見出し画像

忙しくて、 難しくて、 重い。

約1年ぶり、結婚式を担当する。
深夜までやっているカフェに入って、二人のイメージに合うインスツルメンツを探し、大音量でヘッドフォンを聴きながら、二人のヒアリングを思い返す。0歳から今日までのストーリーと、「なぜお互いを選んだのか」に、二人の人生の価値観や、人生に求めるものが詰まっている。私はもう彼らのことを、この世で最も知っている人間の一人だと思う。親ですら家を出て行ってからや仕事のことはわからない。親友ですら出会うまでのことは知らない。同じ2時間という時間があっても、ここまで包括的に「その2人」について、貪欲に知ろうとした人はいないだろう。そして、ただその「あなたを知る」ことに、ここまで人生を傾けてきた人はいないだろう。

今日話してくれた、1から100までの二人の人生のストーリーのなかで、二人を表現するために、ゲストに伝えるべき要素を分解して、選んでいく。もうすでに、二人のゲストがどんな人たちなのかがわかる。ゲストの声や温度、当日の空気感を感じる。二人がどこで笑い、どこで泣くのかというシーンが見えてきている。「結婚式をやってよかった」、心からそう言ってくれるこの二人が、私が提供した結婚式で、何に最も価値を感じただろうかと予想する。私の中には確信がある。二人が求めているものはきっと、「これ」だというその光景に、その日に、その二人の人生に、題名をつける。それが結婚式のコンセプトになる。

これは、CRAZY WEDDINGのプロデューサーの仕事。
私が世界一だと信じてやまない職業だ。今はもう私は個人ではほとんど受けていないが、今年に入ってトントンと、2組の結婚式を担当することになった。ドクンドクンと脈を打つ感覚。あ、また始まるのだ、となんだか胸騒ぎみたいな静かな興奮が生まれる。そして、私はこの最前線にいたことを思い出して、このことを誰かに伝えたくなった

プロデューサーの仕事とはなんだろうと思った時に、「忙しくて、難しくて、重い」という表題の言葉が思い浮かんだ。アルバイトで言ったら全然条件のいい仕事ではないな。笑 

でも、人生を賭けるに値する仕事だから不思議だ。条件を超えてでも心の底からやりたいことが、世の中にはあるのだ。アーティストも、経営者も、クリエイターも、そうだと思う。条件を満たす満たさないではなく、条件を超える仕事がある。まずは条件の外に行かないと、命を燃やす仕事はできない。人を突き動かす仕事はできない。それに生き、死のうと思えるものには決して出会えないと私は思う。条件の良い仕事というのは、誰かが作ったもう安定的に人に求められている仕事だからだ。

 私は、この仕事に出会った時に雷に打たれたような衝撃があった。こんなに自分の生きてきた全て、もはや人間の全てをぶつけられる仕事があるのだ、とその喜びに、とり憑かれた。365日結婚式のことを考えた。結婚式とは、一般のではなく、私たちがいう「結婚式」のことだ。目の前の二人の人生に泣けるほどのドラマが詰まっているという前提を持ち、相手と特別につながり、人生を編集し、クリエイティブの力を借りて世界観を生み出し、プログラムを演出に乗せて、空間を揺さぶる。ここにある人生を、空間という立体で表現するという、ただの結婚式とは程遠い「結婚式」のこと。

忙しくて、 難しくて、 重い、の実態。

とにかくプロデューサーは忙しい。だって、3時間の結婚式ではなく、人生を更新する機会を提供しているのだ。そこにかける準備や労力、打ち合わせへの集中力は凄まじいものがある。それだけではなく。今話してきたことだけでも、世の中にある桁ひとつ違う金額を頂くイベントプロデュース企業よりも下手したらクリエイティブが強くないといけない。だから、勉強する。世界中の結婚式を検索し、ピンタレストに貯めて、映画を見て、ライブに行き、アートを見る。

もちろんそれは直接仕事ではない。だけど、私たちは常に出来合いを提供しているわけではなく、自分すらも驚かせる提案をし続けるプロデューサーでないと、お客様にとって魅力はない。魅力的な面白い人間であり続けることと、良い仕事は、CRAZYにおいては特に密接に繋がっている。だから、「これは仕事だから平日の昼間だけね」、なんて切り分けられなくて人生は忙しい。

