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カウンセラー室♫

「中学の美術教員の正式採用が決まりました!」
と、嬉しいニュースを引っ提げて、
教え子が千葉から遊びに来てくれた。

10年ほど前に教えていた“美大”の
生徒。
美大だけど、幼児教育科には「ピアノ」がある。
ピアノのピの字も知らない、
ドレミもわからないS君。
初めて授業に来た時、183センチの
長身のS君、
スタイリッシュにスカートを履きこなしていた。

精神的にとてもナイーブで
弾くことより、とにかくよく喋りたい子だった。
レッスン時間内だけでは足りなくて、
学食でも一緒にご飯を食べながらよく喋った。

教育実習も初回は最後までやり遂げることができず、先生方をヤキモキさせた。

「本当に心配したよぉ、あの時は。」
「すみませ〜ん。あの頃、先生のレッスン室、カウンセラー室でしたね(笑)」

そうだった。毎年ある時期になると心配と疲れで不安を口にする学生が少なくなかった。
私はたいして良いアドバイスもできず、みんなの話を聞いているだけだったが、話して安心するのか涙して部屋を出ていく子がチラホラいた。



そんなS君、卒業したら千葉の某夢のリゾートにダンサーとして働きたいと言う。
最初は冗談かと思ったけど、
彼の卒業間近のある日のこと。

所用で新幹線に乗っていたところ、
次の駅からS君が乗ってきた。
今からDリゾートに採用試験を受けに行くと言う。

本当だったのか!
私はなんだかとてもワクワクした。
東京に着いてからも、目的地が同じ路線で、まるで受験生の息子に付き添う母の気持ちだった。

無事合格し、3年間ダンサーとして働いた。
その後、補助教員、サラリーマン、実習助手を経て、
この8月に採用試験を受け、
先一昨日、採用合格通知が来たのだ!

「学校で補助や助手をしながら、生徒たちとの関われることがとっても嬉しくて、教えるより教わることの方が何倍も多いんです」
とS君。
私は感無量だった。
もうその言葉!何よりだわ!!
嬉しくて涙が出た。

彼は不器用で人一倍苦労したけど、苦労しただけに生徒たちの気持ちに寄り添える。
たった2年そこそこのバイト教員にも関わらず、とても信頼されていた様子。

これからが本番だからね。また時々連絡してよ!
というと、
今度ディズニー一緒に行きましょうよ!と。

気がつくと、外はとっぷり日が暮れていた。
よく喋る(笑)


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