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「キスは追加料金で」はしゃぎすぎてしまった非日常のラブホ

やったわ。わたし。とうとう渋谷にもお城を見つけてしまったわ。

22時。ちょうど、ラブホテルは宿泊でチェックインできる時間帯だ。ラブホ街として知られる渋谷円山町は、すでにラブホテルの光で暗闇が賑わっている。私と当時の私の恋人は、さっきから、同じカップルと何度も鉢合わせていた。そのカップルは、ラブホテルのロビーに出たり入ったりして、「高くね?」とか「もうちょっと他見ようよ」とか、大きな声で口々に言いながら、円山町のラブホテル街を歩き回っていた。

なぜ、私たちが、そのカップルに何度も出会すかというと、私たちも同じように、円山町のラブホテルを物色するために歩き回っていたからだ。私は、そのカップルと出会すたびに、また会ってしまった……と思い、下を向いていたが、カップルの方も、私たちを見るたびに二人で顔を見合わせて恥ずかしそうにしていた。

渋谷には、円山町の方にも道玄坂の方にもラブホがたくさん。建物に入るとまず、部屋を選ぶことのできるタッチパネル。その場で、お気に召す部屋があればチェックインなんだけれど、ラブホに慣れていなくてあたふたして焦っていると、建物を出て、また新たにいいところを探すのが面倒で、高かったり、心がときめかないような微妙な部屋で妥協したりしちゃうでしょ。

でもそんなんじゃダメ。ラブホテルは探すところからがデートだ。旅行は計画を立てている時が一番楽しいように、ラブホテルも、どの部屋にするかラブホ街を探し回っている時が一番楽しい。それに、最近気が付いたけれど、ラブホテルは高い。私は、「ラブホテルは私のディズニーランドだ」と言っているけれど、「ディズニーランドよりラブホテルの方が時間当たりの値段は高いじゃん」とこの前言われてしまい、私のラブホに対する値段感覚が完全にずれていることに気がついた。だからこそ、やっぱり微妙な部屋で妥協してはいけない。たくさん出入りして、自分のお気に入りのところを見つけなきゃ。

今日、十軒以上のホテルを見て周り、辿り着いたのは、『HOTEL DIXY Inn』。レトロアメリカンなロビーと、パネルに映る101号室の豪華さに一目惚れして、即決。値段も宿泊8500円で高くない。

ロビーには、コカコーラの自販機や、レトロなバイク、ジュークボックス、昔のガソリンスタンドのインテリア、それに素敵な受付のお姉さん。

保湿力の高いシートマスクをカギと一緒に手渡しながら、お姉さんが「部屋は二重扉になってるから、内側の扉もしっかり閉めてね」って。なぜ、ラブホの部屋の扉は二重扉になっているのかしら。ちゃんと閉めないと声が漏れちゃうから? スタッフが届け物をする時のため? 一度、ラブホテルのベッドで寝ている時に、火災報知器が鳴ったことがある。すごい音で、今から火事に巻き込まれて、私死ぬんだわととっさに思った。ラブホテルで裸のまま遺体として見つかるなんて死んでも死に切れないと、私たち二人は慌てて服を着て、絶対無理に決まっているのに、三階から飛び降りる準備をした。

結局、火事ではなかった。ドアを閉めないでお風呂に入った他の部屋のカップルのせいで、廊下の火災報知器が反応したらしい。どうして、二重扉になっているのに、どちらも閉めないことがありうるのかしら。

そんなことを思い出しながら、部屋に入った。

声にならないくらい嬉しかった。なんと言っても素敵なのはそのインテリア。広いカウンターと、真っ赤な皮でできたビッグなソファ、テーブル・フットボール、デュークボックスカラオケ機、スロット、大きな鏡。こんなところに一緒に住んでみたいね、8500円でこれは素晴らしすぎるね、と二人で大興奮。

あとで調べてみたら、ここはパーティールームとしても貸し出していて、最大10人まで入れるんだって。そりゃあ、豪華なはずだわ。8500円でセンスの良いパーティールームに泊まることができた。こんな素敵なところ、たくさん歩いた挙句に見つけられるなんて。ああ、宝探し。さっきのカップルは、いいところを見つけられたかしら。

椅子が三つ並んでいるカウンターでは、「お客さん、飲んできませんか?」「お、じゃあ飲んでいこうかな」「ご注文は何にします?」「君を注文するよ」。

二人で入るのにぴったりな広い浴室では、「お客さん、髪洗いますね」「お願いします」「お客さん、キスは追加料金ですよ」「払うのでキスさせてください」。

みたいなことを、はしゃぎすぎてやってしまった。非日常な空間って、いつもだったら馬鹿みたいと思うことを不思議と自然にできてしまう。やっぱディズニーランドに行くと、大きなミッキーの耳をずっと付けて歩いていても全然恥ずかしくないじゃない? ジェットコースターで、大声で叫ぶのだって、恥ずかしいどころか気持ちがいい。そんな感覚。

それにやっぱり渋谷はいいわね。次の日の朝、二人の予定があっても渋谷からだったらどこへでも大体すぐ行けちゃうから。でも、近いからといって油断して、アラームをかけなくても大丈夫かぁって、腕の中でぬくぬくそのまま寝ると大体遅刻するのよ。気をつけてね。

【まとめ】『HOTEL DIXY Inn』の101号室@渋谷円山町(廃業……)
・おすすめ度:◎
・タイプ:レトロアメリカン
・料金:○(平日休憩6500+税、平日宿泊8500+税、ホームページに500円クーポンあり)
・アクセス:渋谷から徒歩8分、神泉から徒歩3分
・デート:○(デートでもテンション上がるけど、女子会やパーティーとして使うのも素敵!)
・コンドーム:1つ普通(だったような気がする。自分で用意しよう)
・お風呂:○(広くてジャグジー)
・アメニティ: 申し分なし
・テレビ:○(もちろん、AVも映画も大画面で観られる)
・Wi-Fi:おそらくなかった
・特徴:レトロアメリカン、パーティーサイズ、三人用カウンター付き

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