間と縦横のプレーヤー間にポジションを取ることが重要だと考える。

ライン間にポジションを取るということは、相手の背後(視野外)にポジションを取ることだと前の章でも説明している。仮に、ライン間にポジションを取るプレーヤーが相手ディフェンスプレーヤーにマークされたとしても、相手ディフェンスプレーヤーを自身に引きつけることで、他にパスコースやドリブルで侵入することができるスペースができようになることだろう。

各ディフェンスプレーヤーがライン間にポジションを取るオフェンスプレーヤーをマークすると、マンツーマン・ディフェンスのような状態になり、あらゆるところにオープンスペースができることだろう。オフェンスプレーヤーはそのスペースに動くことになる。ディフェンス側は1人でも、マークが外されたり、1対1の局面で負けると、他のディフェンスプレーヤーがカバーしなければならなくなるので、組織的なディフェンスは崩れることになるだろう。

つまり、ライン間にポジションを取ることの目的、効果は、ライン間にポジションを取るプレーヤーがマークされても、されなくとも効果的なプレーを生み出すことができるということだと考える。

ライン間にポジションを取ることで、相手ディフェンスはマークしようか、このままスペースを守ろうかと迷いが生じる。その時、オフェンス側に時間とスペースが出現するのだと思う。ライン間にポジションを取るということは、時間とスペースを支配することにつながるのではないだろうか。


ライン間を継続して見つけ続ける:

鈴木 隆二(2014)はライン間を継続して見つけ続けることの意義をこのように説明している:

ライン間というのは常に移動し、場所が変わっていくので、継続して見つけ続ける、動き続けなくてはいけません。そうすると一人一人の味方の選手の距離感が一定に保たれます。ある程度保たれるというのがすごく大事なことで、そうなると三角形、四角形が形成しやすくなります

鈴木 隆二が説明したようにライン間は、ボールの移動、オフェンスプレーヤーの移動、それに伴う相手ディフェンスの移動によって常に移動していくのだ。ライン間の場所がどんどん変わっていくので、絶えず、「ライン間」「相手ディフェンスのプレーヤー間(縦、横)」のスペースを瞬時に見つけ続け、そこにポジションを取る必要がある。

次にボール保持者も相手ディフェンスのプレーヤー間にドリブルで仕掛け、相手ディフェンスがどのように反応するかで、次のプレーの選択肢が変わってくる。図67のように、相手ディフェンスプレーヤー2人が縦パスのコースを切る場合は、前にポジションを取った右SB、もしくは、CFWへのパスコースが空くことだろう。

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図67:ライン間を継続して見つけるためのダイヤモンドの配置(システム:4−3−3、ファイナルゾーン:2−3−5)

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図68:右WGがボール保持者の場合、全員が相手ディフェンスの背後(視野外)のライン間にポジションを取る。

前にポジションを取った右SBにボールが入った場合、相手ディフェンスはボールとオフェンスプレーヤーを同一視できるポジションを取ろうとするが、基本的に、ボール保持者である右SBの方に視線が向くことだろう。右SBは半身の状態でボールを受け相手ゴール方向を視野に入れることになる。この右SBの身体の向きに対して、オフェンスプレーヤーは、相手の背後(視野外)のライン間にポジションを取る。そうすると自然とダイヤモンドの配置になり、適切なオフェンスプレーヤー間の距離(15−20m)を保つことができるはずである。ボール保持者の近くでダイヤモンドを形成すると相手ディフェンスの背後(視野外)である、ライン間、プレーヤー間(縦、横)にポジションを取ることが容易になると考える。

そのように考えるとダイヤモンドの配置はポジショナルプレーの根本となる配置であることが理解できることだろう。

ライン間を継続して見つけ続けることの参考となる動画があったので、添付する。

動画:プレミアリーグ(2018−2019):アーセナル対レスター。アーセナルGKのボール出しからの攻撃。アーセナルのプレーヤー全員が相手ディフェンスのライン間、プレーヤー間である、相手の背後(視野外)にポジションを取り、ボール出し、前進、ファイナルゾーンに入りゴールする。ボール保持者も相手ディフェンス2人のプレーヤー間にドリブルを仕掛け、相手ディフェンス2人を引きつけ、2対1の状況を作り出し、チームメートをフリーにしている。


ライン間に入るプレーヤーはゆっくりと動く:

鈴木 隆二(2014)は、ライン間にポジションを取ることを継続することで本当の効果が出ることの重要性を説き、そのコツについてこのように説明している:

