恋愛工学は、キモいけどある意味正しい。

巷で話題の「恋愛工学」を小説化した『ぼくは愛を証明しようと思う。』。
「ラストまで読んだら、イメージが変わるよ」と言われたけれど、
けっきょく読めば読むほど、
「恋愛工学とか言ってる男、きんもーっ☆」
という印象が拭えなかったので、いっそのこと宣伝に一役買おう。
これを読んだ女性は、恋愛工学徒のテクニックに冷静に対応できるようになるだろう。そして、この本を読んで内容を実践する男性が増えれば、多少まともに女性と会話ができる人が増える、とは思う。

この小説は、さえない男わたなべが、永沢さんというファンドマネージャーの男から、たくさんの女性と効率よくセックスをするためのメソッド「恋愛工学」を学んで成長していく、ちんちんサクセスストーリーである。ちなみに永沢さんはモデルをセフレにしているモテ男という設定だが、なぜかポケモンに詳しく、丸メガネをかけて帰り際に「チャオ」とか言う微妙なところがある。

この本で書かれているのは科学というより、コミュニケーション術の「コツ」とか「ヒント」みたいなものだ。
主人公のわたなべは、普通の人のように見えるが典型的な「コミュ障」である。それは、仕事のクライアントである永沢さんに、こんなメールを送るところからもうかがえる。

「永沢さんが、僕と飲む約束をしたことを覚えていますか?
 じつは、昨年にバイオ企業の特許権侵害訴訟の仕事を終えたときも、
 飲みに行く約束をしていただいたのですが、それも実行されていません。
 今度こそ、本当に飲みに行きたいです」

被害者意識と押し付けがましさが立ち上る絶妙な文面……。うまいなあ。たしかにこれじゃあ、女性とのコミュニケーションもうまくいかないだろう。こういうメールを書かなくなるには、定型文を覚えるだけでなく、マインドセットも変える必要がある。
というわけで、恋愛工学では、非モテマインドを克服し、女性とたくさんセックスするためのマインドセットを身に付けていくのだが、それがいちいち、女性にとっては「もげー」というものが多い。その意識が表れている部分を紹介していこう。

__________________________________

「たすき掛けのカバンで胸を色っぽく引き立てている」

斜めがけカバンが「パイスラッシュ」とか言われて一部で人気らしいのは知ってるが、「色っぽく引き立てよう」としてる女子なんてほとんどいないと思う……この目線がきもいね!

「同時に複数の女に次々とアプローチしていくスタティスティカル・アービトラージ戦略は、おそらくは確率的な優位さ以上のものがあるのだろう。こうして次の女がいると思えば、目の前の女に嫌われることを恐れ、萎縮してしまうことを多少なりとも避けることができる」

こうして、わたなべは複数の女を「バックアップ」と呼び、次々デートして、セックスしようとがんばる。いや、男のバックアップを多数持ってる女もいるということはわかりますが……それぞれの女に人格を認めてない感じすげえ。

「こうして女に自由に動けるスペースを与えず、考える時間もないままにセックスに持ち込むのだ。そして、考える時間を与えない代わりに、ベッドの上で感じる時間はたっぷり与えてあげる」

うわあああ!! おまわりさーん!こちらです!!

「俺たちは、ちょっと焦らしたあとに、そんな女に連絡してやる。また会うことを提案する。こうして女に大いなる喜びを与える。最初に、ちょっと女をからかったり、ときにいたぶったりするのは、こうやって、最後には女を喜ばして、ずっと幸せな気分でいてもらうためだ」

もげえええええ!!

『僕が、玲子さんのことをもっと知りたいと思うのは、間違ってる?』

取引先の女が美人だったからって、いきなり連絡先渡してこんなことを言うのは、職業倫理として間違ってる。

「いまの僕には、友美、由依と定期的にセックスする女が2人いて、ここに玲子を加えようとしている。彼女たちは、僕の選ばれしレギュラーメンバーだ。いま、僕のレギュラーメンバーになるのは、そう簡単なことじゃない。そのことを彼女たちは誇っていい」

ぎにゃーーーー!! 「誇っていい」!!

