北大路さくらちゃんとオーロラファンタジー

北大路さくらちゃんが好き。愛している。
歌舞伎の家系に生まれてファンタジーの世界に憧れていたことも、その出身ゆえファンタジーは自分に似合わないと自信を無くしていたところも、幼い頃からの憧れになろうとするその姿も、なりたいと思ったら兄の反対を振り切ってでもスターライト入学を決意した強さも、そのための努力を惜しまず続けることも、才能に恵まれたエリートでありながら謙虚であり続ける姿勢も、先輩を敬い後輩に慕われるその人望も、小柄な体系に桜色のふんわりボブと肌が白いアイカツキャラクターの中でも特に色白な肌も、全てを包み込んでくれるような優しい声も、優美でしなやかな踊りも、北大路劇場という普段穏やかなさくらちゃんが気持ち高ぶる(ちょっと)面白い女の子であることも、全部、さくらちゃんの全部が大好き。人生レベルで存在に救われているし、愛している。

以下、テレビアニメ「アイカツ!」の1年目に登場するキャラクター、北大路さくらちゃんに恋をしている女オタクがさくらちゃんとオーロラファンタジーの関係についてあーだこーだ考えているだけの文章です。悪しからず。

《オーロラファンタジーとの出会い》
さくらちゃんがオーロラファンタジーの絵本と出会ったのはだいぶ幼い頃だと思う。双子の兄である左近がさくらちゃんより一足先に稽古が始まり、その寂しさを埋めるために買い与えられた絵本がそのオーロラファンタジーの絵本だった(ここまでは本編で語られていた気がする)。
これを見るに、そこまでさくらちゃんが好きな世界(オーロラファンタジー)は家で禁止されているわけではないと思うし、さくらちゃんは親や祖父母に愛されていたと思われる。だけど、さくらちゃんがその世界に憧れるだけで終わろうとしていたのは自分が生まれた家の歴史を尊重するものだと思うし、似合わないと決めつけてしまっていたのにもそこらへんの後ろめたさが原因として挙げられると思う。

《オーロラファンタジーに憧れていただけの日々》
さくらちゃんはオーロラファンタジーの絵本を大切に何度も読み返していた。作者であるグリーングラスに手紙だって送っている。しかし、その手紙は返ってこなかった。後に、それはグリーングラスさまが筆不精であったことが明かされるが、さくらちゃんにとってそれは自分がそのオーロラファンタジーの世界にお呼びでないと思ってしまうのも無理はない。
幼いさくらちゃんは、その閉鎖的な屋敷の中で何度も『妖精のおくりもの』を読み返していた。全文が明らかになっているわけではないために憶測の域を出ないが、大まかに概要を考えると、ある少女が妖精によって作られたアクセサリーやドレスを身に纏い空の国からやってきた王子様の手を取り踊りながら一緒にその世界へと行くお話であることが読み取れる。作中の主人公である女の子もおそらく退屈な毎日を過ごしていて、さくらちゃんはもしかしたらその女の子に自分を重ねていたのかもしれない。でも、その女の子はさくらちゃんが変わらない毎日から抜け出せない中で一足先に妖精たちに、王子さまに選ばれて夢の世界へ旅立ってしまう。さくらちゃんは憧れと同時に、自分だけが取り残されている切なさも感じていたのではないかと私は考えている。
加えて、物語は女の子が王子様の手を取ったところで結末を迎えているために、憧れていただけのさくらちゃんはその女の子にどんな未来が待っているのかを知ることはできなかった。
少し逸れるが、オーロラファンタジーの物語はキラキラしている反面、その裏に切なさも込められている作風であると解釈している。同じくオーロラファンタジーを愛した姫里マリアというアイドルは、会えない時間が長くても会える日を楽しみに精一杯のおもてなしの準備をするお話を好んでいた。劇中で明かされる例が少ないため妄想の域を出ないが、それがオーロラファンタジーイズムなのかもしれない。

《オーロラファンタジーの世界=アイドルになった世界》
さくらちゃんのアイカツはずばり、オーロラファンタジーの世界に飛び込めた女の子のお話であると考える。結末が明らかになっていない『妖精のおくりもの』はアイドル北大路さくらによって続いていると考えても良い。
アイカツ!30話「真心のコール&レスポンス」では、さくらちゃんがオーロラファンタジーのトップデザイナーであるグリーングラスに会いに行く。面白いのは、さくらちゃんは妖精たちの力を借りるのではなく、出会えた仲間たちに協力してもらうことで魔法にかかる(オーロラファンタジーのドレスを身に纏うことを許される)ということだ。何度も送った手紙のお返事は今までに一度だってなかったが、その世界に自分から飛び込んだ時初めて「返事の代わりにドレスを贈ることにしたの」とブルーミングコーデを受け取ることができた。グリーングラスが筆不精であり手紙が返ってこなかっただけではあるが、その偶然もさくらちゃんが一歩踏み出したことでその世界に歓迎されたとも考えられる。同時に、さくらちゃんが憧れた『妖精のおくりもの』はおとぎ話の夢物語ではなく、なりたい自分を自分の力で掴みにいく勇敢な女の子を主人公に変えて展開していくのだ。

