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『東京を唄う名曲特集〜スガシカオvs Great Artists〜後編スガシカオ編』

前回の記事に引き続き、”東京を唄う名曲”をご紹介していきます。
今回は後編。スガシカオ編です。

スガシカオさんは、ファンならほとんどの人が知っているように東京生まれである。
ただし、スガさんの生まれ育ったのは、決して『オシャレで洗練された東京』ではなく、いわゆる″下町″だ。

下町と言っても、映画『男はつらいよ』に出てくるみたいな、人情味溢れ、外国人の観光スポットになりそうな、そんな街では決してない。

過去にスガさんは俺が参加したライブのMCでも「クソ汚い街で全然いい想い出とか無いんだけど・・・ドブ川からいっつも強烈な臭いがしてて、彼女とか地元に連れてったりする時はそれで嫌われるんじゃないかって、いつもビクビクしてた・・・そんな街です。」と自虐的に語っていた。

だが、そんなスガさんが”生まれ育った東京″を唄う曲は、他のスガさんの名曲たちとも一味違う、独特の世界観とノスタルジーを併せ持った凄い曲ばかりなのだ。

それでは、スガさんが自ら”下町シリーズ″と名付けた、スガシカオにしか作れない名曲たちをご堪能ください。

『東京を唄う名曲特集〜スガシカオvs Great Artists〜後編 スガシカオ編』

1曲目:In My Life(アルバム『Clover』収録)

デビューアルバム『Clover』は名曲揃いだが、その中でも”これぞスガシカオ!″という頭ひとつ抜けるグルーヴを持つ強烈な一曲。

ぼく→毎日のしがらみに怯える
きみ→ためいきをついた
母親→持て余してる
兄→グロッキー
友達→失踪
父親→抱えこんでる

何一つ上手くいってる人が登場しないにも関わらず、何なんだこのサビの高揚感は!
いや、このグルーヴは、未だに全ての楽曲の中でも最高峰の部類に入ると思う。


2曲目:オバケエントツ(アルバム『THE LAST』収録)

スガさんの下町シリーズに共通している、少年時代過ごした街への郷愁と嫌悪の共存。

この曲はまさにそんな曲だと思うが、実はタイトルでもある″お化け煙突”(1964年まで東京都足立区千住桜木に所在した火力発電所の4本の煙突の通称。上から見て菱形に煙突が作られてるため、見る角度によって本数が変わる事から、そう呼ばれた)は、スガさんが生まれた時には既に取り壊されていた。

リアルタイムでお化け煙突の煙を見ていないからこその、膨れ上がった想像が生んだ恐怖心みたいなモノが、その街に蔓延する空気や先が見えない自分の未来に投影され、こんな名曲に昇華してしまった。

強い楽曲揃いの『THE LAST』の中だと柔らかい優しい印象の曲に感じちゃうけど、実は相当ヤバい曲。
だって、「ほんの少し先の闇へ 君と歩いていきたい」ってフレーズで終わるんだよ。凄い。


3曲目:黒いシミ(アルバム『Sugarless Ⅱ』収録)

「情景が目に浮かぶような」歌詞を書けるアーティストは俺の知る限りでも何人か居て、それは勿論凄い事なんだけど、スガシカオというアーティストは「色や匂いや空気を感じられる」歌詞を書く人で、それは世界中のソングライターの中でも、極めて特異で稀有な存在だと思うし、この曲はその最たるモノだ。

そして個人的に「たぶん春の花粉のせい」って歌詞が凄く好き。
そう。日々動いてゆく日常の中で、僕のココロに宿るスッキリしない感情も、キミが不意に見せた泣き顔も、みんなたぶん春の花粉のせい。


4曲目:夏祭り(アルバム『Sugarless』収録)

スガさんの下町シリーズの中でも、突出してノスタルジックな香りがする楽曲。
2番に登場する父親との思い出からの「たくさんの願いは 星のように輝きを増すんだ」の歌詞に、聴く度に胸に暖かいような、少し切ないような感情が去来してしまう。


5曲目:ぼくの街に遊びにきてよ(アルバム『Sugarless III収録)

スガシカオ×小林武史のスーパーコラボが生んだ、最高に優しくて美しい名曲。

デビュー当時からずっと、生まれ育った下町の事をボロカス(失礼)に表現していたスガさんが、「ぼくの街に遊びにきてよ」「ひとつひとつ 思い出があるんだ 君にも見せたい いつか」と街への愛を歌うのが本当に衝撃的で。

小林さん作の、光が射し込んでくるような暖かなメロディーも、東京に住み日々の生活に追われている人たちに優しく寄り添っているようで、本当に素晴らしい。


6曲目:おれだってギター1本抱えて田舎から上京したかった(アルバム『労動なんかしないで光合成だけで生きたい』収録)

タイトル長っ!ラノベみたい笑
いや、しかしこれこそが、革命的な曲なのです。

まさに「アーティストの数だけある」と言っても過言じゃない東京ソングだが、その大半は地方から上京してきた人物目線の楽曲・・・いわゆる上京ソングである。

夢を追って大都会東京に出てきた若者の焦りとか苦悩などを歌うからこそ、、
お金に困り、貧乏な生活に耐えながら夢を追ってるからこそ、、
上京ソングというモノは、人の心をグッと掴むのだ。

