⑷音色とタッチ9種類


『新版ソアレスのピアノ講座 演奏と指導のハンドブック』では以下の楽曲が、音色とタッチの実習課題として使われています。

J.S.バッハ インヴェンションの 1番 4番 8番
ショパン プレリュードの 4番 6番 20番


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”私たちがいくら動きを意識しても、「聴く」ことに神経を集中させないと、本当のコントロールはできません。……実際には理屈ではなく、耳で聴くことが、コントロールの一番の基本になるのです。”(p73)




①腕の重み ♪ショパン プレリュード第20番

まず腕を「落とす」動きだけをつかってこの曲を弾いてみます。

これに「指先のコントロール」を加えてみましょう。

[1]〜[4]のff
①ただ「乗せた」状態で弾く。
第一関節を固定した状態で、指を鍵盤に「乗せ」、
そのまま離さずに、腕の重みを鍵盤に伝えるようにして、脱力して打鍵します。
(ffにしては、まだ音が少し弱いです。)


[1]〜[4]のff
②「乗せた」状態に腕の重みを加える。

指を鍵盤に「乗せ」たまま、
今度は腕を高い位置から使って圧力をかけ、勢いよく落として鍵盤に入ります。
(ffの音がします。)


冒頭の音色を設定したら、
各和音が全く同じ音色で弾けるように、練習します。
タッチの練習とともに、聴く練習にもなります。


[5]〜[8]のp
・同じ弾き方で、ただし腕を「落とす」距離は先程のffより鍵盤の近くからにしましょう。
距離が近くなったことにより、自然に音が小さくなったことに注意しましょう。
[9]〜[13]のpp
・ppの場合は、ブレーキが必要になります。
打鍵スピードを遅くすることにより、音を弱くします。(後述)


ショパン前奏曲第20番





②指先の固定と圧力 ♪ J.S.バッハ インヴェンション第1番


最初のフレーズを弾いてみます。

Ⅰ. 圧力がない打鍵
単純に指を「乗せ」た状態で、指が下から糸で引っ張られるように打鍵します。
鍵盤の底についたらその瞬間に脱力して、あとは鍵盤の反作用にまかせましょう。

Ⅱ. 圧力のある打鍵
今の動きに少し圧力を加え、鍵盤の底に「ぶつける」つもりで打鍵してみます。
このとき、指は高く振り上げません。


両者の音色の違いを聴き分けられるでしょうか?
以下も同様に試してみましょう。


ⅰ. 指先を固定した打鍵
指先の第一関節を鍵盤に対して垂直に固定し、先程とまったく同じ手の形で打鍵します。

ⅱ. 指先を固定しない打鍵
次に関節をふにゃふにゃにして固定させずに打鍵してみます。


このように、圧力と指先の固定の度合いにより、何段階にも微妙に音色を変えることができます。


そして、音色を揃える訓練をしましょう。
完全に粒を揃えることのできる指と耳があって初めて、微妙な変化を聞き分けて表現できるようになります。


インヴェンション1番





③打鍵スピード ♪ J.S.バッハ インヴェンション第1番、第8番

指の根元の関節から打鍵してみましょう。
(手首はまだ使いません。)


♪インヴェンション第1番
指をできるだけ高く上げて、各指とも同じ距離、同じスピードで打鍵してみましょう。

第1指と第5指では太さが違うので、耳でよく聴いて音色を揃えましょう。
(メロディの各音を5回ずつ、指をかえて弾いてみる練習が効果的です。)


♪インヴェンション第8番
指をよく上げて、1音ずつ、上から勢いよく入り打鍵します。

鍵盤に「入る」指のスピードのコントロールの練習をします。
(同時に「出る」音にも注意して、音の粒を揃えましょう。)


このタッチの音色はかなり硬く、つやのある歯切れのよい音になります。
バロックからロマン派にかけて、ブリリアントな作品を弾くときによく使います。

(現代作品でさらに鋭い音が欲しいときは、手首を組み合わせて弾きます(⑦や⑨)。)



インヴェンション8番





④音を響かせるには ♪ ショパン プレリュード第4番


しっとりとしたカンタービレを表現したいときは「つかむ」動きを使います。

(「落とす」動きでは響きが物足りず、少し表現力にかけるからです。)


