⑶道具としての身体


今回は、多彩な音色を出すのに必要な「タッチ」のコントロールのために、
身体を音を出すための道具と考え、それを有効に使う方法について考えていきましょう。


筋肉と関節の各部位を意識しよう

ピアノ演奏では、肩から指先までの筋肉と関節を使います。
僧帽筋は使いません。
その代わり三角筋が重要な役割を果たします。

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⑴筋肉について

筋肉の動きは、「完全なリラックス」「腕の自然な重み」「固定」の3つのポイントがあります。



「完全なリラックス」と「腕の自然な重み」を認識するために、以下のエクササイズをしてみましょう。

a.肩を耳に当てるくらいギュッと上げます(僧帽筋にかなり力が入っているのを意識しましょう)。
筋肉が収縮し痛くなってきたら、一気に力を抜いきます。肩が落ち、腕がだらんと垂れ下がります。
これが脱力(リラックス)した状態であり、腕の自然な重みを感じられている状態です。


次は三角筋のエクササイズです。

b.腕をゆっくりと、手に紐がついて引っ張り上げられているように横に広げていってみてください。
そして三角筋の中部に少しずつ力が入っていくことを意識します。手はできるだけ柔らかくしておきます。
しばらくそのままにしていると、腕全体がだるくなってくるので、それが確認できたら一気に脱力してみましょう。

c.腕をbと同じ要領で前に上げてみましょう。すると三角筋の前部に力が入ることが認識できます。

この中部と前部の力の入り方の違いをよく意識しましょう。

三角筋をよく使うことにより、音のしなやかさやフレージングのしなやかさを生み出すことができます。

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「完全なリラックス」と「腕の自然な重み」を認識できたら、今度は力の入れ方である「固定」を認識できるようにします。


「固定」というのは、決して必要以上に力んで筋肉をかたくするという意味ではありません。

必要最低限の力でものを支え、手の筋肉を固定するような感覚です。
重たいものであるほど、しっかりと固定します。
(物を持ったり握ったりするとき、その物に合わせて力と手の形を無意識にコントロールするのと似ています。)




⑵6つの関節

鍵盤に近い関節ほど、音に直に影響をあたえます。

【指先から肩までの6つの関節】
①第一関節 ②第二関節 ③第三関節
④手首の関節 ⑤肘の関節 ⑥肩の関節


第一関節から先は、鍵盤の一部のように考えます。
どんな圧力がかかってもしっかりと固定できるようにし、かつ、なめらかな音を出すために柔らかくもできるようにしておきましょう。

6つの関節は、
『指先に近いほど鉄のような硬いものでできていて、指先から離れるほどゴムのように柔らかく、しなやかなものになっていく』
というイメージを持ちましょう。

よく子どもに「指を丸めて指先は立てて弾く」と指導するのは、
指先がフニャフニャな状態だと指先のコントロールができないので、腕の重みを使った奏法を習得できないからです。
(逆にこの基本フォームをマスターすれば、その後は自由なタッチが可能です。)


((子どもの頃使っていたバイエルを見返してみると、曲の冒頭に「第一関節がグニャッと曲がった指のイラスト」がたくさん書かれていて、先生がしつこかった理由はこれかと納得しました😅))



❸指はどこから始まっているのかというと、第三関節ではなく、実は手の平の中から分かれています。
指は手首から始まっているという意識を持って、指の動きとそれに付随する手の平の筋肉の動きを感じとってみましょう。

演奏の際、手の平の筋肉は基本的に柔らかくしておきます。
そうするとほかの指(を動かす筋肉)が、打鍵している指(を動かす筋肉)に影響を与えにくくなり、良い音がえられるようになります。
特にモーツァルトなど、速いパッセージで柔らかな音色が必要な作品に有効です。

反対に、迫力あるダイナミックな作品でオクターブや和音を弾く場合は、音にばらつきが出てしまうので、手のひらの筋肉を固定します。


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道具のさまざまな動きを試してみよう

後述するさまざまな動きを、机の上で再現してみましょう。
それぞれの動作をするときに、筋肉や6つの関節をどのように使っているかをよく意識してみてください。

またそのとき筋肉と関節の、活動的な部分と受け身の部分についてもよく意識してみましょう。


⑴ 手を丸めて机の上に乗せます。
・「乗せる」…腕の重みがかかっている(上下)
・「さわる」…腕の重みがかかっていない

例として、ため息のアーティキュレーションでは、最初の音を弾くときは重みをかけ(乗せる動作)、次の音では抜きます(さわる動作に移行)。


⑵ ある距離まで腕を引き上げます。
・「落とす」…手や腕を落下させる
・「ぶつける」…落とす動作に勢いを加える
・「刺す」…全ての関節を固定し、尖った針で中まで突き破る

「落とす」動作だけでは、どこの筋肉も関節もコントロールされていないので、雑で聞き苦しい音になります。


⑶ 2人で向かい合い、人差し指で10円玉の引っ張りあいをします(こっくりさん?)。
・「つかむ」…この時の人差し指の状態
・「つかみとる」…手首の関節を一緒に使う

「つかむ」ときはどの関節からつかんでいるかを意識しましょう。
このとき腕に力が入らないようにします(三角筋の前部に力が入らないようにします)。

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画像右の方は第一関節が曲がってしまっていますね😇
最近の子になるほど関節が柔らかく、女の子より男の子の方が柔らかいのだそうで、いわれてみればそうかもしれないと実感しています。



ムダな力を使わず鍵盤の反作用を利用しよう

離鍵するときに指を戻しているのは、鍵盤の反作用であるということを意識しましょう。
鍵盤の力で勝手に戻ってくるのですから、わざわざ指を上げて(筋肉や関節を使って)離鍵する必要はありません。

弾き手の動き(作用)と、鍵盤の動き(反作用)を見分けることが重要です。

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次回はいよいよ、タッチに焦点をあて、多種多様な音色を生み出す方法について書いていきます。


今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


さくら舞🌸


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