「僕たちプレイヤーは、熟練した金庫破りが精密な道具を使い分け、どんな金庫の扉も開けてしまうように、恋愛工学の様々な道具を使って、女の股を開いてしまうのだった」

股を!開いて!しまう! このお下品な表現は、もう1ヶ所出てくる。恋愛工学的に、定形のフレーズなのだろう。

__________________________________

永沢さんは、第1章で恋愛工学について、
「俺たちが会社が終わったあとにこんなことをしてるなんて、人に知られて何もいいことはない。わかるな?」
とわたなべに言う。それは非常に正しい。
なんというか、ここに書いてあることは、「そんなこと隠れてやってくれよ」の一言に尽きる。それを言っちゃあおしまいよ、の世界なのだ。(だから、恋愛工学が有料メルマガで連載していたのは賢い選択だった)
筒井康隆の『七瀬ふたたび』で、美人の超能力者(心が読める)の七瀬は、会う男会う男みんなが、脳内で自分を裸にすることに慣れすぎて、嫌悪感すら抱かなくなるという描写がある。男の考えてることが丸見えなら、そうなるのだろう。でも、超能力者じゃない私はやっぱりそこは隠してほしい、と思う。
まあ、それを暴露したところにこの恋愛工学のおもしろさがある、とも言えるし、だからこそ「股を開く」とかの露悪的な表現をわざと使ってるのだろうけれど。

なんで恋愛工学が気持ち悪いかって、そもそも男がやたらとセックスしたがってること自体が、女にとっては理解できなくて気持ち悪いからだ。生理的に共感できず、自分の身がおびやかされる危険を感じる。つまり、どうしようもない感情なんだと思う。
女にとってセックスは仲良くなったことの証左として存在していて、相手の中身はともかく「とりあえずやりたい」なんてことはない。
だからこんなに堂々と、まるで素晴らしいことかのように「中の上以上の顔の女と、たくさんセックスする!」ということを目標に掲げられると、個々の女性の人格を蔑ろにしているように見えて、「うわあ……」と思う。

とはいえ、生存戦略的にいうと、女も同じようなことをやっているんだなあ。女の場合の目的は、セックスではなく「金(経済力)」だ。経済力のある男と安定的な関係を築くことが、現代では最も子孫を残しやすいからである。恋愛工学徒が女性の顔と性器にしか興味がないように、金目当ての女も男の人格なんかどうでもいい、と思っているだろう。
それもやっぱり「それを言っちゃおしまいよ」案件だ。合コンで初めから「年収いくらなの?」と聞く女はネットで叩かれる。それが目的だったとしてもちょっとは隠せよ、と男も思う。
恋愛工学の女版は、「金持ちをゲットし、永久にATMにする効率的な方法」を教えるものになるのだろう。やっぱりそれは、男からすると気分がわるいよね。恋愛工学に感じる女側の嫌悪感は、それと同じだ。

恋愛工学を信奉する男の反論として、「女はこれまでさんざんモテテクとか身につけてきただろう。それを男もやって何が悪い」というものがある。でも、女のモテテクには、「男に100万以上貢がせる方法」と書いてあるわけじゃない。一応、「相手に好きになってもらうこと」をゴールにしてる。金をゴールにするのは、相手を金ATMとしか見てないことを認めることになり、それはやっぱりよくないよね、と思っているからだ。
恋愛工学も「好きな女の子と仲良くなること」をゴールにしてくれるなら、何の異論もない。気持ち悪くもない。そして、けっきょく身に付けるテクニックはさほど変わらないだろう。でも、「仲良くなったおまけとしてのセックス」じゃあ、セックスを目標にして行動するよりも打率が低いから、恋愛工学では最初からセックスを目標にしているんだよなあ……。

と、何を考えても恋愛工学側からの反論が予想できるようになったので、このへんでやめておく。

とりあえず、スタバで「トイレに行きたいんで、PC見ていてもらえませんか」というオープナーを使われて、「それ、恋愛工学のメソッド使っちゃってんですか(失笑)」とやり返したい。
あ、でもそれじゃあ「恋愛工学知ってるんですか!」って会話が始まってしまって、思うつぼだ。やっぱ行動して、数打った分だけ成功確率が上がるんだな。恋愛工学、正しいじゃん。

ぼくは愛を証明しようと思う。
藤沢数希:著
幻冬舎


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

129

sakiya

note編集部のおすすめノート

note編集部がおすすめするノートを集めました! 不定期に更新いたします!
6つのマガジンに含まれています

コメント5件

>たけしままりなさん
知らなくてぜんぜんいいと思います(笑)。会ってちゃんと話せば、こういうメソッドを使ってようとなかろうと、その人がいいかどうか判断できると思います。
小松パラさん
もげええ!と言いたくなりますよね(笑)。しかし、恋愛工学徒はそう思っているし、実証もされてるらしいですよ…(´・ω・`)
もやもやしてたことを書いてくださったのがとても嬉しかったので、フォローさせていただきました
あの噂の本、こんなに面白かったんですねw 

興味無かったんですが、ネタ用に買おうと思います。

まあ男女の駆け引きって、ヤりたい男vs貢がせたり子育てさせて下僕を作りたい女のバトルだから、その辺りをあえて明かすという、スタンダールの昔の本の現代版的な要素は強いですよね。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。