また「つかむ」動きでは、どこからつかむのかによって音量が変わります。
指先から→手首から→腕から、の順に音量が大きくなっていきます。


ショパン前奏曲第4番


[1]指先だけの打鍵と「つかむ」動きで弾きます。

[12][17]のfにむかって、徐々に手首→腕を使ってつかんでいきます。

[19]pなので、もう腕は使わず指だけでつかみます。

[25]最後のppの和音も、指先でつかんでよく響かせます。





⑤暗い音色 ♪プレリュード第6番の左手


打鍵スピードを遅くし、タッチに圧力をかけます。

また、指を寝かせて打鍵すると、音色がぐっと暗くなります。


ゆっくりした動きで鍵盤に入り、鍵盤の底についた後も圧力をかけ続けることによって、暗い音が出ます。

そして前の指に重心がかかっていると、次の音に重みをかけることができないので、ゆっくり押し込むことになります。
するとまた暗い音が出ます。これが繰り返されます。



⑥柔らかく軽い音色 ♪プレリュード第6番の右手


この和音は「さわる」タッチで弾きます。

指先を固定していない状態で引くので、腕をどんなに使ってもそんなに大きな音は出ません。


ショパン前奏曲第6番


[1]Sotto voceの指示があるので、アクセントはあまり深く考えず、できるだけ柔らかい音色で弾きましょう。

  また「二音間のスラー」にあてはまるので、最初の音に少し重みをかけ、次の音は抜くようにして弾きます。


⑤暗い音色のタッチで左手、⑥柔らかく軽い音色のタッチで右手、これらを両手で弾くと、

右手は全く圧力がなく、左手は圧力をものすごくかけているので、左右が全く別の音を出します。

音色を弾きわけるとてもよい練習になります😊





⑦鋭い音色(③の発展その1) ♪ J.S.バッハ インヴェンション第8番


③打鍵スピード では、高い位置からの打鍵を練習しましたが、
今度は指の動きに手首を加えて、音色の可能性を広げてみます。


指を1本1本動かすのと同時に、手首を微妙に動かして衝撃を与えます。
(動かすのが速いスピードになるほど、手首の動きは小さく目立たなくなります。)


❶まず、③のタッチを復習しましょう。
指を根元から高く上げて打鍵しますが、手首は使いません。

歯切れのよい音ですが、少し柔らかめの音色です。


❷次に、指を根元から高く上げながら、手首のバネを鋭く上下にきかせて弾いてみましょう。

はっきりした強い音で、激しい性格の作品にふさわしい音色になります。


❸今度は、手首からの衝撃を加えながら、指を鍵盤からあまり上げないタッチを試しましょう。

はっきりしていますがそれほど強い音ではないので、そこまで激しい性質を持ち合わせていない曲に使えます。


❹そして、音量を大きくするのだったら、手首から高めに上げてみましょう。

この動きは、オクターブのスケールを弾くのに適しています。





⑧重みの移動と手首の高さ ♪J.S.バッハ インヴェンション第4番


この曲では「レガートで柔らかいけれども、ふくらみのある太めの音色」が求められています。

次の2つのタッチを試してみましょう。


腕の重みを移動させる
→音が自然に、なめらかにつながります。

・指先を完全に受け身にし、腕の重みを最初の『レ』の音に乗せます。
    打鍵した瞬間に、次の『ミ』の音に重みを移動させます。(手首は使いません。)

これを次の音から次の音へと、続けていきます。
(人間が歩くときの、足の体重移動に似ています。)


手首の高さを変える
→cresc.、decresc.をつけられます。

・冒頭『レミファソラシ』と上がっていくとき、重みの移動を行いつつ、手首を低い位置から始めて徐々に高くしてみましょう。
自然にcresc.できます。(逆も同様です。)


インヴェンション4番


"ロマン派などのもっとスケールの大きな作品でダイナミックなフレーシグを作りたいときは、手首の高さを変える動きに加えて、膝や肩の横の動きを一緒に使えます。

三角筋をよく使って上腕の動きをしなやかにすることで、鍵盤に直接硬く入る弾き方を防ぎ、なめらかで表情豊かなフレーシグを作ることができるのです。" (p86)





⑨肘と肩で鋭さと太さを出す(③の発展その2) ♪ J.S.バッハ インヴェンション第8番


③打鍵スピード では指から、⑦鋭い音色 では手首から、歯切れのよい音色を生み出すタッチを練習しました。

最後に、を使うことで同じような効果を得られる奏法をみていきましょう。


♪インヴェンション第8番 
・手首から先を固定して、肘を使って弾いてみます。
(指から弾くのと手首から弾くのとでは、音質がまったく異なります。)

余計な力を使わなくても、腕のどの部分を使うかによって、自然に音質をコントロールできます。


オクターブのスケール
・手首から弾くのと肘から弾くのとでは、やはり音質がまったく変わります。

・きつく激しいオクターブが欲しいときは、以下の姿勢で弾いてみましょう。
1.  手と手首を固定させ、
2.  上腕と前腕を90度にし、
3.  肩と肘が120度に少し広げます。
かなり強い太い音でも、余計な力を加えず自然に出すことができるでしょう。





この本には「重み」という概念がよくでてきますが、
「重みなんて大したことない」と書かれた奏法の本もありますし、

「ロシアピアニズムの奏法では打鍵スピードが一貫して速い」
というのを何かの本で読んだ記憶があります😦


…こういった本は、

「『良い音楽を奏でる』という結果を得るためにはあらゆる方法を試し、使えるメソッドは何でも使う」

というような考え方が、正しい付き合い方なのかもしれないと思いました😄

すべては良き音楽のために…ですね笑




今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます!🎶


さくら舞🌸

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