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アルスマグナを推すということ

何かを推すことは、虚構を本物にすることだと思う。

アイドルを推している人、いや、アイドルに限らず誰かを推しているすべての人が一度は思った経験があるんじゃないだろうか。「私たちに見えている『推し』はどこまで本物なのか?」ということ。彼ら彼女らは私たちと同じようにこの地球のどこかで生活している人間である(はず、な)のだけれど、もちろんステージに立つときにはスイッチが入っているだろう。アイドルとして?アーティストとして?なんにせよ生活しているときとはきっと違う。いくら素で話すMCであろうとバラエティーであろうとSNSであろうと表舞台であることには変わらない。芸能活動においてセルフプロデュースは今や当たり前になっている。どれくらいキャラクターを作っているのか、どこまで考えて「素」らしきものを見せているのか、パブリックイメージとそのギャップまで全て計算されているのか、はたまた偶然なのか。私たちには本当のことは一生分からない。何年も何年も活動を追っていたって、ファンである私たちが人間としての本物の彼らを知ることは不可能だ。友だちじゃないし。むしろその埋まらない余白こそが応援し続ける理由なのかもしれない。

さて、私が応援しているアルスマグナは2.5次元コスプレダンスユニットである。これまでの記事で何度も紹介しているのでざっくり説明しよう。クロノス学園という全寮制共学高校のダンス部の部員4人と顧問の先生、魂が宿ったぬいぐるみ1体がグループとしてメジャーデビューし活動している。ええ、もちろんこれはフィクション。クロノス学園なんて学校は実在しないしぬいぐるみは動かない、この現実世界ではね。でもアルスマグナの活動は実際にこの3次元メインで行われてる。
アルスマグナ的2.5次元は、2.5次元舞台で若手俳優がキャラクターを役として演じるのよりもうちょっと極まっている。ミッキーと同じシステム。中の人はいない。若手俳優はよく「◯◯(キャラクター名)として生きることができました!」とかブログに書くけど、そのシステムで言うとアルスマグナのメンバーはみんなずーっと生きている。アルスマグナのままライブをやり、ブログを書き、ラジオに出て、インタビューに答える。つまりアルスマグナというのは、部活という「設定」でやってます、みたいなメタ視点を全部理解した上で一切合切捨てて、クロノス学園が実在しアルスマグナのメンバーは私たちが見ていないところでもこの姿で毎日学園生活を送っているという前提で楽しむコンテンツである。僕たち2次元から飛び出して来ちゃいました!を演者側も鑑賞者側も徹底することが求められる。
もちろん中の人はいるし、ファンは彼らのことを結構よく知っているのだけど、キャストであるはずの彼らはアルスマグナとはあくまで別人、ただの似ている人という体を保ち続けている。
だからアルスマグナの舞台上で、あるいは2次元ベースで進んでいく物語はすべて彼らにとって事実であり、経験である。ライブや握手会をしたことと、学園祭でループにはまって抜け出せなくなったことと、メジャーデビューして武道館を目指したことと、メンバーが実は記憶喪失だったこととが並列で事実=物語になっていく。だんだん混乱してきた?

閑話休題。コスプレダンスユニット、という名を彼らが自分で名乗ることはちょっとメタだなーといつも思ったりしている。1度レイヤーさんにきゃりーぱみゅぱみゅみたいな派手なファッションとコスプレの差ってなんなのか聞いてみたことがある。度々オタク学級会になるコスプレマナーみたいなやつに対して、派手なファッションとそんな変わらなくない?と思ったから。その方は、これはいち意見ですが…と前置きして、コスプレは「キャラクターになりきる」ことがメインなので、自分がその服を着るということとは違うのだと教えてくれた。コスプレという文化がキャラクターを背負うことであるのなら、コスプレダンスユニットという呼び名は正にアルスマグナに相応しい。

話を戻そう。「推すこと」の話だ。誰だって生きてるだけで主人公であるが、特にアイドルとか、こういうライブ活動をやるグループというのはその物語性が大事にされる。下積み時代、メジャーデビュー、メンバーの卒業だってそうだ。ファンにとってはグループが大きくなって遠くなることもメンバーが卒業してしまうことももしかしたら全く必要ないのだけれど、トップを目指すとか涙の卒業コンサートとかいうストーリーが上手くいくことは逆に「推せる」要素にもなりうる。むしろそういうことをコンテンツとして消費していくことは、今の時代のアイドルの推し方としては決してマイナーではないだろう。一歩間違えれば悪趣味でもあるけれど、その背徳感まで含めて、楽しみかたとして成立している。 そんなことを踏まえた上で、最近のアルスマグナのファンの複雑な心境を聞いてほしい。

