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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化 32 ~ハンドボール2〜

2.3.8 ファイナルゾーンの状況におけるプレー・オプション

フットボールは、オフェンスプレーヤーがボールを受ける際に、相手ディフェンスプレーヤーに対して、ポジション優位の状況であることが望ましいと考える。
通常、相手ディフェンスプレーヤーは自身のマークとボールの両方が見える位置にポジションを取るので、ボールを受けるプレーヤーは、ボール保持者がパスをする瞬間、相手ディフェンスの視野外にポジションを取る、もしくは、相手ディフェンスの視野外から突然現れることで、優位性を獲得できることだろう。個々のプレーヤーのちょっとしたポジションの移動が優位性を生み出すのだ。

ここから、ハンドボールの基本的な動きと戦術の例を紹介し、フットボールのダイヤモンド・オフェンスに応用したいと考える。

本章では、個々のプレーヤーの動きにフォーカスをしていきたい。

ポジショニング:相手ディフェンスの視野外にポジションを取る

相手ディフェンスの視野外にポジションを取るとは、相手ディフェンスがいないスペース、言い換えるなら、相手ディフェンスの背後にポジションを取ることだと考える。それでは、いつ、自身をマークしているディフェンスの視野外にポジションを取るのかと言うと、酒巻 清治(2014)はこのように説明している:

隣の選手にパスが来た瞬間を利用します。

フットボールに置き換えて考えてみると、ボールを受けようとするプレーヤーがボール保持者の近くにいて直接的にプレーに関与する状況(相互扶助:Ayuda mutua)である。この場合、相手ディフェンスプレーヤーはどうしても、ボールの方に目を向けるようになり、自身のマークを視野内におくか、ボールを見るかの判断の迷いが生じやすい。この瞬間に相手ディフェンスの視野外、相手ディフェンスの背後に移動するとポジションの優位性を獲得できるであろう。

相手ディフェンスの視野外(背後)にポジションを取るタイミングは、ボールを受けようとするプレーヤーがボール保持者の近くにいて、自身をマークしている相手ディフェンスプレーヤーがボールの方向に目を向けた瞬間である。そこからパスをする瞬間にスペースへ動き出すのだ。

フットボールの場合、ボール保持者から遠くにいて、間接的にプレーに関与するプレーヤー(協力:Cooperación)であっても、ボールを素早くまわすことで、相手ディフェンスがボールを注視するようになった場合は、相手の視野外(背後)にポジションを取ることは可能であると思う。


Xステップ:

図56:主にサイドのプレーヤーが行う動きである。相手ディフェンスの視野外にポジションを取るために、パスと反対方向斜め後ろにバックステップをする。次に前方に空いたスペースでボールを受ける。


ボックスステップ:

図57:センターにポジションを取るプレーヤーがXステップをすると、隣のディフェンスがマークをしてしまうので、一度バックステップし、その後少し膨らむようにサイドステップかクロスステップで素早く横に移動して、ディフェンスの視野外に移動し、前方に空いたスペースでボールを受ける。フットボールのウェーブの動きに近いと考える。


ディフェンスと半身ずれる:

図58:ディフェンスと半身ずれる。

酒巻 清治(2014)は、プレーヤーがボールを受ける瞬間にディフェンスと半身ずれることの重要性をこのように説明している:

パスをキャッチした時点で、DFと半身(もしくはそれ以上)ずれておくと、そのあとの1対1が楽になります。そのためにはDFの視野外に位置を取ることや、パスをもらう前に動くことが大事になってきます。

パスをもらう瞬間にディフェンスと半身ずれるということは、それだけで、少しポジション優位を獲得できたことになると考える。ディフェンスと半身ずれた状態でボールを受けると、ディフェンスは半身ずれた方にスペースが少しできるので、そのスペースを消すためにボール保持者とゴールを結ぶ中間の位置で対面しようと動くことだろう。しかし、ディフェンスが動くことで、今度はディフェンスが前にいたポジションにスペースができる。ボール保持者はそちらのスペースに動くか、パスを選択するだろう。

次に、ディフェンスが半身ずれた状態でディフェンスをした場合、半身ずれた方にスペースができているので、ドリブルでボール運ぶことが容易になるだろうし、パスコースもあることだろう。このようにボールを受ける瞬間にディフェンスと半身ずれることは、それだけでポジション優位であると考える。


次は、ハンドボールのコンビネーションプレーから考えてみる。

パラレラ(相手の間に位置を取る)の動き:

