イメージしたデザインの服を出力する3Dプリンタができたら

ファストファッションは、人件費の安い国の、劣悪な環境下での搾取的労働に支えられて成立していることを告発するドキュメンタリーを数年前に見たことがある。
この問題を解決するには、人間が物を製造する労働自体から去るしかないのではないかという、行き着くところまで行ってしまった感がある。

工場を完全無人化し、人工知能によって制御するほうが、人間が働くよりも健全な世界にいつの間にかなっていたので、人間がものづくりをすることは、労働によって対価を得ることから解放され、本来の創造的活動に還ったと言えるのかもしれない。

デザイナーがパターンに変換したコンセプトを、物質領域に再現する過程にいた人間が、人工知能に置き換わると、デザイナーからカリスマ性やブランド力が取り除かれるだろう。やがて、デザイナーも人工知能に置き換えられ、市場動向を解析した人工知能がデザインし製造した商品が市場を占める。
顧客の反応や販売実績などのフィードバックを人工知能が解析し、市場の開拓も人工知能によって計画される。
人間は、人工知能の出した指示を実行するだけという状況になる。

人間の物質領域での生命活動を表す衣食住の端緒であるファッションの領域で、人間の創造性が失われるのは、致命的なことだと思う。人間は別の場所を作るしかない。

数式を物質化する技術が発展すると、それぞれの人が、その日着たいと思った服をイメージするだけで、数式に変換され、3Dプリンタみたいなもので出力するような家電ができるかもしれない。
そうなってようやく、デザイナーが復権するのではないだろうか。
本日のパターン数式を売買する取引市場が作られ、人気ランキングで、優れたデザイナーを抽出できるようになったり。

森茉莉のエッセイで、夏は安い麻のシャツを「着流し」するのが粋であると読んだことがあるが、どのタイトルの何ページか思い出せない。
「着流し」と検索すると、和服の着こなし方が出てくる。
森茉莉のそのくだりは、使い捨ての意味で「着流し」と使っていたと記憶しているが、間違っているかもしれない。

夏の汗を吸収した繊維は洗濯して着回すよりも、毎日新品に取り替えるほうが清潔だし、洗濯回数を減少させるので環境にもやさしい。

イメージしたデザインを3Dプリンタで出力する服は、上等な生地ではなく麻などのほうが、気軽に色々なデザインを毎日楽しめる。

先端技術は、人間の創造性を発揮させるために使われるかどうかで、世界を異なる様相に変化させる。

参照:
ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~
数学者たちがつくる、シンプルな数式から生まれる美しき3Dオブジェクト


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