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全力英さんが作る新しい私

深夜、もぞもぞと動きだす英。お腹が減って、寝ていられなくなって、声をあげて泣き出す英に、私はおっぱいをあげる。寝ぼけながら「ごきゅごきゅ」と音を立てて英は必死におっぱいを飲む。こんなに全力に何かをすることを、大人は忘れてしまっている。

ご飯一つとっても、携帯を見ながらご飯を食べることもある。ご飯を適当に済ませることもある。食べたいものもなんでもいいと人に合わせたりする。でも赤ちゃんは違う。お母さんのおっぱいしか嫌で、泣くほどそれを飲みたくて、飲むときは一心不乱だ。

こんなまっすぐさを、こんな一途さを、こんな純粋さを思い出して、私は胸が締め付けられる。

こうやって懸命に生きる毎日は、知らないことをたくさん知って、新しいことをたくさん経験して、泣いて笑って、どれだけ充実しているだろう。きっと朝には、夜というずっと先を想像できぬほど、目の前の一つ一つが一大イベントだ。その姿に突き動かされて、知っているつもりでいた1日という単位が今までよりももっと大きなものに感じる。

今日の価値は何で計れるのだろう。プランニングして、自分の立てた目標を達成して、未来が手に入るイメージが持てて...今日はいい1日になったと思ってきた過去。寝ても覚めても仕事のことを考えてきた10年余り。1日を攻略しようとしていた自分、その完成度を高めてきた自分がもう懐かしい。達成度で測っていた1日、そんなあの時も素晴らしくて、でも今はもっと素晴らしい。

それなのについつい、大人のペースで時間を急ぐことがある。大人は1日に慣れていて予想ができて、そこに感動や冒険よりも、たくさんのすべきことがある。イライラしてしまうこともある。でも、この小さな英から見た、この大きな1日を、できるだけそのように扱ってあげたいと願う。光のスピードで成長する英の1日は、今日しかない1日だと私の目にもわかるから。

「今日も1日いい日にしようね」

起き出して「あーあー」と私の腕を掴む英に、思わず口をついて出た言葉は今まで私が、使ったことのない種の言葉。もちろん、決めた仕事はする。その集中力は今までよりも高いだろう。でも、朝のベットでの隣の時間、始めたばかりの離乳食の時間、出勤のお散歩の時間、お風呂の時間...それらの時間が今日という日を、特別な今日にするだろう。

そして、私に影響を与えるこの小さな人のおかげで、今までよりももっと仕事が楽しい。働くこと、外に出ること、懸命にそれを追求すること、そのきらめきを仕事もしていない、けれど懸命に生きる英が教えてくれる。今日もきっと、心から「良かった」と言える仕事ができるだろう。

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