2018年のアルスマグナの活動は多岐に渡った。修学旅行(FCツアー)で苗場へ、冠バラエティーのDVDが発売し、体を鍛えるヘルシーなシングルをリリース、舞浜アンフィシアターでのオープンキャンパス(ライブ)、アルバムを引っ提げて秋にはZeppで学園祭(ツアー)もあった。そのあと少し変化があったのは、5人全員でなく個々人での活動が増えたこと。アルスマグナのメンバーのうちふたりで構成されたアイドルユニットが単独公演をしたりとか。少なくともZeppツアーファイナルの11月末から、アルスマグナ5人が揃ってステージに立つのはこの3月末がはじめてだった。他のアーティストと比べて多い少ないは比べようがないけど…でも結構久々な感じがしたし、ざっくり言ってしまえばこの冬は供給がなかった。供給がないと不安になる。この先の予定も発表されていない中、3月末の生徒総会(FCイベント)のチケットを握り締めて待っていたファンのもとに、こんなものが放たれた。


なんと解散の危機!いや、フィクション上のアルスマグナはこれまでわりと飽きるほど解散の危機に迫られてきたので物語を進めるための起爆剤としてはもう慣れっこなはずなんだけど、このときはちょっと違った。
めちゃくちゃ素直に言ってしまえば、フィクションでない部分、3次元的な都合でアルスマグナが解散してしまう未来の不安を、私たちはいつも抱えている。結成8年、永遠の高校生はきっと永遠じゃない。その不安はライブで、イベントで、優しい彼らが「アルスマグナはまだまだこれからだよ!」と言ってくれることだけで救われるわけだけど、現場もなく放置されるなかで不安は募る。そんな中で2次元的な都合で解散をちらつかされたわけ。これはちょっとキツイ、となった。心の余裕がなかった。だってアルスが好きだし、解散してほしくないんだもん。

そんな不穏な前振りを踏まえて開催された生徒総会は、ファンもクロノス学園の制服を着て参加したりできる、ガチ体験型2.5次元イベントだった。学園の先生たちの挨拶やビデオメッセージに沸く感じとか、藁半紙で配られる年間行事予定とか、校歌斉唱とか。パフォーマンスも盛りだくさんで久しぶりにアルスマグナが見られて本当に楽しかった!しかし解散の危機の件は結局「つづく」ってことで終わってしまい、5人全員でのイベントの予定が今のところ4月が終われば秋までない状況で、またファンの心はざわざわした。部員を増やさないと正式な部活として認められないという学園長のお触れが出て、新キャラみたいな人たちがちらりと登場して、そこで終了かい!まあおそらくこのストーリーをこの1年間で展開していくんだろうなーと思ったんだけど、え、部員を増やすってことはメンバー増える可能性……?とか想像しちゃうじゃん。しかし物語の続きはまたツイッター漫画で展開されるらしいので、なんて2.5次元を体現しているんだと感動してしまった。不安はもちろんあるんだけど、メンバーの増減とか解散の危機とか、今のアイドルコンテンツで言ってしまえば「よくある」物語性を、つまり3次元的都合を、2次元のストーリーに融合させてしまうこの構造そのものがアルスマグナの「推せる」要素なので、悔しい。まったくすごいエンタメだ。アキラくんもDVDの特典のインタビューで言っていたけど、アルスマグナが確立してきた2.5次元の世界は、本当に唯一無二だと思う。箱推しを超えて、構造推し。

コンテンツの終わりはなんであれ、悲しい。想像するだけで不安になる。実際問題競争は激しくて、確実な方法なんてなくて、生き残っていくのはとてもとても大変なんだと思う。そんな中で、夢を叶えるために、やりたいことをやるために、ファンのために、活動してくれる今が素晴らしい。有限なコンテンツだからこそ、私たちの無限の生活に彩りを添えてくれるのだろうか。私は秋のツアーでアルスマグナが踊ってくれたこの曲が大好きだ。

そっと
傷ついた夜を呼び出してみる
ささやかな魔法をひとつかける
それだけで僕らは飛べるのさ!

離さないでよ! 眼差しを
僕達はもう 止まらないよ
魔法が解ける それまで
繋いでいてよ 手を
手を!

ひとつだって残さない
全てを取り戻すだけさ
魔法が解ける それまで
繋いでいてよ 手を 手を
手を! 

(テオ/Omoi)

ステージに立って歓声を浴びて、「推される」存在になることは、魔法みたいなものなんじゃないかと想像する。推しがアイドルにならなかったら?芸能人にならなかったら?人前で歌ったり踊ったりしなかったら?きっと推しは今の推しではないだろう。でもそれは私たちの見ている推しが偽物だということではない。人間としてのその人とは確実に違う、作られたものであったとしても、魔法にかかっているその瞬間は本物なのだ。それは、アルスマグナを応援していて何度も実感した。アルスマグナはちゃんと生きているし、クロノス学園は存在する。フィクションは、現実ではないけれど嘘ではないのだから。幻のような、奇跡的なその虚構を本物にするために、私は「ファン」として、あなたを推します。唯一無二のアルスマグナを応援していて後悔したことは1度もないし、どんな風に新しく変わっていっても、ずっと大好きだよ。本物の瞬間を、いっぱいいっぱい作っていこうね。

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