酒の穴対談 その1「雑談」

この対談は、2015年12月8日に創刊された雑誌「酒場人」内、「酒の穴通信」のために収録された、スズキナオ×パリッコ対談のアウトテイクです。

自暴自棄めし

ナオ:なんか最近、やっぱ大阪遠いなーと思いますよ。(※1)
パリ:ナオさん、最近も割と頻繁に東京に来てるので、一緒に飲む回数はそんなに減ってないっすが、ふらっと「今日どっかで飲みません?」みたいなのがどうしてもね。
ナオ:そうなんすよ。どうでもいい店に行く余裕がないというか、失敗できないんすよね。
パリ:仕事みたい(笑)。
ナオ:次東京行ったらてきとうな店に入ってみよう。
パリ:確かに最近ありがたいことに、仕事でたくさん間違いない居酒屋なんかに行かせてもらうようにもなってきて、自腹でどうでもいい店にふらっと入って、微妙な空気にニヤニヤするみたいなことが少なくなり、飢えてます。
ナオ:ラーメンもそうなんすよ。調べに調べちゃって、まぁうまいんだけど。たまに「えーい! どうでもいいや!」と思わされるのが、行きたい店が閉まってた時くらいで。
パリ:むしろ閉まっててほしいっていう(笑)。そういえば昼飯に食いたいもんが決まらないで1時間以上さまようことがなぜか年に数回あるんですが、けっきょく「もうどうでもいいや!」って会社の近くの博多天神とか食って、なんだったんだっていう。自暴自棄めしとでもいうか。
ナオ:あるっす。俺ラーメン好きなんだけど、とにかくラーメンが食べたいだけで、そこから先の「何ラーメン」が決めらんなくて「渋谷 ラーメン」で画像検索して、ぼーっと見て「これかな」みたいに決めたりします。もうそれラーメン食いたいんじゃないんじゃないの? と思ったり。
パリ:「ラーメン好き」という概念に支配されてる感じっすね。