が、東京生まれ東京育ちのスガさんが、そんな名曲たちに、まさかの形で噛みついてみせたのだ。

いや、もうこれやられちゃったら、今後誰の上京ソング聴いても、ちょっとクスッと笑っちゃうじゃ無いすか。スガさんズルい🤣

ただ、「渋谷区初期衝動2丁目3ー2のマンション 腐って生まれてきた不良債権のおれは すぐ前が首都高で排気ガス吸って こんな声になって 歌をうたっています」という歌詞は、スガシカオ史上TOP10に入るキラーフレーズだと思う😂


7曲目:青春のホルマリン漬け(アルバム『THE LAST』収録)

あえてリズムに乗らずにズラして演奏される楽器。
猥雑で挑戦的で、やりたい放題の歌詞にも関わらず、何故か凛とした美しさすら感じるスガさんの歌。。

独立後磨かれまくったスキル(曲作り、歌唱共に)と、スガシカオにしか書けないエログロなのに下品にならないソングライティング能力が大爆発した快作。

歌の舞台が日暮里の狭いラブホというのも、何かもうマニアが愛するスガシカオそのものみたいな曲だと思う(笑)。

ちなみに、以前参加したライブでこの曲を演ってくれた時、直後のMCで「みんな凄いね!今みたいなマニアックな曲であれだけノレるとは、さすが俺のファンだ!!」とスガさんに喜んでいただけたのは良い思い出です笑


8曲目:正義の味方(アルバム『Sweet』収録)

スガシカオの真骨頂であるFunk Musicと、スガシカオのライフワークと言える下町シリーズの両輪で作られている初期の大名曲。

残念ながら今年2月に天国に旅立たれた巨匠バート・バカラック氏が、2012年の東京JAZZに出演したスガさんのパフォーマンスを観て、この曲を絶賛し、スガさんの「どのようにしたら、あんなに世界中の人を感動させられる良い曲が書けるんですか?」という質問に「You’re doing it!(貴方は、それをもう出来てますよ)」と返したそうだ。

独立直後だったスガさんにとって、どれだけ心強く、自信になる言葉だっただろうか。

改めて、バカラック氏のご冥福を心よりお祈りいたします。


9曲目:東京ゼロメートル地帯(アルバム『イノセント』収録)

最新アルバム『イノセント』収録のこの曲こそ、下町シリーズ最新作!
スガさんが昔両親と暮らしていた街は、江戸川と荒川に囲まれた低地帯で、台風で川が氾濫する度水浸しになるので、通称″東京ゼロメートル地帯”と呼ばれていたらしい。

超オシャレなサウンドに乗る歌詞は相変わらず育った街をボロカス(度々失礼)に言ってるんだけれど、ラスサビでついに「明日が見えない暗い夜、ぼくはあの街が恋しくて思い出してる」と、抑えきれない愛を唄う。

これまでの下町シリーズをずっと聴いてきた身としては実に感慨深い思いなのだけれど、スガさんご本人は『イノセント』発売時のインタビューで、「(都市開発により、すっかり綺麗になった)街の過去を、自分の古傷のせいだけでこじ開けるのは、もう違うかな」と語っている。

都市開発で生まれ育った街が変わっていくのを、スガさんの親友であるMr.Childrenの桜井和寿さんは、
『思い出がいっぱい詰まった景色だって また
破壊されるから 出来るだけ執着しないようにしてる』(Mr.Children『東京』より引用)
『また僕を育ててくれた景色が 呆気なく金になった』(Mr.Children『ランニングハイ』より引用)
と、歌詞の中ではどちらかと言えばネガティヴに捉えてる感が有るのだが、同じ東京生まれ東京育ちでも、やはり感覚はずいぶん違うのだなぁ。


10曲目:ホームにて(アルバム『Sugarless Ⅱ』収録)

タイトルを聞いて解る人は解ると思うが、中島みゆきさんの名曲『ホームにて』にインスパイアされて産まれた曲。

ドラマチックなイントロから始まるこの曲は、スガシカオ史上最高峰の文学的な歌詞が本当に印象的。

東京をイメージする言葉は一切出てこないが、「父親のインクの臭いがする手で 殴られたあとが グズグズと痛む」という描写からも解る通り、これも間違いなく下町シリーズ。
(スガさん本人も、以前SNSで公言されていました)

スガさんの歌詞の中では生まれ育った下町の”風に乗って香ってくる匂い″がネガティヴな象徴として描かれる事が多いのだけれど、この曲では「風」がとてもポジティブな象徴として表現されており、地元への愛憎相半ばする下町シリーズの中では非常に「愛」が強く感じられる曲だと思う。



以上!『東京を唄う名曲特集〜スガシカオvs Great Artists〜後編 スガシカオ編』でした。

いかがでしたか?前編のGreat Artists編も含め、本当に名曲揃いですよね😂

最後まで読んでいただき、ありがとうございました😊

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