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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化 31 ~ハンドボール1〜

ハンドボール編:

バスケットボールの次は、スペイン、ヨーロッパで人気のあるハンドボールの攻撃戦術をフットボールに応用することを考えた。ハンドボールの様々な文献や動画、実際にFCバルセロナのハンドボールチームの試合をカンプ・ノウスタジアムの敷地内に併設されているパラウ・ブラウグラナ(8,250人収容)で観戦し、フットボールに応用することができそうな新たな攻撃戦術がないか、もしくは類似なものはないかを探求していた。

(屋内スタジアム:パラウ・ブラウグラナはバスケットボール、ハンドボール、フットサルの3チームの試合時に使用されている)

ハンドボールに興味が湧いたのは、ペップ・グアルディオラがハンドボールの攻撃戦術をフットボールに取り入れているという文献を読んだからだ。実際、ハンドボールというスポーツは、相手ゴール前の攻防、セットオフェンスが主のスポーツであり、フットボールにおいてのゾーン3のセットオフェンスからの攻撃に応用できるものが、あるのではないだろうかと考えるに至った。

ハンドボールはフットボールよりゴールが小さいが、ゴールキーパーがいる。そこはバスケットボールのシュートと大きく違いフットボールにかなり近いシュートの状況があると推測できた。もちろん、手を使う競技であり、スペースもフットボールと比べて狭いので、その違いは認識しなければならない。


2.3.6 相手のプレーを読む

きっかけの動き:

酒巻 清治(2016)は、セットオフェンスを開始するには「きっかけの動き」が必要であることを提案している。セットオフェンスを開始するには、誰から、どのようなきっかけで攻撃を開始したら良いのかがまだ曖昧な部分がある。彼はオフェンス側プレーヤーの「きっかけの動き」からセットオフェンスが開始されることについてこのように説明している:

セットオフェンスを見る際には、「2対2を抽出する」意識で見るといいでしょう。6対6(ハンドボールは7人制、GK1人含む)からきっかけの動きでスペースを作って、途中の動きが複雑になっても、最終的には必ず2対2で決着がつきます。「こういうきっかけをしたら、ここに2対2が生まれるのか」という関連性が見えてきたら、セットオフェンスが面白くなります。

酒巻 清治が説明したことをフットボールに置き換えて考える。フットボールは11対11で試合をするが、ハンドボールと同じように最後は2対2の状況をいかにして、2対1の状況にするのかが最も重要な攻撃戦術の目的であると考える。相手ゴール前で2対1の状況を作り出すことが、シュートチャンスを作ることにつながっていくのだろう。

そのセットオフェンスを開始するためのきっかけの動き、例えば、ゾーン3右外側レーンで右ウイングがボール保持者の場合、右サイドバックがオーバーラップをして、右ウイングの外側を超えていった。その時、右外側レーンでオーバーロードの状況になり、例えば、相手の左サイドバック(ゾーンディフェンスの場合)が担当するゾーンでオフェンス側が2対1の数的優位ができることだろう。この動きを利用して、相手がこの状況をカバーしなければ、オーバラップをした右サイドバックに縦パスを送り攻撃を展開する。もし、オフェンス側のセンターフォワードをマークしていた相手左センターバックが左サイドバックのカバーに入るなら、センターフォワードがフリーになるので、そこにパスをする。

また、もし相手の左ウイングが左サイドバックをカバーするためにペルムタをするのであれば、相手ディフェンスのMFラインとDFラインはゴール方向へ下がるので、前方にスペースがないことが予想される。その場合は、一度バックパスをして、逆サイドヘ素早くサイドチェンジするといったように、1つのきっかけの動きから、様々な枝葉の動きが発生するのだ。

チームメートのきっかけの動きだけではなく、ボール保持者が1対1の状況から、カットイン(ドリブル突破)によってのきっかけの動きもあることを新井田 侑加等のグループ(2013)は言及している。

※ペルムタ:相手がオーバーラップした時に、スペースを埋めるアクション、もしくは、チームメートをカバーするために下がってオーバラップをした相手をマークする動き。

そのように考えていくとハンドボールの攻撃戦術にもフットボールの攻撃戦術に類似する要素があるのではないだろうか。きっとハンドボールの攻撃戦術から学ぶべきことがたくさんあることだろう。更にハンドボールは、セットオフェンスの攻撃戦術に関してはフットボールより先進的であると考えるので、ハンドボールの攻撃戦術が必ずやフットボールに応用することが可能であると考える。