オフェンスプレーヤーが相手ディフェンスプレーヤーの横にポジションを取るパラレラの動きについて酒巻 清治(2014)はこのように説明している:

間を強く攻めるのが攻撃の基本。DFを寄せてパスを出していけば、必ず人があまります。

図59:パラレラ(相手の間に位置を取る)の動き

図59を見てわかるようにボール保持者がドリブルで、相手ディフェンスの間を攻めることによって、相手ディフェンス2人をボール保持者に引きつけることができる。2人を引きつけたボール保持者は、相手ディフェンスの間にポジションを取るオフェンスプレーヤーにパスをする。このようにプレーヤー全員が相手ディフェンスプレーヤーの間にポジションを取り、攻めることで最後に2対1の数的優位ができて、シュートチャンスを得ることが可能となるのだと考える。

フットボールの置き換えて考えると、最後にサイドで2対1の数的優位ができ、サイドを突破してセンターリングする状況であろう。


ユーゴの動き:

ユーゴの動きは旧ユーゴスラビアで作られた攻撃戦術であるので、この名前がついている。ユーゴの動きは数的同数の状況を、2対1の数的優位の状況にすることを目的としたものである。

図60:ユーゴの動き。Central(センター)とLI(左バック)のポジションチェンジ。

例えば、図60を見ると、相手コートで3対3の状況である。LD(右バック)がボール保持者で、LD(右バック)は相手ディフェンスプレーヤーの間にドリブルを仕掛け、相手ディフェンスプレーヤー2人を自身に引きつける役目がある。

LD(右バック)が相手ディフェンスの間にドリブルする瞬間、Central(センター)とLI(左バック)がポジションを入れ替わる。LD(右バック)が相手ディフェンスの間をドリブルで仕掛けた時には、センターとLI(左バック)は、ポジションを横に入れ替わった状態にあり、左サイドで2対1の数的優位ができる。

酒巻 清治(2016)によると:

ポジションチェンジではDFの正面ではなく、間にはまること。

ポジションチェンジをするときにわざわざ相手ディフェンスの正面に移動するのではなく、そのゾーンを担当している相手ディフェンスプレーヤーの視野外(背後)であるディフェンスプレーヤーの間に各プレーヤーがポジションを取ることが重要である。ディフェンスプレーヤーの間にポジションを取ることで、ポジションの優位性を獲得したことになると考える。


バックセンタークロスの動き:

バックプレーヤー(LD:右バック、LI:左バック)がボール保持者の場合、Central(センター)とクロスする動きのことをバックセンタークロスと呼ぶ。この動きのポイントは、Central(センター)が相手ディフェンスプレーヤー2人を自身に引きつけることである。そのようにして、逆サイドで数的優位の状況を作り出すのだ。

図61:バックセンタークロスの動き。LI(左バック)が相手ディフェンスプレーヤーの間にポジションを取る。

相手ゴール前6対6+GKの状況で、LD(右バック)がボール保持者の場合、LI(左バック)が相手ディフェンスプレーヤーの間にポジションを取る。LD(右バック)がCentral(センター)にボールを渡す。

図62:バックセンタークロスの動き2。Central(センター)はLI(左バック)にパスした後、素早くクロスしてLI(左バック)からリターンパスを受ける。この時、センターは相手ディフェンスプレーヤー2人を自身に引きつける。パスをしたLI(左バック)は素早くコート中央へ移動。

バックセンタークロスを成功させるための重要なポイントを酒巻 清治(2014)はこのように説明する:

センターがDF2枚を引きつけて左バックにパスを出す瞬間、ラインプレーヤーは右の3枚目のDFにサイドスクリーンをかけます。これでコート右側が4対2になるので、右ウイングまでいく前にもシュートが狙えます。

(引用した個所は、図に合うように修正している)

図63:バックセンタークロスの動き3。ラインプレーヤー(Post)が相手右3枚目のDFをスクリーン。

バックセンタークロスのもう1つ大事なことは、この図63では LI(左バック)の動きである。LI(左バック)はCentral(センター)にパスをしたら直ぐに、コート中央に移動して、相手ディフェンス2人を引きつけたCentral(センター)からパスを受ける。この瞬間、ラインプレーヤー(Post)が相手右3枚目のディフェンスプレーヤーをスクリーンすることで、右サイドで4対2の数的優位の状況ができるので、数的優位を活かしてED(右ウイング)までボールを回してシュートを打つことができることだろう。


ポストのスライドの動き:

