だから、雨が降ってもいいから、すべての人、長生きをしてください。

最果タヒ『恋人たちはせーので光る』(リトルモア)

今年前半戦は死ぬほど具合が悪く、さすが細木数子の言う通りだな、と思いながらのたうちまわっていたのですが、後半に入ってくると徐々に健やかな気持ちになってきて、ワンワン!と大きな声で吠えられるようになってきました。ワンワン!

迫り来る締め切りとがっぷり四つに組んで見事寄り切り、後ろに倒すことに成功するも、その結果すべての締め切りが一気に集中してしまうという地獄が現出するなんて誰も教えてくれなかった。俺が小学校で休んだ日に男子だけ体育館に集められてやったのかもしれない。

セールの日のおばさんくらいに迫り来る締め切りたちを切っては投げ切っては投げ、幾度かは間違えておばさんを切っては投げ、再生するおばさん、ウォーキング・デッドと化したおばさんたち。瞬く間に感染するゾンビウィルス。逃げ惑う人間。やがて生まれる内部抗争。人間が一番怖いんや。そうや、人間怖い。締め切りも怖い。いっとう最後にお茶が怖い。ぼくにまんじゅうをください。

そうこうしている間に娘は寿限無が唱えられるほど大きくなり、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路のぶら小路パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、と流暢にしゃべている間に、あんまり名前が長いもんで、さらにむくむくと大きくなっちまう始末でございまして。

あんまり仕事ばかりしていると娘と遊ぶこともままならず、忸怩たる思いだったのですが、ようやく人心地つきまして、新規の依頼も数件断わりまして、なんとか人のような生活を取り戻しつつある。早く人間になりたい、ということで、朝娘とともに起き、家事をし、ジムに行き、お昼を食べ、少し昼寝をして、週に3日は仕事をしたりし、残った時間は娘と遊ぶ、とまぁ、こんな感じの生活を目指していきたいなぁ、と思う所存であります。

ジムに行こう行こうと思っている最中、台風が来たりなどしまして。去年の豪雨災害を経験しているものですから、ちょっと雨が降るだけでも少し構えてしまうのに、まして強烈な大型台風などと言われると、もうこれは完全にやばいのではないか、と思うのですが、実家の両親などはのんびりしたもので、こないだもレベル3とかだったけどなんもなかったから大丈夫よ〜などと言っており、そういう!態度!狼少年を信じろ!今すぐ避難するんだ!などと憤慨したりしなかったり、こちらもこちらで備蓄用の水を買ってみたり、避難袋の中身を確認してみたり、停電にそなえてランプを手の届く位置に出しておいたり、とてんてこ舞いでした。

こちらはなんともなかったのですが、千葉の方は大変で。どうか一刻も早い復旧を祈るばかりです。

実家のほうもようやく一年、見える範囲ではある程度復興しているようですが、まだまだ災害の爪痕は至るところに残っていて。被災前の状況と全く一緒、とはどうやらなかなかならないもののようです。

無くなったもの、失ったもの、壊れたもの、変わってしまったもの。

日常でさえ、こうしたものばかりが増えていくなかで、どうか生きていることだけは生きていたことだけは。無くならず失われず壊れず変わらずずっと残っていくといい。あなたが生きていることだけはあなたが生きていたことだけは。ずっとずっと残っていくといい。雨が降るとそんなことを思う。

仕事をしても具合が悪くても健康で幸せな生活をしていても。

ずっと祈っている。