更に、新井田 侑加等グループ(2013)の研究では、「きっかけ局面」というのがある:

きっかけ局面とは、相手の隙をついて、あるいはチームの攻撃構想にしたがって個人戦術やグループ戦術を行使して、シュートチャンスを得るべく最初の攻撃を開始する局面である。

きっかけの動きが開始されるのは、相手コートのフリースローライン手前からであると大西武三は言及している。これをフットボールの場合に置き換えると、ゾーン3、もしくは、ゾーン2の相手コート内で、きっかけの動きが開始されると解釈することができるだろう。

図55:きっかけの動きが開始されるきっかけゾーン(大西武三:セットディフェンスの考え方より提供)


駆け引き:

酒巻 清治(2012)は、相手のプレーを読み、きっかけの動きを開始するには、相手ディフェンスとの駆け引きが必要であることをこのように説明する:

考え方の原則に従って、1つのプレーから選択肢を増やしていけるかどうか

例えば1対1の状況で、オフェンス側のプレーヤーがアクションを起こすと、相手ディフェンスはそのアクションに反応する。今度は、ディフェンス側の反応に対してオフェンス側のプレーヤーがリアクションしていくのだ。大事なことは相手ディフェンスがどのようにして、こちらのアクションに反応するのかを読むかということであろう。相手ディフェンスの反応を予測することで、次のプレーが容易になると考える。


2.3.7 即興プレー

私は、この駆け引きから発生する様々なプレーオプションは即興プレーであると考える。酒巻 清治(2014)は、相手ディフェンスとの駆け引きについて具体的に説明している:

駆け引きとは「Aというきっかけの動きがダメだったら、次はB。それがダメならC」といった安易な考えではありません。「Aがダメだったけど、同じきっかけから派生したA'はどうだろう? 同じAからもっと他の切り口はないだろうか?」というように、1つの幹から発想の枝葉がどんどん伸びてくるのが真の駆け引きです。

酒巻 清治(2014)によると:

「より多くの攻撃フォーメーションを覚える」

といった戦い方では、現代のスピーディーな攻守の切り替えに対応することができないことを指摘している。

現代フットボールは、年々プレースピードが上がっているように感じられる。相手ディフェンスはすぐにディフェンスを組織し、様々な攻撃に対応することができるようになっている。決まりきった攻撃フォーメーションやパターン攻撃だけでは通用しなくなっている。それよりも酒巻 清治が説明したようにプレーの原理原則に従って、1つのプレーから選択肢を増やしていけるようなオフェンスが必要なのだと考える。それが私が考える、フットボールのダイヤモンド・オフェンスである。

従って、酒巻 清治が言及したように、駆け引きとは、オフェンス側のアクションに対して相手ディフェンスが反応し、それに対してのリアクションである。これがフットボールのダイヤモンド・オフェンスであり、現代、そして未来のフットボールに必要なアイディアであると考える。

テックス・ウインターが考案したトライアングル・オフェンス、酒巻 清治が考えるハンドボールの攻撃メソッドとフットボールのダイヤモンド・オフェンスの考え方が一致していることが理解できると思う。


引用・参考文献:

酒巻清治(監修).  ハンドボール:基本と戦術 (PERFECT LESSON BOOK). 実業之日本社. 2016. 181.

酒巻清治(監修). 基本が身につくハンドボール練習メニュー200. 池田書店. 2014. 7.

FCF. Táctica 1 Repaso Primer nivel de fútbol. 2014. 55. 

新井田侑加, 山下純平, 寺本圭輔, 村松愛梨奈, 鈴木英樹. ハンドボールの新たな攻撃戦術の考案と試行的実践による評価. 愛知教育大学保健体育講座研究紀要. 愛知教育大学大学院, 愛知教育大学保健体育講座, 日本体育大学大学院. 2013. 35.

大西武三. Hand ball Information(ブログ).セットディフェンスの考え方. http://handball.kikirara.jp/handball-science/onishi/ronbun/set-defense/set-def1.html
























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