※1:ナオさんは2014年に東京から大阪へ引っ越した。

星のかけら

ナオ:それにしても、「酒場人」で、こんな風に色んな人の酒の話を聞いて、またそこで教わった店に行ったりもしてたら、あっという間に寿命きそうですね。
パリ:ですね。ちょっとニュアンス違うかもですが、人間って時間を忘れて何かにわーっと集中している間は老けないって話をどっかで聞いたんですよ。ホルモンの関係だかなんだか。だから何かに熱中してる人は若々しいんだって。だけど、時間を忘れて集中しまくってたら、死ぬ時「あれ? もう終わり?」みたいになりそうで、それもやだなと。
ナオ:ははは。死ぬ間際に気付いて。
パリ:好きなこととか創作活動に熱中するのは素晴らしいと思うんですが、長く楽しみたいなら絶対だらだら飲む時間とかも確保しないとなって。
ナオ :本当っすね。逆サイドの時間が必要だ。
パリ:そういう人に「そんなに熱中してると人生すぐ終わっちゃうよ」って声かけてあげないとですね。
ナオ:まったくです。
パリ:ところで最近、仕事で居酒屋に行かせてもらったり、紹介する文章を書かせてもらったりする機会をもらえて、ありがたいと思う反面、酒場に対する純粋な気持ちが薄れていっちゃうんじゃないか、みたいな怖さってないすか? 知らない街で店に入るんでも、つい「こっちの方がインパクトありそう」みたいな基準になっちゃったり。
ナオ:そうなんですよね。刺激的なものの方が読んでもらえますもんね。
パリ:他の誰かがものすごい「民家でしょこれ」みたいな店を紹介してると、「やられた〜!」みたいな。全然やられてないんすけど(笑)。
ナオ:そう! 特にネットの記事だと、最初に見つけたかどうかとかであきらかに差がでますもんね。
パリ:先に見つけた問題!
ナオ:常連さんにしたらずっとあった店なわけで。
パリ:50年前からあったのに「うわ、あいつが先に見つけちゃった」って。
ナオ:しかもそれがお店にとっていいことなのかもわからないし。考えるほど難しい問題です。
パリ:だけどどっかで意識しちゃうじゃないですか。で、なるべく意識したくないばかりに「あえて抜けよう」みたいになって、水面の波紋見ながら飲んで喜んでるんじゃないかな? 最近の自分ら。とか思っちゃったりもして(笑)。
ナオ:そういう面もあるのかもしれないですね。
パリ:純粋に心の底から楽しいし、それが最高ってのは絶対真実なんですけどね。そこに余計なノイズのような感じで「先に見つけた問題」とかが絡んでくるのが……まぁ仕方ないんですが。
ナオ:うん、純粋なのは絶対間違いないです。
パリ:それこそ波紋って、どの居酒屋よりも古いじゃないですか。
ナオ:古いっすね。古いっつうか、いつなんだろ? 波紋ありきの俺たちだから。
パリ:波紋から生まれてきた可能性ありますよね。
ナオ:またスピリチュアル方向に(笑)。あと石ね。落ちてる石、星のかけらでしょ? やばくねー。
パリ:ロマンがすごい! そう考えると、今目の前にある延長コードとかも、広義では星のかけらですよね。
ナオ:そうかー。そうだったんだな。さっきまで食ってたせんべいも確かに星のかけらっぽいっす。
パリ:質感がね。もう星のかけらが星のかけらを食べてるという、酒どころじゃない話になってきた。
ナオ:天体ショーですね。
パリ:(笑)。
ナオ:でも本当、ひとつの「酒体験」として見たら、名酒場でじっくり名酒を味わうのも、河原でぼーっと飲むのも、たとえそれが缶チューハイでも、どっちも感動しますもんね。
パリ:うん、だから何につけ、自分の手柄みたいにするのが一番滑稽だなと。「今、波紋が熱いぜ〜」は「今、ハワイのパンケーキがホット!」の46億倍は滑稽ですよね。
ナオ:そうっすね。「波紋言いだしたの、あれ俺だから」とか言ってもね。そして同じように酒場も、誰かのものなんかじゃないんすよね。
パリ:酒場の話に着地した! けど本当「どうだ、こんな酒場見つけてきた俺は!」ではなく「居酒屋って最高! 尊敬!」みたいな気持ちを失ったりしないようにしないとって思います。



