【読む映画】『ニュースの真相』

大統領の疑惑を撃つ、調査報道の闘いの記録

《初出:『週刊金曜日』2016年7月29日号(1098号)、境分万純名義》

 米国 CBS ニュースの看板番組「60ミニッツⅡ」を制作していたメアリー・メイプスが主人公だ。2004年に世界を震撼させた、米軍アブグレイブ刑務所でのイラク兵捕虜虐待問題をスクープした女性プロデューサーである。このスクープは、放送界のピューリッツァー賞と呼ばれるピーボディ賞を受賞している。

 本作はその回顧録『大統領の疑惑』(稲垣みどり訳 キノブックス 2016年 ※原書は2005年刊)の映画化で、併読することを強く勧める。

 04年は大統領選挙の年でもあり、ブッシュ大統領は再選を狙っていた。メイプスは、選挙の争点でもあったブッシュの軍歴詐称疑惑を取りあげ、再び全米に衝撃を与える。 
 だが、その直後から、番組で使用した内部文書が「偽造」だという保守派ブログの攻撃が始まる。挙げ句は社内の調査委員会で追及され、ついに解雇されてしまうのだ。

 貴重な調査報道が、ウラ取りやツメの甘さで無きものにされる顛末。ジャーナリストの立場からすれば自戒しながら見ずにはいられない。

 ただ、ブッシュの軍歴詐称疑惑は『ロサンゼルス・タイムズ』など多くの主要メディアも独自に取材していたことだ。にもかかわらず、なぜ、その主旨において、なんらかに大同団結する道を探らず「60ミニッツⅡ」を指弾するだけにまわったのだろう。

 思いだすのは同じころ、『ニューヨーク・タイムズ』のスター記者、ジュディス・ミラーの報道に批判が高まっていたことである。ミラーは、イラクの核兵器開発と大量破壊兵器疑惑という、いまではだれもがデマと知る記事を量産し開戦に一役買った。ミラー批判の焦点は情報源の問題だったので、それが影響したのかもしれない。

 とはいえメイプスとミラー。どちらもその報道活動によって社を追われた女性ジャーナリストだが、そこにいたる行程は天と地ほども異なっている。

監督・脚本・製作:ジェームズ・ヴァンダービルト
出演:ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、トファー・グレイス、デニス・クエイドほか
2015年/米=豪/125分


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