フィクション日記

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ノート

生活

実家に帰ってピアノを弾いたり、珈琲を飲んだり、紅茶を飲んだり、カステラを焼いたりしている。

こうやって書くと優雅な感じがするが、生活に溶け込んだそれらに優雅さは一ミリもない。

それでも家の周りの夏の匂いだけがわたしの夏を夏たらしめている。アブラゼミの鳴き声に、8月も半ばになってようやく夏を実感した。

毎年夏の記憶なんて忘年会に持って行くまでもなく忘れてしまうけれど、五感は夏を覚えているのかも

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いつかの思考

「いそいそ」「気が置けない」「生活が楽になる」

これらの言葉について、例文をそれぞれ作ってみてください。と、先生が言った途端ざわめきが教室に満ちた。

「いまは喋るのではなく個人作業です」というセリフ、まだ2回しか受けてない授業なのに何度も耳にしている。みんな赤毛のアンなのかもしれない。

「もしかしたらこの言葉を初めて見る人もいるかもしれないし、初めて使う人もいるかもしれないけど、そういう人は

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ワンシーン

人生にBGMをつけたら映画みたいなもの。

映画は好きですか。

わたしは自分の感覚が大好きで、言語化がひどく苦手だった。感覚を感覚のままにしておきたかった。どこが好きとか此処がいいとか言うよりも、「なんか好き」を抱きしめていたかった。

近頃はやっと感覚を感覚のまま地続きに言語化できるようになった気がしている。

映画を友達と見るようになったのは大学生になってから。大学生。思い返しても最高の日々

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夏への手紙

夏が来るたび記憶が蘇る。

頑なに長袖で通った学校、通学路ドキドキしながらさした日傘。

高校校舎チャペルセンターにてソファで昼寝、昼休みランチのお弁当も喉を通らないミーティング、ヒリヒリした室内の空気。

炎天下の街頭署名。拡声器で声を張る元安橋、チャペルとチャペルセンターをウィダーインゼリーくわえながら往復した夏休み。

引きこもった夏休みは実家の記憶、キンキンに冷えた部屋から廊下に出た時の生

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雨と記憶。

ボールペンで書き殴ったみたいな雨の日。

身体が大気中の水分を含んだみたいに重い。
インスタのストーリーを流し見する気すら起こらず、イヤホン越しの赤ちゃんの泣き声とか、瞬きするたびに主張する目の乾きとか、そういうのにぼんやり意識が向いて、とにかく身体が重たい。

体力がないんだと思う。
金曜日、朝6時まで働いた(働かされた)ツケがぐるぐるとまわっている。疲れたという言葉を体感している。

電車待ち

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いつかの日記

自分でつけた香水の匂いとか、素足でつっこんだパンプスの中の小指とか、手のひらに残ったワックスとか、変な癖のついた前髪とか、そういう全部を抱えて電車に乗る。

昨日最後に時計を見たのは1時過ぎ。講義は午後だしアラームをかけずに寝ても大丈夫か、と思って起きたら12時だった。よく寝るものだ。

結局食器を洗う暇なくばたばたと家を出る。この分だと4限は微妙に遅刻。生活をするのは難しい。

先日、後輩のライ

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エナメルパンプスのち雨。

久しぶりにヒールのある靴に足を通す。
足を通すという表現はいいな。

黒のエナメルパンプスには思い出がある。買ったのは高校三年生の春。ピアノの発表会用に買ったものだった。

上京してくる時広島から持ってきた靴の一つで、思えば一年生の頃はその靴ばかり履いていた。

背伸びしたヒールは気合を入れ、そして美しく見せてくれるような気がする。

もちろん今日足を通したのも気合いを入れるためだった。ヒールを履

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雨の日記

今日は一日雨が降っていた。

前日の夜、お菓子を作ろうと思っていたことを思い出したのはお昼過ぎだった。ああよかった、スーパーに行く道の途中には働いていた塾があって、いつも顔を背けて歩いてしまう。

生徒や先生に目撃されるのは、あまり好きじゃない。

そんな塾も昼過ぎしばらくしてから開校だから、などと思っていたら今日は土曜日。もう開いていた。

でも雨だからいい。

雨の日、散歩くらいはわくわくする

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