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スペイン式フットボール分析学3:スペイン代表のファイナルゾーンの攻撃分析 イラン戦(後半)

今回は、前回の「スペイン代表のファイナルゾーンの攻撃分析」の続き。イラン戦、後半である。

イラン代表は後半が始まるとゾーン3(スペイン代表から見て)のシステムを6−3−1のゾーンディフェンスから4−5−1のゾーンディフェンスに変更してきた。つまり、ディフェンスラインまで落ちていたイラン代表の両WG(右WG:M.タレミ、左WG:K.アンサリファルド)をMFラインのディフェンスに参加させ、前半の終盤にスペイン代表がイラン代表のゾーン3の両サイドで数的優位を作り、両サイドを攻略してきたので、次の手を打ってきたのだ。イラン代表の両WGがMFラインに参加して、高い位置でスペイン代表の両SB(右SB:カルバハル、左SB:J.アルバ)にプレッシャーをかけやすくしたのだ。

図1:後半開始のイラン代表のゾーン3のシステム4−5−1

スペイン代表はすぐにこのイラン代表のシステム変更に対応する。内側に配置されていた両WG(右WG: L.バスケス、左WG:イスコ)をゾーン3の両サイド高い位置にワイドに開かせたのだ。

図2:イラン代表のシステム変更に素早く対応するスペイン代表(この図では右WG:L.バスケスと左SB:J.アルバが両サイドに開いている)

図2では、右WGのL.バスケスがゾーン3でワイドに開いて高い位置にポジションを取っている。なぜ、このようなポジションを取るかというと、イラン代表はゾーンディフェンスであるので、スペイン代表がグラウンドのセンターのゾーンでボールを持つとディフェンス全員で内側へのパスコースを消すために内側へと絞る原則があるからだ。ゾーンディフェンスは縦パスのコースを消すことを優先し、MFラインの背後に縦パスを通させないことを第一の目標としている。そのため、両サイドの「アウトサイドレーン」がオープンスペースとなり、両WGがワイドに開くことによって、両WGがDFやMFからフリーでボールを受けることが可能となる。

右SBのカルバハルは両CB(右CBピケ、左CB:S.ラモス)と同じ高さにポジションを取り、しかも内側へ絞った「5レーン理論」に置き換えると「インサイドレーン」にポジションを取っている。この右SBカルバハルのポジショニングにより、相手左WGのK.アンサリファルドはカルバハルを監視する役目があるので、グラウンド内側にポジションを取ることになる。これで「右アウトサイドレーン」にいる右WGのL.バスケスに大きなスペースができたことになる。

右CBピケが「右インサイドレーン」でボールを保持している。ピケからダイレクトにL.バスケスへのパスコースは相手MFラインのプレーヤーに消されている。右MFのD.シルバが相手MFラインとDFラインのライン間「右インサイドレーン」にポジションを取っている。

このスペイン代表の配置で興味深いのが左WGのイスコの配置とCFWのD.コスタの配置である。

図2を見ると右WGイスコは、相手CFWのS.アズムンとピケにプレッシャーをかけにきた左MFのV.アミリの間のライン間にポジションを取っている。このイスコのポジショニングにより、左MFのV.アミリは、D.シルバへの縦パスのコースを消そうか、イスコへのパスにも備えるかの迷いが生じることになる。

次にCFWのD.コスタのポジショニングであるが、彼は相手の右CBのM.プーラリガンジと右SBのR.レザイーアンの間のライン間「左インサイドレーン」にポジションを取っている。このポジショニングにより、相手の右CBと右SBの2人を自身に引きつけている。また、右サイドからセンターリングが上がってくる場合には、右CBのM.プーラリガンジか右SBのR.レザイーアンのどちらがマークに着くかで迷いが生じるように仕向けている。ゾーンディフェンスの弱点をつこうとしている。

イスコのポジショニングに気を取られていた左MFのV.アミリは、MFラインとDFラインの間のライン間にポジションを取っているD.シルバへの縦パスのコースを消すことができなく、ピケに縦パスを通されてしまう。

D.シルバはパスを受けると素早く反転し、前を向いてフリーの右WGのL.バスケスにパスをする。L.バスケスはD.コスタに向けてセンターリングを上げるが、ボールが高すぎて合わなかった。


「質的優位」を活かし個人での突破を積極的に実行する(得点シーン):

