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沖縄の夜と、ヤギ汁。

肌寒い東京を飛びたって、私たちは沖縄の国際通りを上機嫌で歩いている。11月にもなったというのに気温は24度。半袖で夜風に当たるのは気持ちがいい。

今回、二人で旅行をするのは6回目になる。私たち-タカコとレーナ-は多摩美術大学で出会い、何がきっかけだったか美術の話よりも先に酒の話で意気投合した。初めて一緒にごはんを食べに行ったのはビアガーデンだった。それから私たちは、年に1度美味しいお酒を飲むために旅に出るようになった。台湾、ドイツ、鹿児島、ベトナム、東北に続き選んだ目的地は、沖縄。大いに泡盛を飲んでやろうという目論見だ。Google MAPには気になる飲み屋の印がびっしり付いている。胃袋があと3つあれば、すべてのお店を制覇できるのに…。

さて、既にスタンドバーとピザ屋をはしごしてお腹は満たされているが、まだ時計の針は19時を回ったばかり。沖縄の夜は長い。「安里(あさと)というエリアが面白い」と噂を聞き、私たちはネオンに誘われるまま歩いて向かった。

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小さな飲み屋とスナックが連なる安里の通りは、ディープな店が密集している新宿三丁目の路地を淋しくしたような雰囲気だ。串焼き屋の年季の入った暖簾をくぐる。カウンターには串に刺さった野菜や肉巻きがずらり。圧巻だ。
思わず食材の山に見入っていると、おもむろに大きなお皿を渡された。どうやら、好きな串を自分で盛って渡すと焼いてくれるらしい。とりあえず、ナス、みょうがの肉巻き、長芋の肉巻きの3本をお願いした。私たちがあまりに待ち遠しい顔をしていたのか、隣の席のご夫婦がボトルの泡盛をおすそ分けしてくれた。焼きあがった熱々の串をつまみながら、この後どこへ行こうか考える。

小1時間後にはスナックのカウンターに座っていた。瓶のオリオンビールを注いでくれたのは、のぞみちゃん。私たちは、沖縄出身の彼女に食文化について尋ねてみた。本当にシメはステーキなのかとか、泡盛はどこの銘柄をよく飲むのかとか、実に食いしん坊まる出しの質問にも彼女は笑顔で答えてくれた。そして、ヤギ汁についても。

沖縄の郷土料理であるヤギ汁は下調べの段階から気になっていた。私たちはラム肉のようにクセのある肉が好きなのだ。
彼女に聞くと、ヤギ汁はくさみがあるため沖縄の人でも好き嫌いがはっきりと分かれるらしい。味付けはあっさり塩味からしっかりしたものまで、作り手の色が出るそうだ。
折角なので、彼女が好きだというヤギ汁を出すお店を案内してもらうことにした。

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店の引戸をガラガラと開けると、こぢんまりとしたカウンターにおばあが座りテレビを眺めている。先客の常連さんに珍しがられながら私たちもいそいそと隣に座り、お目当てのヤギ汁と泡盛を頼んだ。テレビからは前日に起きた首里城火災のニュースが流れ、おばあは鍋を温めながら「次に完成した姿、私は見れないだろうねぇ」としんみりと呟いた。漬け物をつまみながらテレビを眺めていると、温まったヤギ汁がカウンターに出された。器を両手で包みこみ、おそるおそる一口飲んでみる。ほわんと獣の香りが鼻に抜けた。ほどよい塩加減の優しい味がして、私たちは顔を見合わせた。「好き!」

具のヤギ肉は歯ごたえがあり、ゆっくり噛みしめるほど旨味を感じる。ヤギのくさみを取るためにヨモギの葉が入っていて、口に入れると爽やかな苦みが広がった。島とうがらしを泡盛に漬け込んだ辛い調味料「コーレーグース」を少しずつたらし、自分好みの味にしてゆく。泡盛も独特な香りのクセがある酒だが、おどろくことにヤギ汁との相性が抜群!ついに汁もので酒を飲む境地に入ってしまった…。

つけっぱなしのテレビでは歌番組が始まっていた。いつの間にか23時を過ぎている。有名歌手が次に歌うのは、フジファブリック「若者のすべて」のカバーだ。学生時代に何度も聴いたこの曲はいつの間にか、懐かしい曲になっていた。大学生の頃出会った私たちは30歳目前になり、甘酸っぱい恋バナではなく、仕事や結婚の話で酒を飲むようになった。そんな沖縄の夜更けのことはきっと何年経っても思い出すだろう。そして、ヤギ汁と泡盛を恋しく思うのだ。

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*お酒を飲むたびに。(おさけをのむたびに。)*
写真家・飯本貴子と、OLラッパー・ノセレーナによる飲酒系ユニット。2018年結成。2019年12月30日の冬コミに出展決定。来年3月、都内にて展示予定。

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