八ヶ岳a

フライフィッシングで使う糸の結び方

 釣りにおいて糸を結ぶということは、欠かすことができない技術です。しかし多くの入門書は、難しい結びをいっぱい教え込もうとしすぎなんです。あれでは、ごちゃ混ぜになって覚えられないか、すっぽ抜けるか、全く我流の妙な結び方を覚えるか、になってしまいます。ということで、私は「3つ知っておけば十分」だと考えています。
 むしろ「なぜ入門書はいろいろな結び方を教えようとするのか」とても謎なんですけどね。書き手がどういう結び方を常用しているのかなんてのは、巻末にでもつけておけばいいのに。

●結ぶところは何カ所あるか

 ということでまずは、フライフィッシングだと何カ所の結びが必要か?というところからはじめましょうか。まず、リールにフライラインの下巻き、バッキングラインを結ぶ必要がありますね。ここで1カ所。そしてそのバッキングをフライラインに結ぶので2カ所め。

※「バッキングライン」は渓流ならほとんどなくてもいいのですけど、フライラインそのものをリールの軸に結ぶのが難しいので、丈夫な化繊の撚り糸を1mくらいは用意したいところ。もちろん、大きな川や湖などではここまで引き出されますので専用の糸が50〜100m、海なら200m以上必要になります。

 続いてフライラインにテーパーリーダーを結ぶので3カ所め。テーパーリーダーにティペット(=日本風に言うならハリス)を結ぶので4カ所め。最後に毛鈎を結ぶので5カ所め。
 このうち一度結ぶとなかなか結びなおす機会がないのがリール→バッキングと、バッキング→フライラインの2カ所。頻繁に結びなおすのがテーパーリーダー→ティペットと、ティペット→毛鈎の2カ所です。

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●初級編というか一般編

 で。頻繁に使うところは簡単なほうがいい、あるいは「ひとつ覚えたら応用が効くほうがいい」となります。つまり結び方の系列といいますか。再度言いますけど、多くの入門書は、難しい結びをいっぱい教え込もうとしすぎ。「3つで十分」なんです。

●ユニノット
 まず覚えておくべきなのは「ユニノット」の系列でしょうね、やっぱり。毛鈎に結ぶ方法であると同時に、その単純な応用で糸同士を結ぶこともできるので、リーダーとティペットを結ぶこともできます。つまりは最も頻繁に結ぶ2カ所がこれだけ覚えればOKになるのです。
 ちなみにユニノットは、毛鈎の「輪」をリールの糸巻き部=スプールの「芯」に置き換えることで、リールにバッキングラインを結ぶのにも使えますので、これ1個で5カ所中3カ所をクリアできるというわけ。お得です。

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※ 実はもうひとつ、クリンチノット/ブラッドノットの系列というのもあって、糸同士の結びはブラッドノットのほうがユニノットより結び目が小さく、よりすっぽ抜けにくくなるのですが、初心者ならば、なにはともあれ、まずはユニノットで確実に結び方を覚えてからにしたいところです。
 というか、初心者で糸の結び方が覚えられないという人、ほぼ間違いなくユニノットとクリンチノットがごちゃまぜになっています。混ぜるな危険。すっぽ抜けの元です。まず、確実にユニノットをマスターしてください。

 なお、ナイロン糸は熱に弱いので、締め込んだときの摩擦熱程度でもコイル状になったり、強度劣化が起きたりします。こうなると結びなおすしかありません。毛鈎の間際でコイルしていたりすれば、バランスのとれた理想のスタイルでの着水など不可能です。
 この摩擦を減らし、熱を散らす最も簡単なことは、締め込む直前に一度「濡らす」ことなのですが、釣り場では何が行われるかというと「舐める」のですね。唾で濡らすわけです。ただし釣り場の水質などによっては、ためらうこともありますので、そのあたりは、水に手を突っ込んで水滴をつけるなど、工夫してください。どちらにしてもわずかな量で充分です。

●オルブライトノット
 で、次にバッキングラインをフライラインに結ぶ方法ですが、小さく二つ折りにしたフライラインに巻きつけていく「オルブライトノット」という結び方がスタンダード。ふたつに折ったフライラインの間に沿わせた糸を逆方向に巻き戻し、最後にフライラインの輪(折ったところ)に通して終わるというシンプルなものなので、使用頻度は限りなく低くても、一度覚えたら忘れないと思います。

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●ネイルノット
 さて、一番難しいのがフライラインとリーダーの結び。着脱簡単なものからツールを使うややこしいものまであります。しかし、ここはもう、諦めて「ネイルノット」を覚えてください。
 名前は釘を使ったことが由来ですが、補助ツールがあれば簡単です。市販品もありますが、3〜5cmくらいの、テーパーリーダーの元が通る太さ(できるだけ細い)の、金属か硬いプラスチックのパイプがあればOKです。私は百均で見かけた安い「ボール用空気入れ」の先端部金具を、持ち歩きやすいようにステンレス針金のリングをくくりつけて使っています。
 もちろん市販のものもありますが、高い金を出して専用のものを買うほどでもない、という感じです。なお、できれば貫通しているほうが、パイプを通したまま仮の締め付けが出来るので楽です。