後半に入るとスペイン代表は左WGイスコと左MFのイニエスタが積極的なドリブル突破により、数的優位獲得を試みる。

図3:イニエスタによるドリブル突破でMFライン超える

この得点につながる後半8分のシーンであるが、これはスペイン代表のコーナーキックをイラン代表がヘディングで跳ね返したところから始まる攻撃である。

「右アウトサイドレーン」でボールを受けたイニエスタはプレッシャーにきたイラン左MFのV.アミリをドリブル突破すると、前方にスペースが広がる。イニエスタはすかさずMFとDFのライン間の「インサイドレーン」にポジションを取るD.シルバに縦パスをする。

図4:イニエスタのドリブル突破により相手ディフェンスラインで数的優位になる

D.シルバはワンタッチでイニエスタにボールを戻す。イニエスタはプレッシャーをかけにきたピボーテのS.エザドラヒをコントロールでかわすと、一瞬、ゾーン3でイラン代表のディフェンスライン4人対スペイン代表オフェンスの5人となり、スペイン代表は数的優位な状況をゾーン3で作り出したことになる。

図5:オフェンスラインのプレーヤー全員が、イラン代表ディフェンスラインのライン間にポジションを取る

図5を見るとイニエスタがイラン代表のMFラインをドリブル突破するとスペイン代表のオフェンスに参加しているプレーヤー5人は全員相手ディフェンスラインの間のライン間にポジションを取っている。特に右CBのM.プーラリガンジと右SBのR.レザイーアンは、判断に迷いが生じたと考える。なぜなら、右CBのM.プーラリガンジは、CFWのD.コスタとオフェンスに参加しているピケの両方を監視する必要があるからだ。右SBのR.レザイーアンもCFWのD.コスタと左WGのイスコの両方を監視しなければならない。

図6:D.コスタにボールが入り慌てて、プレッシャーをかける右SBのR.レザイーアン

CFWのD.コスタにパスが出るまで、首を振って左WGのイスコを監視していたR.レザイーアンは、D.コスタにパスが渡ると慌てたようにプレッシャーをかけに行ってD.コスタがR.レザイーアンをドリブルでかわそうとしたボールがR.レザイーアンの足にあたり、それが跳ね返っってD.コスタの足にあたりゴールになった。

このゴールはイラン代表にとって不運であり、スペイン代表にとってはラッキーゴールに見える。しかし、そのラッキーゴールを生むような攻撃をスペイン代表は実行していたのだ。後半開始からイニエスタとイスコが積極的なドリブル突破により数的優位を作る。オフェンスに入ったプレーヤー全員がイラン代表のDFラインの間のライン間にポジションを取り、イラン代表ディフェンス陣を惑わせるようにしたことで生まれた必然的なゴールであると考える。


失点後のイラン代表:

失点後のイラン代表のゲームプランは、相手コートでボールを失った場合は、「カウンタープレッシング」。相手コートで何回もスペイン代表からボールを取り戻していた。失点前まではボールを失ったら、全員がハーフラインまで「後退」してからのディフェンスであった。

次にスペイン代表のゾーン2からの「前進」に対しては4−5−1のゾーンディフェンスで「前進への守備(D. Progresar)」を実行し、ゾーン3(スペイン代表から見て)に入れさせないディフェンスに切り替え、ハーフライン手前からプレッシャーをかけるようになった。

70分を過ぎると、イラン代表はゾーン1(スペイン代表から見て)から、4−2−3−1のゾーンディフェンスでグラウンド内側へのパスコースを塞ぐ形の「ボール出しへ守備(D. Salida de balón)」を開始する。

ゴールキックやGKがボールを保持した場合は、4−3−3のゾーンディフェンスでの「ボール出しへ守備(D. Salida de balón)」であった。これは超攻撃的ディフェンスであり、スペイン代表の「ボール出し」は世界最高レベルであるので、イラン代表が激しくプレッシャーをかけても、数的優位を簡単に作られ突破を許しゾーン2にボールを運ばれていた。ただ、負けているチームには「ボール出しへの守備(D. Salida de balón)」は必須であろうと考える。また、イラン代表は現在の試合の状況、相手のプレースタイルに合わせて様々な集団プレーオプションを用意している素晴らしいチームであることが理解できた。監督のカルロス・ケイロスの仕事がすばらしいのだろう。

攻撃のセットプレーにおいても、コーナー、フリーキック、ロングスローと多様なオプションを用意している。スペイン代表もVARに救われてゴールにならなかったフリーキックもあった。イラン代表が次に対戦するポルトガル代表との試合が楽しみである。

このようにスペイン代表もイラン代表も時間をかけてしっかりとプレーモデルやゲームプランを確立しており、試合の状況、対戦相手によって色々な集団プレーを実行できる。これが再現性のあるプレーへと繋がっているのだろう。

日本代表のW杯でのプレーはどうであろうか。分析して見る必要がある。


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