《さくらにちゃんの手を取る王子様(アイカツを始めて)》
さくらちゃんはトップアイドルである神崎美月に憧れてスターライトへの入学を決意した。つまり、さくらちゃんにとって最初の道標は神崎美月である。
しかし、それまで外の世界をあまり知らなかったさくらちゃんが神崎美月のライブに行くきっかけは何だったのか。私は、アイカツ!本編1話の「神崎美月スペシャルライブ」を見たことがきっかけであると考えている。
霧矢あおいによると、神崎美月のライブチケットは2秒で完売していた(時期を考えても、さくらちゃんが参戦したライブは1話でいちごやあおい、らいちが見に行ったものと同じものだと思われる)。それを踏まえると、さくらちゃんは美月さんから直接ライブチケットを受け取っていたという仮説が浮かび上がる。登場回でも語られているが、さくらちゃんの祖父は以前、美月に日本舞踊を教えていたという。おそらく(何話だったか忘れたし、もしかしたら自分の妄想かもしれない)劇中で紹介だけされた時代劇ドラマの時期に教えていたのだろう、そこでさくらちゃんは神崎美月と出会った。代わり映えのない日々、そんな中、ある日突然お屋敷ににやってきたトップアイドルという訪問者。さくらちゃんにとってその出会いは刺激的で、稽古の間にお話をするうちに美月と親しくなったのは想像に難くない。美月はその時すでにトップアイドル、その高みから降りられないというプレッシャーを感じ始めていた時期であることを考えると、さくらちゃんもまた、その屋敷から出られないという苦しみを美月は感じ取っていたのではないか。だからこそ、美月はさくらに外の世界を見るためのチケットを渡す。
それはさくらちゃんにとって一筋の希望となりえたのではないだろうか。アイカツを始めていない時期の「妖精のおくりもの」の王子様役は美月であった。

《さくらにちゃんの手を取る王子様(アイカツを始めて)》
さくらちゃんにとっての王子様はずっと神崎美月であったか。否、私はそうでないと考えている。アイカツを始めた後、さくらちゃんの手を引いているのは何者でもなく北大路さくらちゃん自身だ。先ほども述べたように、『妖精のおくりもの』という物語はさくらちゃんがアイドルになる前後でまた見方が変わる物語となっている。
幼い日にさくらちゃんが憧れていたのは奇跡を待っている女の子のお話、自分から果敢に掴みにいくよりはいつか魔法にかけられて幸せを掴むシンデレラストーリーである。しかし、アイカツを始めたさくらちゃんがその『妖精のおくりもの』の主人公となることでそのさくらちゃんの憧れは上書きされていく。妖精から魔法をかけられるときを待つのではなく、出会えた仲間とともに自分を磨いていく。さくらちゃんのアイカツでテーマとなっているであろう立場の変化、それをさくらちゃんは劇中でなりたい自分とし、そうなるための努力を続ける様子が描かれている。
実際、後輩キャラクターとして登場したさくらちゃんはいつのまにか先輩として後輩のめんどうを見るようになるし、オーロラファンタジーのドレスを手に入れるために協力してもらった側から協力する側にも成長している。プロフィールの特技欄に「特に何も……」と書いてしまう自信なさげな謙虚さも、最終的には自らスターライトクイーンになりたいと言える強さを持つようになった。アイカツのスタートダッシュを切ったさくらちゃんの憧れはいつも、さくらちゃん自身が思い描いくなりたい自分そのものなのだ。
さくらちゃんはアイカツの集大成ともいえる最後のスターライトクイーンカップにオーロラファンタジーのレアドレス「フラワープリンスコーデ」で挑んだ。自分が持つすべての力を出し切ることでやっと手が届くか届かないか、それほど厳しいクイーンカップにプレミアムドレスではなくレアコーデで、普段のさくらちゃんのイメージとは異なるパンツスタイルの「プリンス」コーデを選んだ。私はここから、さくらちゃんの限りないオーロラファンタジーへの愛と物語への敬意を感じている。
オーロラファンタジーの世界に憧れ飛び込んだ少女は、クイーンカップを通し、なりたい自分を見つめながらも最後はその憧れへと必死に手を伸ばす幼い日の自分を迎えに行った。自分が手を引かれたあの日のように、幼い頃漠然とこうなれたらいいのにと夢を描いていた少女を、それを叶えた自分の姿で手を差し出す。そしてそのさくらちゃんが差し出した手は、幼い日のさくらちゃん自身だけでなく、近い未来にアイカツを始める少女たちの手さえも握っている。

《北大路さくらちゃんに出会えてよかった》
さくらちゃんのアイカツはその後もずっと続いていく。
しかしクイーンになったその日、さくらちゃんのアイカツ、オーロラファンタジーの世界への憧れは一つの円になり始まりの日に戻る。オーロラファンタジーを愛し、夢を見た少女が叶えていく物語に立ち会えたことを、私は幸せに思う。

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