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 なぜネイルノットなのか。市販の、簡単につなぐことができるプラスチック製コネクタは使用中に割れますし、輪を作って固定するキットのようなものも、交換が楽な割に繊細さ/スムーズさに欠けるので、湖や大きな川で頻繁にシステム交換する必要があるのならともかく、細いフライラインを使い、小型の魚を釣る日本の渓流には不向きです。
 着脱重視なら、リーダー基部に小さな輪を作って、フライラインの先端に作った結びコブを絡げて固定するなんていう、シンプル(というか、ある意味「雑」)な方法の方が何倍もマシです。

 小さな魚相手だと、刺繍針をフライラインの先端に3cmくらい刺してライターで針を加熱、刺した穴が加熱で広がって、フライラインが針を抜いてもパイプ状になっているところに、接着剤を塗ったリーダーを刺して固定、というのも、ものすごくスムーズに接続できてよいです、が。
 この接続方法、何の前触れもなく、すっぽ抜けます。そのとき掛かっていたのが大物だと悔しすぎますので、お勧めしません。毛鈎を巻く糸でグルグル巻いて接着、コーティングするのも似たような理由で却下。

 そんなこんなで、多くのベテランがいろいろ試したあげく、結局ネイルノットに戻ってきています。なお、ネイルノットの上から細い熱収縮チューブを被せて、ドライヤーで加熱して表面を平滑にする人もいます。

●糸は何回巻きつけるのがベストか?

 ここで、各種の結び方で使われる「巻きつける」ような結び方。結節部にかかる圧力を減らし、しっかり止めつつ糸の潰れを最小限にする手法、ということになると、こんな「巻き付ける」ような結び方になるわけですが、ここで、何回巻きつけるのがベストかが問題になります。

 ずばり、ナイロンやフロロカーボンの場合、5〜6回です(最低でも3回)。これは水産学科の学生時代に計測器での検査結果として聞かされたものと、実際の体験で一致しています。ユニノットでもクリンチノットでもブラッドノットでも同じです。あまり回数が多いと、今度はむしろ締め付けができずにすっぽ抜けたり、結びコブが大きくなったりするので、6回で止めておくのがよいでしょう。

 なお、フライフィッシングではPEラインを使うことはまずないので(海の大物用にバッキングラインとして使うことはあるようですが)、ここでは全く触れません。あれは摩擦力を稼ぐために何度もなんども巻きつけますが、それとはちょっと違う話となります。

●上級編(またはこだわりの結び)

 ということで話戻って、ユニノットとネイルノットを覚えた人向きの上級編っぽい話をしましょうか。

●3〜5回ひねりの8の字結び
 餌釣りで極細の糸を使う「ゼロ釣法」で有名になった結び方です。リーダーとティペットを結ぶのには、最も簡単で、強度の出る結び方と言えます。何しろ0.1〜0.08号なんていう超極細の糸(フライ式の表記なら10X〜11X)を結ぶ結節方法なので。
 普通の8の字結び=固結びのところを1回ひねる(半回転)結び方だと、細い糸の場合むしろ切れやすくなってしまいますが、3回(1回転半)、5回(2回転半)ひねることで結びの力が集中せず、強い結節となります。ちなみに偶数回だと糸が結び目で折れ曲がるので不可です。

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 似た結びに2本の糸を沿わせたまま2回くぐらす固結び「サージョンズノット」がありますが、これ、きちんと結べばものすごく強いのですけど、輪に2回くぐらせるのが面倒なうえに、細いほうが先に締まったりしてトラブルが多いのですよね。8の字結び系は通すのが1回なので、コンパクトに結べる比較的簡単な結節であることと、片方が先に締まるトラブルが少ないので安全なのです。

 輪に通すのは指でもできますが、釣具店にある、編み物に使うかぎ針のような「専用結び器」を持っていれば、より簡単です。細い針金の先を曲げて自作してもいいかもしれません。

●ブラッドノット
 先にも少し書いたようにユニノットより結節部が小さくなり、余った糸をギリギリでカットしてもすっぽ抜けしにくいので、湖で使うような、もっと太い糸同士の結びに使っています。
 ただしこれ、本にはよく、絡ませた(相互に巻きつけた)糸の真ん中を広げてに左右から先端を突っ込むように描いてありますが、実際は半分まで絡ませて片側を通し、残り半分を絡ませたのちにもう片側を通すほうが簡単です。特に暗くなってきた水辺でやるなら、この「半分ずつ」でないと、とてつもなく苦労します。

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 糸の結びは、あくまで我流で通そうとする方も稀にいるのですが、釣りの歴史を考えれば、まったくもって「無駄な試行錯誤」でしかありません。そんな人ほど固結びがベースだったりして、滑りやすく、荷重が集中するほど切れやすいナイロン糸の特徴すら分かっていないのです。
 ちなみに固結びはとても弱い結び方です。意図していなくとも、キャスティング中に糸が交錯して空中で結べてしまうこと(ウインドノット)がありますが、1カ所できると、強度は65%以下に落ちます。マメにチェックして、できたらすぐ解くこと。そして、解けなければ新しいリーダーやティペットと交換しましょう。

 今では英語で「Fishing Knot」などと検索すれば、各種の結び方のアニメーション付きアプリや、配信されている動画が多数出てきます。今回ご紹介した基本の結び方を完全にマスターして、早朝や夕方の暗い釣り場でも問題なく結べるようになったら、試してみてもいいでしょう。
 それにこれは、世界各国の釣り人の英知の結晶として、面白い世界です。今みたいに糸がめちゃくちゃ強くなる前は、結節強度を100%に近づけるというのは、もっともっとシビアな問題だったんですよ。(了)

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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