そして、とにかく難易度が高い。まずヒアリングでは、目の前の二人に、自分の人生の全てを話したいと思ってもらう、ことから始まるがそれだけで非常に難しい。人間的に信頼できる事はもちろん、「話す価値がある」と思ってもらえる、理解力や論理的思考力も問われている。そして、聞いたことをコンセプトにするというクリエイティブの力、それを言葉ではなくプログラムや空間でコミュニケーションをとっていくという立体を作る演出力。合わせて、多い時は100名にも及ぶ、制作、サービス、音響照明、フロリスト、カメラマンさんなどを人を動かすディレクション力が求められる。それも、いつものその人にできる仕事ではなく、人生最高の仕事を求める必要があるから、難しい。起業時に誰も採用できないのではないかと不安になったほどだ。笑

そして、重いのだ。結婚式という二回目のない仕事、ハイプレッシャーな仕事。人生の捉え方を左右するこの仕事は、この結婚式がなければ、自分の弱さや、親や、相手との関係性に、向き合う事がなかったであろうその事に、初めて会った、目の前の二人と一緒に向き合うのだ。上記の事に加えて、相当な胆力が試される。踏み込まなくても怒られる事はない、でも踏み込む先にある価値を知る私たちは、その安全ラインを超えた提案をする。「人生を左右する仕事は気が重くないか」と、何人にもに聞かれるが、でも人生に対して当たり障りない事に、やってもやらなくてもいい楽な事に、大切な時間をかけたいと私は思わない。私は人生にインパクトのある仕事を、最初から望んでいたのだ。

今の時代、皆が自分の人生を探してる。私たちは、目の前の二人の人生を、捕まえる。自分すら主観的すぎて、見つめてこれていない・発見できていない「その人の価値」を知っていく。そして、結婚には人生のほとんどすべてが詰まっている。一人でも生きていける、むしろそのほうが自由でもあるこの時代に、わざわざ親に紹介したり、戸籍を変えたり、住み心地の良かった一人を超えて共に暮らしというめんどくさいプロセスを経ても、「誰かと一緒に生きていきたい」と願う結婚という行為。そこには、「自分一人で生きるよりも、一緒ならもっと自分らしい、理想の人生が生きられる」という、その人が言語化できていない、でも生きたい未来が詰まっていると私は思っている。だから結婚について迫ることは、その人の言葉にならない理想の人生に迫ることに他ならないのだ。

そんなCRAZY WEDDINGのプロデューサーの仕事を、夢中になって書きながら思い出す。なんて、忙しくて、難しくて、重い、そしてとんでもなく素晴らしい仕事なのだろうかと。私という存在が、誰かの人生の節目に刻まれ、死ぬときにもきっと思い出してもらえるであろう、仕事。

仲の良い誰かと話しても、2時間でその人の人生をまるごと知れることはまずない。親でも、親友でも、その人とマンツーマンで話をしてもたどり着けない、その人の本当の姿を私たちプロデューサーは他人だったところから始めて、知っていく。

それは社会的なその人よりも、もっと素直で人間らしい、根源的な姿だ。私たちが出会う「本当」の二人は、どんなに弱くても、かっこ悪くても、ずるくても、だらしなくても、かっこつけている表面的な人間より、ずっと魅力的だ。私たちの仕事は、そんなかっこわるくて美しい人間に・本当のその人に、迫り続ける仕事なのかもしれない。

人生を変えるほどの結婚式。そういうと、大げさに聞こえるかもしれないが、お客様で起業されたり、仕事を変えたり、移住したりと、人生が変わっていく人が多い。そして、うちの社員の約20%が元お客様であることからしても、私たちが生み出しているのは、ゲストに向けての二人の人生を知り、それを祝う結婚式だけではなく、二人にとって知らなかった自分を知り、自分の人生と仲良くなり、大切なゲストと繋がり直し、自分の人生を改めて始めるきっかけなのかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?