トップスピードではなく、ランニング程度のスピードでエントレ・リネアス(ライン間)をかけること

例えば、メッシやイニエスタなどは、ふらふらとライン間に入ってきて、ポジションを取る。決して全力疾走でライン間に入ってくることはないような印象を受ける。なぜ、トップスピードではなく、ランニング程度のスピードでライン間に入ることが重要なのであろうか。

ここで、フットサルとは離れてしまうのだが、バスケットボールのブログ「NBAで凄いのはダンクだけ!?」にこのような説明があった:

ゆっくり動くメリット:

まず、自分がゆっくり動けばDFもゆっくり動かざるを得ません。自分が歩けばDFも歩きます。自分が走ればDFも走ります。つまり、「自分=相手」ということで、自分の動き方次第で相手の動き方は決まってくるということです。動き回れば回るほど運動量や足の速さ、瞬発力の路線での戦いになるので、それらが高いチームや個人が有利な状況になります。そこであえて「ゆっくり動く」ことをすると、相手もゆっくり動かざるを得ないので、戦う路線を変えることができ、「駆け引き」という読み合いの路線に相手を引き込むことができます。

これは、人間心理、武道などにも通じる部分があるかも知れない。自分がゆっくり動くと相手もゆっくり動くことになる。そこで相手はマークしようか、このまま留まろうかの迷いが生じるのだと考える。そこに「駆け引き」が出てくる、これはゆっくりとしているが、マークを外す動きの1つであると言うことだ。ゆっくりとした静的な動きだが、相手には迷いが生じるのだ。マークについて行くのか、留まるのか。

次にゆっくり動くことの効果をオフェンス側から考えてみる。同じブログにこのような説明がある:

ゆっくり動くことで「冷静さ」を手に入れることができます。ゆっくりした状態から速く動き出せば、緩急で相手には「体感的な速さ」を感じさせることに繋がります。

言われてみれば、そうである。速く動くより、ゆっくり動く方が「冷静」に周囲を観察でき、良い意思決定も可能であろう。さらに、メッシやイニエスタ、ネイマールのように緩急で相手をドリブルで抜いていくプレーヤーには、このゆっくりとした動きが非常に重要だと言えるだろう。

鈴木氏はゆっくり動くことのメリットとして:

ボール保持者に対して、相手DFがプレッシャーをかける時に、どちらのサイドを消すのかを見てから、空いているスペース、パスコースに動く。

と説明する。ボール保持者をサポートするために、ライン間に入る時にあまりにも早く入ってしまうと、相手DFはライン間に入った選手へのパスコースを消しながらボール保持者にプレッシャーをかける。

そのようなことを未然に防ぐために、ボール保持者に対して、相手DFがどちらのコースを消すのかを見てから、空いているスペースへ移動するために、ゆっくり動くのである。


ゆっくり動くことの長所:

- ディフェンスの動きをゆっくりにさせる
- 「冷静」に周囲を観察することができる。
- ボール保持者に対して、相手DFのプレッシャーをかけるコースを見ることができる。


動物はどうだろう。チーターやライオンは、獲物を捕まえるときに最初から、全力ダッシュでは行かないはずである。ゆっくりと捕まえる獲物を冷静に判断して、忍び足で、獲物に気配を悟られないように近づき、獲物を捕まえるのに有利な位置を取り、一瞬のスピードの変化で、獲物を捕まえる。この写真のチーターのようにゆっくり動くことで、獲物となる動物もゆっくり動くことになるのだろう。そのように考えるとフットボールはスピードの変化(緩急)が非常に大事であるスポーツだと言うことが、ライン間への入り方から、もしくはチーターの動きからも理解できることだろう。

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ライン間にポジションを取ると言うことは、時間とスペースを支配することに繋がり、そのライン間へはゆっくりと入る。そして、ボールを受けたら一気にスピードを上げる、スピードの変化(緩急)が大事になるのだ。このフットボールというスポーツの奥深さをライン間へのポジション取り1つで学ぶことができるのではないだろうか。



引用・参考文献:

ロドリゴ・ミゲル. フットサル戦術パーフェクトバイブル. 監修:JFAフットサル委員会. カンゼン. (2011). 64. 90.

鈴木隆二. スペイン人の多彩な戦術的引き出しの源泉は「クアトロ」にあり(Webメディア). COACH UNITED. (2014.2.14). https://coachunited.jp/column/000071.html

鈴木龍二氏との対談

ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 81.

鈴木隆二. 「ライン間」とは、横だけではない (Webメディア). COACH UNITED. (2014.2.10). https://coachunited.jp/column/000049.html

「ゆっくり動く」Hardenの上手さ. NBAで凄いのはダンクだけ!?. blog. (2017. 9. 3.). http://nbanotdankudake.com/?p=4116






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