最高だった酒のシチュエーション

ナオ:今日行った店やばかったですよ。店のお母さんが肩にインコ乗せてて、常連さんもインコ連れてきてて。なんか同じカゴに入れてお見合いさせてるみたいな場面があり、みんなカウンターでそれをじーっと見てんの。
パリ:異文化感すごい。
ナオ:「チュッチュしとるなあー」とか言って。
パリ:で、飲んでるんすよね。
ナオ:飲んでますよ。
パリ:幸せなんだろうな。
ナオ:めちゃくちゃ酒濃い。
パリ:わはは。
ナオ:そこにいたらやっぱ自分もインコ見ますもんね。
パリ:それこそ、ネット記事なんかの「こんなすごい居酒屋があった!」みたいなの超えてますよね。意味不明っつうか。
ナオ:そうっすね。「インコいるよ! 行ってみて!」とか言っても、無意味ですもんね。
パリ:無意味。インコ珍しくないし。けどそういう楽しさをポツリ、ポツリと、「酒の穴」で発信していければいいすね。
ナオ:そうっすね。名酒場も、ただの河原も、チェーン店も、楽しみ方によってはいくらでも楽しめますからね。
パリ:最近面白かったのが、(酒場人で)いろんな人にお気に入りの酒場を聞いてみたら、チェーン店と答えた方も多かったんすよね。清野先生もそうだし、戦車先生も、真っ先に「ぎょうざの満州」の名前があがって。つまるところ自分がどう楽しむかなんだなって。先行ってますよね、やっぱりすごい人たちは。
ナオ:ねー! 清野さんは誰とも会話したくないっつってましたね(笑)。
パリ:自分が求めるものがはっきり見えてる。そこで気取って、何度か行ったことあるだけの名酒場答えてもしかたないっすもんね。かといって、もし自分がインタビュー受けても、チェーン店、しかも、タッチペンの店が最高です、とはなかなか言えない。
ナオ:確かに。人間のレベルが違うと痛感します。ちなみに今パリッコさんが「好きな酒場は?」と聞かれたら。
パリ:うおー! やばい、普通に好きな店も答えづらくなって、八方塞がりです。
ナオ:言った手前ね(笑)。
パリ:ここで「やっぱコンビニが一番」とか言ったら、むしろかっこつけてるようになっちゃいますし。どういうかっこつけだ、という話ですけど。
ナオ:今聞いてみて思ったけど、「好きな酒場」ももちろんだけど、「今までで一番美味しかった酒」みたいなシチュエーションの方も面白そうですよねー。
パリ:うん。いろんな人に聞いてみたい。
ナオ:「遭難して救助犬が首につけてたウイスキーを飲んだ時」みたいな。
パリ:誰のエピソードっすか(笑)。しかも、またなんかかっこいいし!
ナオ:いや、なんかそういう話に出てくるあのウイスキーが、うまそうだなと常々思ってて。
パリ:ラズウェル先生もどこかで、海で遊んだ後、氷でキンキンに冷やしたビールを飲んだら、人生で最高にうまかったと書いてましたね。それはビール限定だけど。
ナオ:好きな店も、シチュエーションも、どっちも知りたい。図々しいけど。
パリ:ナオさんの場合、どうですか? ちなみに。
ナオ:困るわー。高尾山に登った時に、ずーっと奥の、別の山まで行って、そこで飲んだ缶ビールはかなり上位だった気がします。疲れればうまいか……。
パリ:そういう、こっちの状態次第な部分ってかなりでかいですよね。いくら細かく細かく、メーカーさんが旨味を積み上げていっても。
ナオ:そうなんすよねー! そこも研究したい。


やっぱり酒は面白い!