ラインプレーヤー(Post)であるポストのスライドの動きとは、「3人目の動き」のことだと解釈する。

ポストのスライドの動きは、AがBにパス、ラインプレーヤー(Post)は相手右サイドのディフェンスにスクリーンをかけて、ボールを受ける準備をする。

図64:ポストのスライドの動き1


Bがボールを受けると、相手のセンターのディフェンスがBにプレッシャーをかけにくる。すかさずBはAにリターンパス。パスが出た瞬間にラインプレーヤー(Post)は、素早く横にスライドして、Aからパスを受けてシュート。

酒巻 清治(2014)は、ラインプレーヤー(Post)がボールを受けるタイミングについてこのように説明する:

このコンビネーションで、重要なのは、ラインプレーヤーがスクリーンから離れるタイミングです。Bのパスと同時に動くと、ラインプレーヤーをマークしている相手右サイドのディフェンスもついてきます。パスから一呼吸遅れて素早く離れれば、相手右サイドのディフェンスが対応しにくくなります。

(引用した個所は、図に合うように修正している)

図65:ポストのスライドの動き2

ポストのスライドの動きは、AとBでパス交換をして、相手ディフェンスを引きつけラインプレーヤー(Post)をフリーにすることが重要である。相手ディフェンスを引きつけたら、ラインプレーヤー(Post)がスライドして、一瞬、Aとラインプレーヤー(Post)で2対1の局面を作り出すのである。

ここまで、ハンドボールの「ポジショニング:相手ディフェンスの視野外にポジションを取る動き」と「コンビネーションプレー」について説明してきた。

ハンドボールの「ポジショニング」と「コンビネーションプレー」は、フットボールのファイナルゾーンを攻略するためのヒントとなると考える。フットボールにおいても、相手ディフェンスの視野外(背後)にポジションを取ることは必須であるし、相手ディフェンスプレーヤーのライン間にポジションを取ることも現代フットボールには必要とされるポジショニングであろう。その動き方としてハンドボールから学ぶことは多いと考える。

「コンビネーションプレー」について、ハンドボールの攻撃戦術は、フットボールのファイナルゾーンを攻略する戦術としては斬新に見えるかも知れない。今日までのフットボール、特にポジショナルプレーを信奉するチームにおいても、ゾーン3に入るまでは、組織的にボールを回して、ゾーン3に入ったら自由にポジションを変えてプレーをすることができるような個人戦術をベースにした攻撃が多かったのではないかと考える。もちろん、そこには、チーム内でトレーニングをした2対2や3対3のグループ戦術もあることだろう。

私がここまで提案してきたのは、ゾーン3のセットオフェンスにおいても、グループや集団での組織的な即興プレーで相手ディフェンスを崩して、ゴールチャンスを創出したいと言うことである。

当然、個人の即興プレーから、チームメートが反応して相手ディフェンスを崩すことも非常に重要だ。その個人の即興プレーとグループ・集団での組織的な即興プレーをミックスしたいと考える。

なぜなら、攻撃戦術が進化するスピード以上に、守備戦術の進歩が目覚ましいと考えるからだ。個人から作り上げる即興プレーだけでは、相手チームは試合を分析し、そのタレントのある個人が実行する攻撃パターンをきっと見つけ出し、対策を練ってくることだろう。

コービー・ブライアント(2013)が言っていたトライアングル・オフェンスの説明をもう一度ここに書く:

相手チームには、僕たちが何をしようとしているかわからないからね。なんでかって? それは、僕たちだってこの一瞬一瞬に何をしようとしているかなんて分かってないからだよ。全員が、互いを読み合って、反応し合う。巨大なオーケストラだ

チームが攻撃のパターンを何個も持って、それをただ実行するのではなく、チーム全員が攻撃に参加し、互いのプレーを読みあって、対戦相手の反応の仕方によって、リアクションをしていくトライアングル・オフェンスのような攻撃戦術が必要だと思う。

自分たちだって、この一瞬一瞬に何をしようとしているかなんて分からないような即興プレーが、現代フットボールにおいて必要とされていることだろう。その意味でフットボールのダイヤモンド・オフェンスはハンドボールのポジショニングや攻撃線術を学び、検証して、フットボールに応用することができるように加工して取り入れていきたいと考える。

引用・参考文献:

酒巻清治(監修). 基本が身につくハンドボール練習メニュー200. 池田書店. 2014. 47. 54-56. 195. 200.

酒巻清治(監修). ハンドボール基本と戦術:PERFECT LESSON BOOK. 実業之日本社. 2016. 103. 105.

サポートありがとうございます。次の投稿をする意欲が湧いてきます。このお金はサッカーを深く知ることに使いたいと思います。