ナオ:でも今思いましたけど、パリッコさん相当な「うまがり」ですよね。
パリ:うまがり、初めて聞きましたが(笑)。
ナオ:ぬるい水とかでも「うめえー」とか言いそう。
パリ:言わねー。
ナオ:「体温に近いっす」とか、褒めるとこ見つけて。なんでも褒められそう。やってみてほしー。めっちゃどうでもいいものを食べて。
パリ:トライはしてみたいですね。
ナオ:「まっずー」っていう時ありますか?
パリ:「まっずー」は相当ないすね。
ナオ:ね。
パリ:例えば、ネットとかでよく酷評されてる、マックのハンバーガーとか、ごちそうですもん。もーうまくてうまくて!
ナオ:うまいです! 舐めるように食いたいですもんね。噛むとすぐ減るから。
パリ:ははは! 減り方も、歯型がつく感じじゃなくて、円のまま減っていって。
ナオ:妖怪みたいな(笑)。
パリ:ハンバーガー舐め(笑)。思うんですけど、現代社会において、体に良くないとされているもの、添加物が多いとか、そういうものを「まずい!」って断言する人は、よほど味覚が発達しているか、情報とか先入観に左右されているかですよね。だけど、どんな人でも、毎食そういうのを食べ続けさせられると、その蓄積に耐えられなくなるんじゃないかなって。カップ麺とか。だから白米、味噌汁、納豆とかは、一生まずくならないのかなって。
ナオ:なるほど、ある! だからやっぱハレとケみたいな、日常食と、たまにだから美味しいものっていうのがあるっすよね。
パリ:そうそう。外食自体毎日だと疲れますしね。
ナオ:うん。めっちゃ美味しい酒場も毎日じゃ疲れると思う。だから、日常的に行ける店や場所が一番いいんだろうなと思います。すっごいボロボロの時あるじゃないですか? 精神とか体力的に。そういう時でも行ける店って、なんかありがたいですよね。
パリ:うん、やっぱ、そういう時モーパラとか行けないすもんね。
ナオ:ははは、モーパラ行きてー!
パリ:今はね(笑)。地元の定食屋とか、派手じゃない中華屋とか。「毎日来てくれるお客さんもいるんですよ」って、そういう店こそ偉大だなぁと。
ナオ:こんな俺にも優しいのかお前、みたいな。千円しかもってない俺にも……。
パリ:だいぶ前ですけど、ナオさんが渋谷で働いてた時の「細雪」とかね。いつもラッキョと酎ハイとかで飲んでて、たまにちょっと高い部類のもの頼むと、店の人が「あら、今日は頼むのね」って言ってくるっていう。
ナオ:そんな客もちゃんと許容してくれる店ですよね。ケチな客キャラみたいのつけられて(笑)。あそこで飲んでて、おじいちゃんがお金くれたこともあったなー。
パリ:その話も最高でした。(※2)
ナオ:余談だけど、今おじいちゃんって言いながらも少し違和感があって、なんつったらいいんでしょうね、酒場にいるジジイ。ジジイって言うとなんか上からでしょ?
パリ:なんか敵意あるみたいだけど。
ナオ:だけど、おじいちゃんではない。ジジイとしか言いようがない。ババアもそうか。あと、おじさんもなんだよなー。「店のおじさんが」とか言う時、お前もじゃんっていう。
パリ:わかります。記事なんかで書こうとする時に困りますよね。けど良く考えると、おじさんはおじさんのことおじさんって言っちゃいけないのかって考えると、別にいいだろって話で。
ナオ:確かに、いいのか別に(笑)。めっちゃジジイが「あのジジイめ」つっててもいいっすもんね。
パリ:前に居酒屋で、ジジイが店員さんのこと「おばさ〜ん!」って読んでて、明らかにジジイの方が年上なんすよね。もう「すいませ〜ん」でいいだろって思いました。
ナオ:(笑)。
パリ:ずっと若い頃から、例えば30代の頃、20歳上の50代以上くらいに見える人はそう呼んできたんだろうなって。だけどそのジジイはもうどうみても6、70代で。
ナオ:確かになー。自分自身もまだ気づいてないですもんね。24ぐらいの気持ちですもん。
パリ:うん、とても自分が大人だとは思えない。まぁそのエピソードに関しては単純に、人のことを「おばさん」って呼ぶ神経もわからないですけどね。
ナオ:ははは。 「おじさん!」って言われて、振り向きませんよ。
パリ:(笑)。前まではツイッターとかでネタっぽく自分のことを「◯◯おじさんです」みたいに言うことあったんですけど、それって年齢を重ねてきたから自虐的に言ってるだけで、本心じゃないなと思って、言わないことにしました。むしろ「自分をおじさんって言い始めたらおじさん」っていう定義にしてます。これで一生おじさんにならなくてすむ!
ナオ:すむのかな(笑)。逆に、どう考えてもババアなのに「お姉さん」って呼ぶ文化あるじゃないですか。あれも笑えますよね。
パリ:あれはほのぼのとして好ましいですね。お姉さんって呼ばないと振り向かないババア。
ナオ:「よく振り向いたなババア!」っていう。
パリ:「ババァまだ死んでなかったのか!」
ナオ:ははは、やっぱ酒飲みは面白いっす。
パリ:面白いっすね。

(※2)以前、ナオさんが細雪で飲んでいると、そのしみったれた飲みっぷりを見かねてか「これ使え」と急に1万円をくれた老人がいたという。「とんでもない」と断ろうとすると、老人は「いいから、もう俺に話しかけるな」と渋く対応。しかしけっきょく意気投合し、そのまま一緒に朝までカラオケに行ったらしい。

TEXT:パリッコ

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